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赤い死神の終の棲家  作者: 木の実あかし
閑話二.五章
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閑話4

※本日(7/30)投稿四話目です。全六回分あります。

 各国の賓客が集まる中、パーティの挨拶の時間になった。

 挨拶は導師の仕事じゃない。腰が曲がって杖をついているご老人がホールの中央に立つ。こういう時は、スヴェンコフ家が代表になる。その隣で介助する女性が音を拡大させる魔術を使っている。


 私には衝撃が走っているわ。ええ、スヴェンコフの現役魔術師で女性は一人だけ。ヤーニャ・スヴェンコフだけなのよ。


 ドレスは真っ黒。付けている魔道具を目立たせるためにあえてそうしているのは、分るわ。そして化粧でまつ毛とかほくろとか付け足してるし、ルージュが薄紫……これだと魔術師というよりは悪い魔女のイメージじゃない。当然ウィッグを被ってるから余計に誰状態よ。


 そしてご当主がヨボヨボな目に眼鏡を掛けて会場を見渡し始まった挨拶。でも、内容が入ってこないわ。最後にヤーニャが「それではお楽しみください」と締め括った。いつもの声より数段高い。


 挨拶が終わって二人が壇上から降りたことで我に返った。いけない、あまりの衝撃に仕事放棄をしそうになったわ。各部署のブースやビュッフェに賓客が広がっていくのを見ながら、ちゃんと警戒を続ける。


 接待の人も、そして給仕の人も今だけ魔術師協会のローブを着ていない。あれは防護服代わりだから、魔術の反動や攻撃に対して丸裸状態になってしまう。何かあった時にすぐ対処できないのよ、みんな。だから気を引き締めないといけないわ。


 署長達と導師は例外的に魔導師のローブを身に付けている。ゆったりとした長袖と、いくつかの魔道具が見える。『剣』署長がベルトでローブを固定している以外は服装が同じね。


 それにしても……見ているだけでちょっと楽しいわ。


 接待をする人たちは過度な露出とか砕けたものじゃなければ服装は何でもいい。男性は礼服が多いけど、女性はそれこそドレスとか知らない服を着ているわ。『癒』部長は豪華な幅広のストールを肩から巻き付けてスカートのように着こなしている。あれは北大陸だと、確か南東の地域の民族衣装だったかしら。


「そこの君、ワインを」


 そんな色々なドレスを見ていたら横から知らない男性が来た。

 警備だけよね、私の役割。持ち場を離れるわけにも行かないのにどうしたらいいのよ。周りに給仕の魔術師は居ないから誘導するしかないわよね。


「会場の係はあちらの者になりますので」

「君も魔術師ではないのか? ならいいだろう」

「すみません、こちらを動くわけには」


 そう続けたら男性の機嫌が明らかに下がった。なんだか雲行きが怪しい。

 男性は嫌な目付きで「礼儀作法くらい学んでおくべきでは」と私に小言混じりの言葉を投げつけてくる。賓客だから我慢してるけど、私も苛々しているという悪循環。

 そう言われても、とまた拒絶の言葉を重ねようとしたら、別の場所から声がかかった。


「リットン子爵、お久しぶりです」


 やんわりとしたその声は、ラインハルトの物だった。

 肩につくかつかないくらいの髪はオールバック。あんまり似合ってないけど、着ている礼服に合わせて髪型を変えたらしい。


「おお……久しいな、ラインハルト殿」

「ええ。ご子息がうちの弟とご友人とお聞きしまして、ご挨拶に」

「こちらこそ倅が世話になっている」


 笑顔で話を続けてるラインハルトの横から義兄も来たわ。

 こっちもオールバックか。『理』のピンブローチはライトブルーサファイアだった。そして顔にはここに居たくないと表情に出ている。もちろん、親しいから分かるだけで、男性には分からないでしょうけど。


 主な原因は周りの女性達の視線ね。

 顔だけはいいフィロガが今日みたいな服装をすると、普段は隠してる色気が駄々洩れなのよ。本人が気にしているから言わないけど、遊び人にさえ見える。義兄はむしろ女性を怖がる傾向があるのに。


