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コポポの秘密

 あの後俺を捉えて離さない罪悪感や敗北感が消えてなくならないのは、俺がもう少し彼の国を気にかけていたら、俺は生きているあの御仁との時間をもう少し手に入れられたのではないかと思えてしかたがないからであろう。

 彼は、この世界で俺が久々に感じた、爺さん、という相手だったのである。


「いいじゃない。俺はあの爺さんが死んで悲しいんだよ。凄いじゃないか。自分の民を助けるためだけに、死んだ彼は妖精を集めて一夜だけ再生したんだよ。俺はあの人が大好きだったからね、彼が亡くなっていた事がとても残念なんだよ。」


「わかりました。この俺でも今理解できましたっす。」


「わかってくれたか!」


 俺とカイユーは立ち上がると机越しに抱き合い、フェールが立ち上がる前に腕を解いて座り直した。


「あぁ、ひどい!ダグド様もカイユーもひどい!」


 フェールは机に突っ伏して嘘泣きをし始め、俺は面倒くせぇなと、彼の頭をなでてやった。


「おまえ、頭洗えよ。ねっとりしているぞ。」


「ひどい!」


 フェールは会議室を飛び出して駆け出して行った。

 たぶん、シャワールームへと走ったのだろう。


「あ、待って!フェール!」


 カイユーも飛び出していき、会議室はしんと若者二人が消えて静かになった。

 アルバートルは腕を組んで居眠りをしているようにして、気味が悪いぐらいにじっとしているのだ。


「君、二日酔い?」


 アルバートルはこれ見よがしにちぃっと舌打ちをして見せた。


「ねえ、ダグド様。こぽぽ死なないのに、死んだの?」


 シロロが俺の袖を引いて首を傾げた。

 俺はその可愛らしさに普通に抱き上げて膝に乗せた。


「どういうこと?」


「え、コポポでしょ。適当になると若くなるの。ぐるぐるぐるぐる。アリになってアスランになって、アールになって、またアリになるー。」


「え、じゃあ、アスランは生きて?」


「うーん。今は違うの。一周してアスランに戻っても同じようで違うかも、です。」


 俺はやはりあの御仁とは会えないのか。


「あぁ。それじゃあ現王の名前がアール・アスラン・アールという事は、彼は失敗したアルの名を捨てたって事ですか。ああ、そういう事か。しっくりきた。」


 納得したような声音の団長の言葉だが、俺が、というか教会関係の設定は前世の友人によるものなので、俺にはわからないことが多いので疑問符しかない。


「すいません。皆様方。失敗した時のアリってなんでしょう?」


 へりくだって尋ねた俺に親切に教えてくれたのは、魔王様でもアルバートル様でもなく、元司祭見習いで善良だけれど不幸ばかりの男であった。


「はぁ、うぅ。教会の偽物の太陽を落とした伝承では、うう、教会の教えを信じて女神を射殺した男がアリという、うぐっ、な、名前です。」


「はい、ごほうび。」


 俺にはくれないくせにチョコを齧っているシロロは、俺には二粒目もくれないくせに、エランには三粒目のチョコを差し出していた。


「おい。どうしてエランばっかり三粒だよ。」


「俺がまだまともに飯が食えないからでしょう。」


 エランは俺に顔をあげたが、彼の美しい青緑色の瞳は真っ黒なクマで彩られて、頬などは骸骨のようにこけている顔で俺を驚かせた。


「うぉ。君はまだ体調が戻らないんだ。」


「まだ、世界が回っている感じです。うぅ。」


 彼は口を押えて立ち上がると、会議室を物凄い勢いで飛び出して行った。


 彼はサラマンダーを倒さねば地上に戻れないと、本気で必死にサラマンダーを射貫いていたのだというが、シロロには絶対に遊んでくれるお兄さん認定されてしまったので、今後も彼には悪夢でしかない、また、があることは確実だろう。


 なんて可哀想なエラン。

 だが、人を見送るばかりの俺はもっと可哀想だ。

 俺は今さらにわかり切った事を悲しく思いながら、エランの後ろ姿を見送った。

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