モニーク捜索隊
「モニーク、無事か?怪我は無いか?」
数十分ぶりに通信が可能になった彼女は、色ガラスのついた帽子は取っており、帽子の為に結っていた髪の毛も解いていた。
真っ赤な髪は緑色のジャングルの中で美しく輝き、小さな鼻の頭に散るそばかすさえも彼女を可愛らしく見せるだけのアイテムだ。
つまり、彼女はそこらにいない美女なのだ。
そんなモニークの美貌は、いまや小さな女の子同然だ。
心細さから泣いていたのか、彼女の両頬には涙の痕と、涙を泥で汚れた指先で乱暴に拭ったようにできた茶色の筋が出来ていた。
俺は今すぐあどけなく哀れなモニークの元に駆け付けて、大丈夫だと彼女をあやしてあげたい気持ちだった。
黒龍ダグドへの生贄として幼いころに捨てられた彼女は、俺とエレノーラによって育てられ、いまや俺達の娘のようなものなのだ。
まぁ、二十六歳のエレノーラには妹、だろうが。
俺の娘は子供のように鼻をスンとすすり上げると、ごめんなさいと俺に謝った。
「どうして君が謝る。すぐに君の迎えを出す。心細いだろうが頑張ってくれ。」
「いいです。あたしはここにいます。この飛行機と一緒にいます。あたしが壊したんです。」
「君は被害者の方だろう。――って、君も協力したんだね。今日はいつもとルートが違った。時間も昨夜のうちに少し遅らせるってメモもくれたね。」
「ごめんなさい!だって、あたしはエレ姐とダグド様が結婚してくれたらいいなって。そうしたら、あたしはダグド様を思いきれるじゃないですか!」
俺は自分の顔を両手で覆った。
俺の生贄から俺の大事な乙女となった一号はエレノーラで、そして、モニークのほかにあと四人の美女たちがいる。
俺は彼女達を娘としか考えていないが、彼女達は俺に恋してくれているという、ありがたいが申し訳なさと早く良い人を見つけてくれというお父さんの心境でしかない。
いや、ここは決断するべきだ。
今後、このような悲劇を繰り返さないために。
「モニーク。直ぐに助ける。旗は立てているな。そこを絶対に動くな。」
「い、今すぐに立てます。」
「どうしてそれをすぐにしない!」
ダグド領を表わす旗を立てると、半径五メートルは俺の陣地となれる。
他国の領地だった場合は侵攻か友好により立った旗というフラグが必要だが、旗を立てることで少々の防御シールドにはなるのである。
また、西の森は悪魔の森と呼ばれる無法地帯だ。
誰のものでもない以上、俺の旗魔法は完全に有効となるのである。
彼女が旗を立てた事で、彼女の周囲が俺にもっとはっきりと見渡せることになり、彼女が背を持たれかけさせている飛行機の残骸も俺に見せつけた。
「モニーク。お前は本当に怪我は無いんだな。」
彼女は俺に何度も頭を上下させた。
「それじゃあ、モニーク。右手を上げて、その手の平で自分の頭をポンと撫でろ。今は俺がしてやれないからな。助けが到着するまで頑張れ。」
彼女は俺の言葉に大きな水色の瞳を輝かせにこっと笑ったが、すぐに顔をぐしゃっと歪ませて涙をぽろぽろと流し始めた。
「この子を置いていけない。」
「安心しろ。その飛行機の持ち帰りは、カイユーとフェール、そしてシロロの罰ゲームにする。あと、アルバートルのね。君はもう十分罰を受けた。大丈夫。飛行機が戻ってきたら俺が直す。俺が直せないパイロットの君は無事に帰ってきなさい。」
「はい!」
ここで一旦モニークとの通信を俺は遮断すると、俺の言葉を全部聞いていたはずのアルバートルに振り返った。
「アルバートル。モニークの救助隊を今すぐに出発させる。モニーク救助担当はイヴォアールに。ティターヌは君と君の副官がいない間の統括者にする。」
アルバートルは片眉をくいっとあげると、他人事のように俺の命令を受け入れて、そして他者をも自分の罰ゲームに引き入れようとした。
「エランはどうしましょう?」
「エランはここにいるのか?あいつこそシロロに連れていかれなかったのか?」
「真面目君ですので。拘束して部屋に押し込めました。」
「ひどいな、君は。せめて乗り物全般が駄目になった彼を匿ったぐらい言葉を飾ったらいいじゃないの。」
「うーん。彼はあなたに密告すると騒ぎましたからねぇ。」
「……本当に酷いな君は。可哀想だから君が連れていけ。森の中は俺には見通せないからね、人数はいた方がいいだろう。」
「確かに。ですが、あなたもひどいですよ。失恋したあいつを失恋相手の救助に向かわせるのですからね。」
「で、君がモニークの救助係になる?駄目だね。君が救助するのは飛行機だ。ちゃあんと持ち帰るんだよ。君の部下の恋愛成就の為に。」
「ハハハ。」
「ははははは。」
俺達は互いにいつもの棒読みの笑い声を立てると、それぞれがやるべきことに戻った。
アルバートルは救助に向かう西の森対策の準備であり、俺は彼らを送り出す乗り物の準備である。




