俺の真実とシロロの真実②
俺はテーブルの真横の壁にある、両開きの木製の窓を開いていた。
開かれた空間には汚れた皿を下に運んでいる為に何もないが、稼働中の太いワイヤーが二本ほどその姿を見せている。
「あ、さっきまであった棚が無い。」
「水差しの代りに汚れた皿を片したからね。汚れた食器は召使がいる調理室に戻ったはずだよ。」
「え?」
確かにこの扉に欲しいものを書いたメモを入れ、次に開ければメモの物が出てくるのを目の当たりにすれば、何も知らない人には魔法にしか見えないであろう。
「これはね、調理場から広間へと、えぇと、部屋と部屋の間を上下に動く箱って奴。それで食事も空になった皿も運んでいるんだ。召使達は城の別棟に住んでいるんだよ。彼らは毎日調理場に通って料理や食器洗いなどをしてくれるのだけどね、料理をここまで運ぶのも遠いし、何よりも俺の住居部分に入り込んで欲しくないから実際の行き来は彼ら側から出来ないようにしてあるんだ。それでエレベーターをって、あれ、でも知らないって。君達は俺を討伐に来た時に城の内部を徘徊していたんじゃないの? いや、それよりもどうやってここに入り込んだの?あれ、俺の知らない隠し通路がまだあったかな。あはは」
畜生、自分でシロロに城の秘密を告白しているじゃないか。
可愛いはとんだ自白剤だ。
「いえ、あの。あの、僕達はここに直接来ました」
「直接?」
シロロの話では大昔に廃墟となった街と繋がっていたポータルが俺の城にはあるらしく、彼等はそれを使用して俺の眼前へとやって来たらしい。
現代でもテレポート技術は無いのに、この魔法世界という奴は!
「で、そのポータルって、どこ?」
俺が尋ねると、シロロはぎゅうっと眉根を寄せて困った顔を作った。
勇者達をカモだと嘯いてはいたが、やはり一度でも仲間だった者達への裏切りは出来ないという義理堅さなのかと、俺は少々だけシロロを見直した。
ほんの少々だけ。
本気で俺の子供として生きる気らしい彼は、三度の飯に昼寝を当り前のように享受し、そして俺に纏わりついては俺に自分の面倒を見させて悦に入っているという物凄い不良債権なのである。
「今までに一度も気づかなかったのですか?」
「何だ、その物言いは。いいから言えよ」
彼は広間の隅にある、俺の大事な物干しを指さした。
そこには俺の洗ったばかりのカーキ色のツナギの作業着と俺がシロロに作ってやったアラブの男性が着ている民族衣装に似た水色の服、それらが乾燥中で、ひらひらと俺をあざ笑うように揺れていた。