帰還
モニークとエランは十数分後に戻って来た。
「ダグド様!こんなところまで!」
俺は声を上げるエランに右手に持つバッテリーの箱を持ち上げて見せた。
「あぁ、そっちですか。」
エランの操縦する黒竜号は、俺の立つ第一城門手前の岸へと船を寄せた。
「ほら、モニークは降りといで。エラン、君はもう一回西の森へ頼む。」
「当り前ですよ。」
「後でちゃんと抱きしめてやるよ。」
「ハハハ。楽しみですね。」
俺は持ってきたバッテリーを黒竜号のそれと交換し、俺と一緒にここまで出て来たエレノーラとシェーラはモニークの下船に手を貸し、そして、エレノーラはモニークを我が子のように抱き締めた。
そしてエランはモニークが降りるとみるや、再び黒竜号を西の森へと回頭させ、そのままアルバートル達の回収へと森へと発進させた。
「ダグド様!ごめんなさい!」
俺は俺の懐に飛び込んで来たモニークを抱きしめ、既に小さな点となった黒い船に呟いていた。
「エラン、頼んだよ。」
「あぁ、あの二人は!」
「まだ怪我一つないよ。エレノーラ、モニークを頼む。それからシェーラ。君はモニークに瘡鬼による怪我がないか診ることがことが出来るね。頼んだよ。」
エレノーラが母性を発揮して彼女の子供同然のモニークを俺の腕から引っさらうのはいつもの事だが、シェーラはいつもと違ってきらっとした目で、顔付は自信に溢れた表情なのである。
「任せてください。」
「シェーラがいてくれて助かったよ。」
彼女はフフッと笑うと、彼女の先に行ってしまったエレノーラ達を追いかけた。
俺は娘の安全にほっと胸を撫でおろすと、自称息子達に意識を切り替えた。
アルバートル達は敵を斬り捨てながら川岸に向かって走っている。
俺も使える木の根を彼らのガードへと使ってはいるのだが、敵の数が多すぎて彼らを守り切れないのである。
森の空気は淀んでいて、いつもの突風魔法も使えない。
「イシュ、フシュレルンガ、バラディカ、デデン。」
「ファイアーボールか。俺も燃やすか。」
「ダグド様。あの武器は威力がありますけど反動がありますから使いませんよ。ここで足を止めたら俺達はお終いだ。」
「わかっている。俺が領地から火を吐けるのかやってみようかなって、ね。」
「巻き込まないでくださいよ。」
「経験値の為だ。頑張れ。」
青年達は俺に不敬どころでない罵りの声を上げた。
「さぁ、本当に、どこまで俺はやれるのかな。」
俺は黒竜に体を戻しながら、自分の体が空っぽだと皮肉な笑い声を立てていた。
俺の体のほとんどは、火山エネルギーと水脈のエネルギーを抑え込んでそのエネルギーを利用するという、この領地に電気を供給するためのボイラの材料にしてしまっている。
そうすることで俺はこの領地に縛り付けられた虜囚となれるのだ。
人を喰らった自分自身への戒めの罰だが、俺の勝手なこの行為によって、領民はもとより世界の破滅を招くフラグともなっている。
俺のボイラが制御不能になった時、ここで大きな水爆が起きるのだ。
「大丈夫だ。世界を破滅させるような火を吐くわけでは無い。」
問題は、張り子の竜の吐く火の吐息が、アルバートル達を守れるところまで到達できるのか、それだけだ。
それにしても、竜となって天に昇るのは、なんとも小気味がいいことか。




