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看護師ミツルの事件簿  作者: 瀬夏ジュン
12/12

エピローグ

「トキおばちゃん、いったい、なにやってるの」


 というぼくの声に、総副婦長はきびしい顔をした。


「仕事場で『おばちゃん』はないでしょう。鴨川ミツルくん」


「は、はい、すみません。って、なんなんですか、このモツは」


 うしろに渋谷先生がいるのに気づいたトキおばちゃんは、ニヤリとすると、ぼくを手招きした。

 車イスに座った彼女に、ぼくは顔を近づける。

 彼女は、いう。


「あなたのかわいいガールフレンドに、スーパーで『モツのコテツお兄ちゃん』を買ってきてもらって、量を水増ししたの。でも、メガネを外した渋谷先生のほうは、美人タイプねえ」


「はあ?」


 ぼくが返せた言葉は、それだけだった。


「センターの話は、よーく考え直すように、あたしがカズちゃんにいっておく」


 カズちゃんとは、末広すえひろカズマサ先生。スエヒロ病院グループの総院長。

 おばちゃんは背筋を伸ばした。


「まあ、センターはナシだとしても、いろんなところに内臓が出没したくらい、どうってことないわよね。だって、もともと病院というものは、身体の部品ぜんぶを扱う場所なんだから」


 ぼくのうしろに聞こえるように、さらに声を張る。


「反省したら、もう忘れてください。がんばって仕事をしましょう。患者さまのために」


 ぼくは渋谷先生をふり返った。

 彼女は今までに見たことのない表情をしていた。

 けっして姿を露わにしなかった秘密の数々が、美しく黒い湖からあふれてこぼれていた。


 その時だった。ぼくの頭に生暖かいものが降り注いだのは。


「ごめんごめーん! あたしもこぼしちゃったー!」


 走ってきて急に止まったその看護師は、リエだった。

 頭上高く掲げた両手には、病院食の食器を逆さまに持っている。

 そこから料理がムダに注がれたのだ。

 リエは意地悪そうに口角を上げると、ぼくにだけ聞こえるように、いった。


「わるいけど、これも『コテツお兄ちゃん』で増量してる」


 はいはい。

 ぼくだけ汚れて、ジエンドですか。一件落着ですか。


「最高においしいモツ鍋、ずっと待ってるんだから。忘れないで」


 ピンクのナース服に身を包んだ天使が、小悪魔のような笑顔でウインクした。








記念病院の内臓 終


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