命令11
月乃はとても不安そうな顔をしている。そりゃあそうだろう、俺みたいな大してカッコ良くもない男が任せろ大丈夫とか言っても普通ならキモいだけだからな。
多分月乃の気持ちはこうだ。 何でここまで俺と一緒に付き合わされて俺は俺で自信満々なんだろう、ぶっちゃけ早く帰りたいと。
まぁそう思ってればいい。 こうなる事は大体想像ついてたし、準備は万端だ。 月乃が俺の事をどれだけ心配するか試してやるか。
まずはこいつに殴られる。
結構酷い感じに。痛めつけられるのは嫌だが月乃の反応を見る為だから仕方がない。
裏通りに行き人気がないところにくると巧という男が話し掛けてきた。
「お前今からどうなるかわかってる? 俺の絵梨花の弱味を握ったくらいだ」
「そこの澤井援交してるの彼氏の君としては平気なのかい?」
「俺がやらせてるんだ、だから何の問題もない」
「そうよ、巧の為だもんねぇ!」
「どうやら君達は君達でおかしいようだね」
「はぁ? あんたみたいな陰キャに言われたくないわよ」
「そういう事、 じゃあ大人しく俺にボコられろや」
そして澤井の彼氏が俺を殴ってきた、俺は吹っ飛ばされる。
「藤原君!」
月乃の悲痛な叫びも虚しく俺は殴られ蹴られの応酬を受ける。 ちくしょう、覚悟しててもやっぱり痛いな。
「あはは、巧!行け行けー!」
澤井は呑気だな、どうだ? 月乃。
俺は今こいつにボコボコにされてるぞ?
月乃を見ると泣きそうな顔で俺を見ていた。
そしてそろそろ俺が限界だなとおもった頃月乃は殴られている俺の目の前に来た。
「もうやめて下さい! ここまでやったら十分でしょう!? もとあと言えば澤井さんが私を騙さなきゃ何事もなかったんです!」
さすがだ、月乃。 来てくれると思ってたよ。 そろそろいいか。
俺は月乃が出てきて手を止めた瞬間用意しておいた熊用スプレーを澤井の彼氏に吹きかけた。
「うあっ、何だこれ!? 目がッ」
「え?! 何それ?」
彼氏が苦しがってるのを見て澤井が驚いた、こいつにも吹っかけてやろうかと思ったが俺が悪者になったら月乃の同情を誘いにくいしな。
「陰キャの俺ならではだろ? こんなのもあるよ?」
俺はスタンガンを取り出し澤井に見せつけた。
「これ以上彼氏が酷い目にあいたくなかったらさっさと連れて行った方がいいと思うけど?」
「…… このストーカー野郎のくせに」
澤井はまだ目を押さえて苦しがってる彼氏を連れて逃げてしまった。
事が済んだので俺は地べたにペタンと座った。
「月乃、大丈夫?」
「……なんで」
「うん?」
「なんでさっきのがあるなら最初から……」
「ああ、俺を心配する月乃を見たかったからさ」
「え? それだけの為にこれだけ殴られて…… おかしい、おかしすぎるよ藤原君………」
月乃は涙交じりで信じられないという顔でこちらを見ていた。
「いてて、ただ少し殴られ過ぎたわ」
「あ! 病院、病院行かなきゃ!」
月乃はそう言って俺を支えながら起き上がらせた。 やっぱりこいつは優しいな。
あれだけいじめて澤井の彼氏と似たようなもんの俺をしっかり気遣ってる。 月乃を選んだ俺は間違いなかった。
俺がいくら月乃に酷い事をしても月乃の弱味さえ握っていれば月乃は俺に振り向かざるおえない。
俺は月乃という巣を見つけた。 だから最初は俺をなんとも思ってなかった月乃に俺を惚れさせれば俺は無価値な人間じゃなくなる。
月乃も今日は俺を本気で心配している。 そんな心配している月乃をもっと不安にさせてめちゃくちゃに壊してしまいたい。 俺がいないとダメなほどに……
そうなるとやはり山瀬の存在が邪魔だ。
あいつは事ある度に月乃に取り入ろうとするゴミ虫だ。
俺が月乃を調教してもあいつがいちいち月乃にちょっかいを出していたら元も子もない。
「そこまで……」
俺が考えに耽っていると月乃が何か言っていた。
「え?」
「そこまでして……」
「だから何だよ?」
「…… 卑怯だよ」
「ああ、俺は卑怯だよ」
それから月乃は少し変わった気がした。




