プロローグ:目覚めた闇
私は暗闇の中で目が覚めた。
どこまで続いているのかわからない無重力の闇の中を、裸のままゆらゆらと漂っていた。
ここがどこなのか、どのくらい眠っていたのか、まったくわからない。手足を動かしてあおむけの状態から起き上がり、ぐるりと回って辺りを見渡してみた。
何も無い。
だが、どこか一点からかすかに音が響いているのがわかる。
近づいてみると音がだんだん大きくなっていくのがわかった。
人の声。泣き声と叫び声が入り交じるようなその声は、私の永い人生の中で幾度も聞いた覚えのあるものだった。
赤子の産声だ。
自分を起こした声の主の顔を一目見ようと、私はさらに近づく。
突然、一筋の光が差したかと思ったら、今度は見知らぬ部屋にいた。全体は青白く、ヒスイ色の頭巾をかぶった人間が何人もいて、見たことのない白い箱のようなカラクリや光を反射する細い紐がいくつも伸びている。全裸でいる私に誰一人として見向きもしなかった。見えていないのだろう。
産声のするほうに顔を向けると、小さなベッドの上で何かがもがいているのを見つけた。赤子が手足を弱弱しくばたつかせて、元気よく泣いている。
顔を覗き込んだ時、私はハッとした。
これは、“私”だ。
そう確信した途端、靄がかっていた意識が完全に覚醒するのを感じる。
私は産まれた。生まれ変わったのだ。
生きるために。世界を見るために。
“あの人”に、会うために。