ピグミーグールの襲撃
五キロ地点の到達した黒竜号の乗船者達は、俺の作った道に驚きながらも黒竜号を川から陸上へと乗り上げた。
「うわ、すごっ。」
エランが出した感嘆の声が、初めて聞いたという程の若者言葉であった。
それもそうだろう。
ジャングルの下草はその葉や茎を横に倒し、生えている木々は幹を捩じって船が通れる空間を開けているのだ。
「ダグド様。何ですか、この船は。丸太が横に転がっているようなこんな道を普通どころかスピードを持って進みますよ!」
エランは子供のように船の下を覗き込むようにし、操縦しているイヴォアールなどは、自分が何をしているのか見失っているほどだ。
しかし、百鬼眼システムを持つアルバートルだけは違っていた。
彼は周囲を索敵していたのである。
俺の見たものが会議室のスクリーンに投影されるように、彼の百鬼眼システムによる映像もスクリーンに投影されるようにしてある。
敵を示す小さな点は、黒竜号が進む数メートル先の道の左右に固まっていた。
その二か所から、同時に同じ呪文の声が響き渡った。
「ン、バラディカ、デデン、ン。」
「ダグド様、炎が来ます。」
画面をのぞくティターンが呟いたが、俺は敵の賢さに驚きだ。
「違う。道を封じたんだ。」
メキメキメキザザザザアアアアアアン。
敵の炎の術によって大木の根が破壊され、大木が道に向かって倒れてきたのだ。
「イヴォアール、逆噴射だ!」
アルバートルの命令で黒竜号は緊急停止用のレバーを引き、倒木に衝突はしなかったが、船体は大きく上部へと持ち上がった。
「エンジン全開!グロブス召喚!グロブス解除!」
「すごいな、アルバートルは。」
彼は直立してしまった船体を自分の呼び出した大砲の重量で無理矢理押さえつけて水平に戻し、そして、イヴォアールに加速させることで黒竜号に倒木を乗り上げさせて滑空させたのである。
「団長が動かなかったらダグド様はどうされていました?」
「うん?ぶつかる前にプーグヌスで持ち上げようかなって。でも、こっちの方が見ていて楽しいね。残しておきたい映像だよ。」
「確かに。ダグド様はこんないい席で俺達を覗いていたのですね。」
「応援って言ってよ。」
「あ、クッキーいかがですか?」
「あ、貰う。ありがとう。ティターヌと一緒は楽しいね。アルバートルは現場に出たがっているし、君がいつもここに残る?」
「あ、いいですねぇ、それ。」
「ダグド様!」
普段は会議室を自分のプライベートルームにしている男が、自分の戦闘を覗きながら寛いでいる俺達に怒号を上げた。
俺はアルバートルを揶揄うのは意外と好きだ。
「どうした?」
俺は笑い声でアルバートルに答え、笑ってはいられないと観念した。
「すごいな。何匹いるんだろう。」
長い槍を構えた小人達が、前方の道を真っ黒に塗りつぶしているのだ。
「ヌダニエティエダニエティンバ!」
それが号令だったのか、空からも一斉に小さな悪魔が降り注いできた。
木々を伝って飛び跳ねて来たのだろう。
アルバートル達は絶体絶命だ。
「グロブス召喚!」
エランとアルバートルは同時に叫び、彼らはショットガンを空と前方に対して撃ち始めた。
威力はあるが、所詮は手動のポンプ式アクションだ。
次弾を撃つまでの間が敵に逃げる間を与え、撃ち漏らしたピグミーグール達がバラバラと黒竜号に乗り込んで来た。
「エラン!操縦を代われ!団長は伏せたまま前方を!」
怒号を上げたのはイヴォアールだ。
彼は剣を引き出すと、つむじ風のように剣を煌かせ、小型の化け物を黒竜号から虫のように払いのけた。
バシュン。
アルバートルは、畜生、まず黒竜号の前方シールドの一部を撃って壊すと、そこからショットガンの銃身をギリギリまで突き出した。
そして、彼らの目前に広がる真っ黒な絨毯へと撃ち始めた。
西の森で俺が使える魔法は限られている。
俺は手に汗を握って彼らを見守るしかない。
ぐっと拳に力を込めて意識を集中したその時、俺とティターヌの背後で大きなものの壊れる音が響いた。
「そいつらの槍に気を付けて!」
アルバートル達に注意を飛ばしたのは、俺の五人乙女隊の一人、黒髪のシェーラであった。




