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赤い死神の終の棲家  作者: 木の実あかし
閑話二.五章
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閑話6【サイドAより】

※本日(7/30)投稿六話目です。全六回分あります。

 夜半の鳥の鳴き声が聞こえる。今、いるのは総帥の寝室……の、目の前。

 胃痛に苛まれつつも諸々の調整を終えた私は、当番の護衛が何故、年末にあたっているのかを考える。別に予定は入っていないのだけど、毎年私の気がしている。


 ため息をつきながら挨拶の為に扉を開けた。


 広い寝室に、これまた広いベッド。総帥なのだから、当然それなりの部屋。そこまでは、全然気にならない。

 しかし、だ。


 問題はそこにいるマーヤだ。

 今日は艶やかな黒のナイトガウン。胸元がレースで彩られておりその顔立ちとのギャップが倒錯的な色気を醸し出している。


「メア、じゃあ今日はよろしくね」


 笑顔の彼女は我が物顔でそのベッドに座って手を振っている。


「承知しました」


 そう私は応える。

 部屋の主である総帥は、バスローブをお召しになって突っ立っていた。会議の時とは違ってのほほんとした顔だ。完全に気が緩んでいる総帥の事は見ない振りをしてそっと扉を閉めた。


 何も突っ込まない。そう、それが護衛の時の不文律。

 護衛をするたびに女性が変わっているという事実も、頻度的にはマーヤが最多という事実にも、突っ込みはしない。完全防音がせめてもの救い。廊下の窓から夜空を見上げて時間が過ぎるのを待つ。


 これは一応、淫魔型の女性に対する措置らしい。

 総帥の魔力量は非常に多い。私が今まで接してきた人間の中でもトップクラスだ。だから、吸魔衝動で無実な人達をそっち方面で襲いかねない魔族の相手をするにはちょうどいい人材。


 しかし、あの表情的には役得と考えては居まいかと……いえ、思考を断ち切ろう。オフの総帥がどうお考えかなど気にしてはいけない。淫魔型の恋愛が過激であるという事実も、一旦忘れることにした。


 世間は年越しで慌ただしい。

 ここにいないトリシャはどうしているだろうか。彼女が住んでいる村の人達と和気あいあいとしているのかもしれない。羨ましい、私もそっちに混ざりたい。ドロドロな恋愛模様なんて考えずにただのほほんとしていたい。


 今晩は襲撃もなく無事に朝になった。伸びをする隣の人を盗み見て私も欠伸をかみ殺す。この人は生きている人じゃないから無視をした。


 マーヤが出るまで待機していると、扉が開いてニコニコと笑顔の彼女が私に抱き着いた。お仕着せのメイド服だった。部屋を掃除して回る気だろうか。


「メア、ありがとうね。ふふ、眠そう」

「……久しぶりでしたので」

「そうね。ああ、やっぱり可愛いわ」


 はっきり言おう。私も誘惑されている。彼女は男女問わず魅了する淫魔型でもあるからにして。だからといって靡いてはいけない。そもそも、毒のある人は私の好みではない。もっと地味な子がいい。しかし、普段の化粧をしてないマーヤはかなり魅力的、いや、完全に弄ばれている。

 誘惑に耐えてじっとしていたら、気が済んだ彼女は掃除用具を片手に廊下の隅へと消えた。そろそろ私の失態については諦めたのか普段通りだった。


 最後に総帥に声をかけて護衛の任務は終了する。しかし、一番困る作業はここでもある。

 そっと部屋に入る。アンティークでまとめ上げている部屋は非常に趣味が良いといえる。飾り気のないベッドで総帥はまだ寝ている。

 私は意を決して近づく。

 体つきは中背中肉の一般男性でしかない。ネグリアと違って鍛えている訳では……すぐに自分の思考を振り払って手を伸ばす。起こすまでが、任務。


「総帥、朝です」


 声を掛けると総帥は眠そうに身体をゆっくり起こす。しかし、ぼんやりとしている。降ろした髪と合間って大人っぽく……私と淫魔型は相性が悪すぎる。悉く誘惑に引っかかっている。


「朝……」

「はい、朝です」


 呟く総帥は寝ぼけたまま例によって私の体を引き寄せた。

 やはり今日も駄目だったか。咄嗟に枕を掴んで馬乗りになってその頭をベッドに抑えつけた。しばらくしたら弱く叩かれたので外した。


「……メア。もう少し、目覚めの良い朝を迎えたい」

「私は吸血型なので」

「いや、そういう事ではなく」

「吸血型、なので」


 乱れた服の中身は見ないようにさっと体をどかした。

 もちろん、最初期は優しく起こそうとした。しかし、そうしたらキ、キスが……イールに相談したら真顔でこうすればいいと言われた。もちろん、総帥ご本人にも了承を取り付けたので暗殺するつもりなのかという誤解は生じていない。


 そして何も事も無かったかのように着替え始める総帥の気配に、視線を逸らした。

 ティーテーブルに散乱している譜面と二本のペン。違う筆跡が混ざるその譜面を眺めていると、着替え終えた総帥がまとめた。


「これは新作のオペラで使う曲だ」

「そうですか」


 穏やかな目が私を見る。

 この御仁はどこか見透かすような目を向けることが多い。そして、それが不快には感じられない。一種の才能だ。だから着いていく人が出てくるのだと思っている。

 その譜面を大事にしまう総帥はこちらを見ずに話を続ける。


「メア。君は、もう少し自由に生きてもいい」

「自由に生きています」

「……魔族だから、と。それを理由にして諦める必要はないと、個人的にはそう思っている」


 言われた内容を考える。

 考えるけれども、やはりそう思えない。魔族は陰に生きるべき存在であって。日の当たる場所なんて相応しくない。人生を謳歌するなんて間違っていると、どこかしらでそう思ってしまう。

 沈黙する私に総帥は「気楽に」と肩を叩く。そしてすぐに彼はウィティウムの総帥として仮面をかぶる。


「メア、ご苦労だった」

「……では、これで」

 

 いつかそう思える日が来るのだろうか。

 廊下に出て見上げた空は憎らしいほどどこまでも青かった。

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