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エピローグ3【サイドB】

※本日(8月21日)更新一話目です。

「いやー、まさかスレイ教官に一発かますとは思ってなかったわ!」


 グレスの言葉に晴れやかな気持ちになる。ようやく、あの女に仕返しをしてやったからだ。


 カオリャン隊長からは説教を喰らった。でも、俺が知ってるあの人の黒歴史を匂わせたらすぐに解放された。


 俺達の作戦はメアを戦闘に集中させて、恥をかかせることで動揺を誘うという、非常にあくどい方法だった。

 リーザの情報によるとメアはたまに男性と遊んでるらしい。ただ、人前でそういうのを見せるのを極端に嫌ってると。吸魔の後みたく恥ずかしがって動きが隙だらけになる、と笑顔で告げられた。


 結果は上々だ。

 まぁ、グレスがリーザに懐かれてたから成立した策だけど。周囲には親友が根回しをしていたらしくて、そこまで騒動にはなっていない。


 最後のキスだけは弱点をピンポイントで突いたらスカッとする気がしたから個人的判断で追加した。


 魔族関連での対応は助かってるよ。でも、散々弱みを握られていい加減にストレスが溜まっていた。

 どうせ一度はキスした相手だ。もう開き直って弄ることにした。


 それに、付き合ってる噂を否定しない方が魔族化の隠れ蓑になる。

 そもそも、姿を隠せるはずのメアが隠せてないのが悪いんだ。責任はあいつにある。


「あ、でもベルちゃんに目撃されるのは良かったん?」


 着替え終わったグレスにそう投げかけられて言葉に詰まる。彼女の気持ちを考えたら配慮は足りてない。

 俺達は友人以上恋人未満の状態。別れてるけど、彼女を傷付けたい訳でもなく……


 更衣室の外に出るのが怖いな。


「もしかしてノープラン?」

「正直メアを困らせること以外考えてなかった」

「あー……へぇ、ディートリヒコースか。教官、ご愁傷様」

「何だよ、そのコース」


 笑顔の質が変わったグレスをねめつけても返答はない。何となく気まずい。彼の気持ちに触れるか触れまいか迷っている。

 その空気に勘づいたのか、グレスが苦笑した。


「なんだよ、気でも使ってんの?」

「いや……二人とも不器用だなって」

「あ、俺はタイミング待ちなだけだからな。不器用なのはあっちっしょ」


 伸びをしたあと、グレスは「ディートリヒ苛めもほどほどにな」と手を上げて出ていった。

 親友には俺の浅はかな考えなんてばれてるよね、やっぱり。ベルに新しい恋人でも出来ればって、そんな考えをさ。


 ベルに片想いしている連中はそれなりにいる。本人が仕事ばかり見てるから目立たないだけで。

 相手がグレスかディートなら俺は諦められる気がしたんだ。でも、二人ともベルの意思を最優先するから動かないし。


 自分勝手な俺と違って。


 また落ち込みそうになる思考を無理やり止める。

 もう、なるようにしかならない。自分の変化で手一杯だ。


 息を吐いて廊下に出る。

 少し歩くと向かい側に人影が見えた。


 ああ、本当に時間は待ってくれないな。着替えを済ませたベルが振り返る。


「聞いたのよ、模擬戦でのこと。メア、かなり怒っているようだったけれど」

「そっか、あとで謝りにいくよ」

「貴方のそれは嘘ね」


 白々しい言葉なんて、ベルには見抜かれる。そのくらいの関係性は築いてきたつもりだ。


 穏やかに笑う彼女も無理をしているって俺は分かる。

 きっと踏ん切りをつけるためにいるんだろう。そう感じて彼女の様子を見ていると、何かが違う、と思った。


 ──その目は違う。何もかもを投げ出す覚悟をした目だ。


「ねぇ、フィロガ。私、きっと貴方の事、愛してはいなかったと思うの」

「どうしたの……急に」

「メアに嫉妬心、沸かなかったの。だから、そうね。本気では愛していなかったんだと思うわ。二人の事、応援している。私も仕事が楽しい時期だから、恋愛をしている余裕なんてないもの」


 一見したらただの決別の言葉。ベルが気持ちに整理をようやく付けられただけのはずの、言葉だ。

 じゃあ、なんで俺はこんなに胸騒ぎがするんだ?

 何かを見落としている。


「ねえ、ベル」

「どうしたの?フィロガ」


 離れようとする彼女を呼び止めて、俺は逡巡する。


「本当は困ってることがあるの?」


 シンプルにそう質問すると、ベルは一瞬だけ動揺して自分の左手首を掴む。

 その位置は彼女が不安な時に無意識に触れる場所だと、経験上知っている。


「何もないわ」

「いや、誤魔化してるよね」

「いいえ、貴方が心配するようなことは何もないわ」


 かたくなに認めないベルに俺は手を伸ばせなかった。俺が助けを拒絶した時と同じで、ベルも俺を拒絶したんだと思った。


 帰宅してからもずっと気がそぞろでリリーに不審がられた。


「ぼけーっとしてどうしたのよ」


 お気に入りの白うさぎぬいぐるみを膝に乗せて、妹は寛いでいる。

 うさぎだけは何度も作ってるなぁとどうでもいいことが頭に浮かんだ。


「いや、リリーにとってうさぎって仲間なのかなって」

「仲間じゃないわ、友達よ」


 違いが分からないけど、本人はそうキッパリと告げる。

 まあ、いいか。珈琲を淹れながらそれとなく探りを入れることにした。


 リリーは時々ベルのところに泊まっている。今の彼女の様子や変化にはそこまで詳しくはない俺と違って、リリーなら色々とわかるはず。


 あの違和感はベルがひた隠しにしていることと関係あるような気がして。

 だから、聞いた。


「そういえばさ、昔はベルって刺青してたよね。結局どうしたの?」

「は?何よ急に」

「いや、協会に就職する時には消すって前に言ってたなと」


 付き合っている時には彼女の左手に刺青があった。それに、両腕には古い切り傷がたくさんついている。

 長袖とリストバンドで隠してるそれらは、きっと過去に何かがあった証。でも、俺も人のことは言えないから色々と疑問に思っても曖昧にしてた。

 それと今日の彼女の態度が関係するか分からないけども。


 リリーは少し間をおいて「もう無いわよ」と答える。


「でも何で刺青のこと知ってるの?」

「え、それはー、えー……相談されて」


 困る質問を避けると妹は「ふーん」と興味を失くしたようにぬいぐるみを撫でる。


 さすがに、夜の関係は言及しがたい。妹自身も考えないようにしている節があるし。

やぶ蛇は放っておこう。そうして俺は早々に部屋に引きこもった。

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