 そこそこ男性と話したラインハルトがフィロガを紹介した。


「こちらが僕の研究室の室長でして」

「君が魔力理論の革命児か」

「いえ、それほどでもありません、リットン卿」

「謙遜を。闇属性の変革は偉業ではないか。是非ともうちの領地に誘致したいものだ。まあ、協会が君を手放すわけがないがな」

「恐れ入ります」


 義兄の貼り付けた笑顔が痛々しい。貴族相手だから神経がすり減っているんでしょう。

 でも、それも話題が変わるまでだったわ。


「そうそう、聞きたいことがあったのだが。闇属性が闇そのものではないという、その発想の転換はどこから来たのかね」


 自分の研究分野に言及されたフィロガの表情が明るくなった。ああ、これは駄目ね。


「多岐にわたる効果を持つ闇属性に疑問を持ちまして、協会式の魔術機構に沿って分類したんです。その結果、既存の理論の穴を見つけまして――」


 話が長くなる。

 私は警備の仕事を思い出して別の場所を観察した。顔が良くて誤魔化せてたのに、このままノンストップ説明をかましたら変人待ったなしよ。

 でも、コアな話になる前にラインハルトが隙を見て会話をぶった切った。


「室長の着眼点に僕も驚かされると同時に魔術の可能性を見出しました」

「可能性というと?」

「闇属性の解体は、既存の魔術を再構成する事を意味します。その結果、新たな魔術の開発が加速するでしょうね」

「それは確かに……ラインハルト殿はその魔術に見当がついているのかね」


 それには笑顔だけで答えるラインハルト。


「どうやら、今回のコンペで動きがありそうで楽しみだ」

「その期待を裏切らない自信があります」

「ははっ、さすがはと言ったところか……仮にだが、イオネスクの名が重いのであればぜひともこちらに来ればいい。君であれば受け入れても構わない」


 男性の目が真剣だった。目の前で引き抜き事案が起こっている場合は、どうしたらいいのかしら。個人の自由と割り切って聞かなかったことにしているとラインハルトは首を横に振った。


「いいえ、僕は協会が好きですので。ここは居心地がいいんです」

「そうか。残念だが仕方ない」


 ほっとしているところにサリアさんまで合流したわ。

 スーツジャケットと少し長めのタイトスカート。そしてつばがないトーク帽を頭に乗せている。シンプルな淡色のコサージュがアクセントになっててこれはこれでいいコーディネートね。

 サリアさんは給仕じゃなくて接待側っぽいけど、どっちか微妙な服装でどっちでもいけそう。


「こちらのお飲み物はいかがですか、子爵様」


 シャンパングラスをフィロガと男性に手渡してそのまま自分達のテリトリーに誘導していったわ。『理』のブースには義兄以上に自分の世界を持っている人達がわんさかいるから、あそこにいれば浮く心配はない。

 厄介ごとになる前にどうにかなってよかった……助けてくれたのは分かっているわ、さすがに。

 後でお礼しとかないと駄目よね。ちょっと憂鬱だけれど。


 そしてまた周りの警戒を続けていると、ここにいるはずのない人が見えて固まった。

 その人は男性用の給仕服を着てひたすら食事や皿の片づけに勤しんでいる。長い髪は内側にまとめてて一見するとボブカット風。でもどう見てもあれはメア。

 なんで祝賀会に……本人は手が空いた人にドリンクを渡したり、料理の配置を変えたりしている。


 ドリンクを受け取った人達は笑顔でそのままでいるけど、まるでメアには注意を払って無いわ。絶対おかしい。その中に明らか接待側の魔術師も混ざってるからおかしいのよ。


 忙しそうに足りなくなった食事のトレイを下げに行ったメアを見送って、近くにいる他の『剣』の魔術師に確認する。


「ねえ、さっきメアを見かけたんだけど」

「は? 教官が招待客にいるはずがないぞ」

「違うわよ、給仕服着てたわ」


 怪訝な顔の魔術師はあまり信じていない。まさか私しか見ていないって事?

 どんな怪奇現象なのよ。


 話した相手に警備を任せて会場から出る。

 調理場は『理』の空き部屋を使ってるから、そっちの塔に行けばいいはず。本部塔周辺を見ている魔術師にも事情を説明して向かう。

 きょろきょろしていると『理』の塔を警備していた魔術師達が近寄ってくる。一歩前に出たのはこの前ホラなんたらを一緒に追ってた同僚。


「あれ、リリー。会場から抜け出してどうしたの」

「こっちにメアが向かってなかった?」

「え? スレイ教官がって事? うーん……何でまだいるの?」

「それはあたしも知らないわよ。料理を下げてたから、ここを通っていたんじゃないかと思うんだけど」


 首を傾げる同僚にも理由は不明って事は、いよいよ無断で入ってきている可能性の方が高くなってきたわよ。やるならせめて私の居ないところでしてほしいわ、メア。


「ふーむ、じゃあ、一緒に探すよ。あ、俺抜けていいですか?」

「まあ、いいだろう。トラヴィス、報告は必ずするんだぞ」

「分かってますよー、先輩」


 そんなやり取りの後、同僚も一緒になって調理場を確認したけど、メアはどこにもいない。数人の料理人が頑張っているだけ。声を掛けるには憚られるくらい殺気立っている。邪魔をしないようそっと扉を閉じた。


 結局メアを見付けられなくて、私が見間違えたという話になった。

 ついこの間まで色々あって疲れたんだろうとか、同僚に憐れみの目を向けられた。余計なお世話よ、まったく。

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