3, 幼馴染
彼の後を追って廊下を歩く。
(気付いて、ないんだよな?)
うーん、と一人悶々と考えていると、ふと廊下、というか周囲が騒がしいことに気付いた。ちらりと聞こえた会話を頭で一周させ、そっと前の彼を見る。…まあ、要するに、顔が良いからキャーキャー言われてるってやつ。
(顔はいいからなー。)
苦笑していると、振り返ってきた彼が口を開いた。
「これ、他人のふり、しといた方がいいのか?」
油断していて、固まってしまった。
「え、えーと、何のこと?」
すると、彼は嘲笑うかのように
「竜道 涙、だなんて、珍しい名前そうそういるわけないだろ。」
フンと鼻を鳴らし、再び前を向いた。
「…そうだね、日早貴君だって、珍しいよね。」
そう、言ったとき、彼はものすごい顔をした。なんだろう、あの、奇跡を目の当たりにしたような…?いや、違うな、これは、天変地異を目にした時の顔だ。
そんな表情でいい放った言葉が、
「お前に名字で呼ばれるとか気持ち悪い。人生で一番鳥肌たったわ。」
だった。いや、これ、人間違いだったら、変人確定だぞ。
「ふざけんな、こっちだって好きで呼んでない。」
思わず、悪態をついて、ハッと我に返る。すると、さっきまでの表情が嘘のように消え、ニヤリと口元を歪めた彼は機嫌良さそうに前を向いた。なんだか、してやられた気がして気に食わない。
「ていうか、なんで分かったのさ。」
すると、彼はお前バカ?と言わんばかりの顔で言い放った。
「あんだけ顔合わせてれば、忘れたくても忘れられないだろ。」
…なんで、俺がバカにされてるんだ。分かんないでしょ、普通。
女が男の格好してたらさ。
登場人物
竜道 涙
主人公 ただいま男装中
日早貴 零夜
涙の幼馴染