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魔王降臨

 俺はフェレッカにいるはずのシロロに呼びかけた。

「シロロ!どこにいる!今すぐ戻って来れるか?」

 しかし、彼からの返答は何もない。

 それどころか、彼の存在も感じられないのだ。

 辺りは俺の領地に近づきつつある魔物による水蒸気で白く濁り、地面はそれのすさまじい重量を受けていると悲鳴を上げている。

 ズシンズシンと、俺の足裏にその振動を伝えるのだ。


「助けも無い。しかし俺にはお前達がいる。道連れにしておいて申し訳ないが、俺はお前達を道連れにできる事を幸せに思うよ。」


「あなたにそう言っていただけて、竜騎士の誉ですよ。団長には申し訳ないですけれど。」


「いや。俺も一緒に死ぬさ。避難どころか領民一人も俺は言い聞かせられなかった無能の男だ。彼らは避難どころかあなたと一緒に死にたいと、第一の城壁に出てきています。せめて、彼らの盾になるぐらいは許してください。」


 俺はアルバートルの言葉を聞いて、ぎゅうっと絶望に目を瞑った。

 行き場のない彼らを引き留めてこの領地に取り込んだのは、一人では寂しいからという俺のエゴでしか無かったものを、と。


「……結局俺は領民全員の命を奪うのか。」


「いいえ。あなたのいない世界で生きていたくないだけです。そして、ダグド様。わたくしは諦めません。私達も一緒に戦えば勝機があるはずです。」


「君はいつだって俺に与えるばかりだ。素晴らしいよ、エレノーラ。俺の右側に立ってくれ。君は今から俺の妻だ。何も与えられなかった夫だが、今少しだけ俺の手を握ってくれないか。」


 俺の手はエレノーラの温かい手に捕まれ、え、温かい手ではなく俺の手はぎゅうっと冷たい何かに引っ張られている。

 靄の中で横を見ても、エレノーラが俺の横に立つ影なども無い。


「あれ、エレノーラ?」


「きゃあ、ダグド様!」


「どうしたの!」


 俺はエレノーラではない俺の手を掴む者を確かめようと右手を上げ、俺の腕に触手を絡めてぶら下っているにろにろ姉妹の片割れと目が合った。

 魚のような真っ黒い眼をした、フィギュア人形のような顔立ちの幼女。


「コノクソガ!」


「あれ、グリフィンか?どうしたの。エレノーラは!」


「ここですわ!きゃあ、どうして暴れるの。アーウィン!」


 俺は右腕のグリを肩に乗せ上げると、もう一人のにろにろの片割れに地面に引き倒されてしまったエレノーラに手を差し伸べた。


「さぁ、俺の手を掴んで、エレノーラ。」


「ダアグドダグドダグド。」


 俺の手は再び冷たい触手に捕まれ、俺は大きなため息を吐き出した。

 そして、面倒だとアーウィンを頭の上に乗せ上げると、今度こそエレノーラの手を掴んで彼女を引き寄せた。

 彼女の目元は涙で濡れて真っ赤だが、俺が今まで見た事もない幸せそうな輝きで青い空色の瞳を輝かせていた。


「君は美しい。それなのに、最後の最期でこんな変な状態の男でごめん。」

「ふふ。それでこそダグド様ですわ。」

「笑ってくれてありがとう。これから笑っていられないだろうけどね。」

「いいえ。あなたがいる限り私は笑っていられます。」


 俺達は長年の夫婦のようにふふっと笑いあった。


 さて、そんな俺達に対して、既に敵影は俺達の数十メートル先にまで近づいてきている。

 フシュウフシュウと水蒸気を噴き出しながら、ズシンズシンと地響きを立てながら、俺達へと向かってくる巨大な死神だ。


「でかい図体で恥ずかしがりやなのか?姿を見せないのならば、俺が今すぐそのベールを剥ぎ取ってやるよ。インペティスウエンティー!」


 俺の突風魔法はいまだかって無い程の風を生み出し、曇ったガラスを拭いた時のように真っ白な靄は一瞬で拭い去られた。


 目の前にいるのは蛸足の触手を持った、巨大な真っ白い怪獣という、伝説のクラーケンそのものだった。


 そして、


 そして、その怪獣の天辺には、シロロとフェールとカイユーが乗っていた。

 物凄くワクワクした顔をした三人は、俺と目が合うと「しまった。」という表情に変えた。



「この馬鹿者がああああ!」



 俺の怒鳴り声に対しての返礼か、クラーケンは俺達に海水をぶちまけた。

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