閑話3
※本日(7/30)投稿三話目です。全六回分あります。
今、私は仕事帰りに呼ばれてベルの家にお邪魔している。
「どうしたらいいかしら」
困り気味のベルが持っているのは青緑のパーティードレスとピンブローチ。ベルも祝賀会では接待側だから衣装を用意しないといけない。それでドレスは用意したらしいのだけど、室長が着用義務になっているピンブローチとベルのドレスが少し似合っていないんですって。
私の目で確認しても、ブローチのトパーズが前のよりも色が茶色に近くて金具も銀色だから変に浮くコーディネートになるわ。無地でシンプルなドレスだから、その違和感が分かりやすい。
「抜かったわ……去年デザインが変わったのを覚えておかなかったのが悪いわね」
そう憂鬱な表情でドレスを見つめるベル。
忙しいんだから仕方ない気もする。でも、ベルは『飾』の魔術師で装飾品を主に作ってる部門にいるから、見た目も良くしておかないと賓客からの印象に直結すると。細かいけど貴族とかはかなりそう言う部分で判断するらしくて。
だから私に良い案がないか聞いてきたのよ。
一から作るのは時間も技術も難しいけど、ちょっと仕立て直すくらいならベルも私も出来る。もう手配する余裕はないから、それで乗り切るつもりなの、ベルは。
「中間色か明るい色をいれたらどう?」
床に散らばる布の中からいくつか引っ張り出して、ドレスにあてるけどあまりしっくり来ない。
ノースリーブにしてレース刺繍を縫い付けても本当は良さそうなんだけど、ベルは長袖しか着れないのよ。だからその方向は考えないわ。
「あとやるとしたら、少し明るめの色で生地に刺繍、っていう感じでも行けなくはなさそうだけど。時間的に難し」
「――いえ、時間なんて作ればいいのよ。銀糸も混ぜればトータルコーディネートも楽だわ」
「ねえ、ちょっと待って。他のアクセサリーはブローチに合わせるの?」
「ええ。腕が鳴るわね。久々に」
微笑むベルに不安しかなかった。まさかだけど、もしかして、一から作るのかしら、そのアクセサリー達は。それこそ無謀な話なのだけど、ベルならやりかねない。そして頭がふらふらした状態で祝賀会……後が怖いわよ、そんなの。
「じゃあ、あたしがやってもいい?」
危機感に見舞われた私はすぐさまドレスをベルから回収する。
こういう時は分業よ。ベルがアクセサリーを作るならドレスは私がやればいいのよ。
「そこまでお世話になるのはいけないわ」
「さっきいい図案が浮かんだのよ。だから、あたしがやってみたいの」
部屋に置かれたクロッキーブックにさっと完成形のドレスを描いて、ベルに渡した。ベルの得意な植物系のモチーフと合うようにしたから、そこまでアクセサリーのデザインを凝らなくても大丈夫なはず。
「こんな感じよ。細かなところはその場で変わるかもしれないけど、おおむね」
「そう、ね」
絵を見たベルは難しい表情で線をなぞっている。その目に一瞬だけ不機嫌さが混ざる。余計な事、したのかもしれない。でも、これでベルが倒れたりしたらそれこそ本末転倒だもの。
俯いた私の頭をベルが撫でた。手つきが柔らかい。
「怖がらせてごめんなさい」
「迷惑とかじゃ」
「違うのよ、リリーの才能に嫉妬しただけなの。職人としては悔しいって……リリーが気にすることじゃないのよ」
顔を上げると困ったように笑っているベルがいる。
ベルのアクセサリー、私は好きだけど。ベルはあまり自分の腕を信用しきれないみたい。そんな事ないのに。
気を取り直したベルが改めてデッサンを確認しているわ。
「これは銀と、あとマラカイトグリーンが合いそう」
「そのつもりで描いたわ」
「ふふ、とても綺麗なドレスね、ありがとう」
すぐに話が変わってベルはクロッキーブックを返した。
「それじゃあ、手伝ってもらうかわりに今度奢るわね。祝賀会の打ち上げをしましょう」
「なら、あのお店行きたい!」
「ふふ、特等席を予約しておくわ」
ベルがよく行くバーはすごく雰囲気がいい。お酒がほとんど飲めない私は曲目当てで行くけど、それでも店員さんは優しいからジュースでカクテルっぽく作ってくれる。
帰り際に材料の銀糸を分けてもらう。他の材料は売ってるもので全然いいんだけども、ベルの作る銀糸は扱いやすい。他の人の銀糸だと銀の配合がイマイチだったり染め方にむらがあって刺すのに苦労する。
まだお店は開いていたから追加分を買い込んで即座に家に帰ったわ。切羽詰まっている『飾』の人と思われる一団が未だに居座っていたのは、祝賀会の準備の為でしょう。
ドレスを広げてしわを魔術で伸ばす。うちに実習用のトルソーが残っているか探したけどなかった。残念ね、義兄も私も服にそこまで力を入れてなかったせいで……仕方なく図案をドレスに描きこんでいく。布地は滑らかで少し光沢があるから、銀糸を入れるならごてごてさせるよりは、要所要所に組み込んだ方がいいわ。
それからは朝から晩まで仕事以外は刺繍に付きっきり。
途中でフィロガが「手伝おうか?」って聞いてきたけど、丁重にお断りよ。
余裕が無いから、修正案が出された日には仁義なき戦いを始めるわよ、私が。自分の好みを押し付ける時があるからこいつは駄目なのよ。
終わったのはパーティの前日だった。
一日休みの日が無かったら厳しかったわ。すぐにベルの家に突撃して最終確認に入る。
ドレスとアクセサリーを試着したベルは最高に綺麗。襟ぐりから肩口、そして袖元にかけての刺繍は蔦と小振りの花。
目立ち過ぎず、でも確実にベルに似合ったドレスよ。
そしてベルお手製のイヤリングとチェーンベルト、支給品のピンブローチが上品にまとまっている。
「本当にありがとう、リリー」
はにかんだベルの声で我に返った私は激しくうなずいた。存在感をもっと押し出すようなドレスを着せたくなるけど、趣旨から外れるって葛藤した甲斐があったわ。本当にベルは喜んでくれているから。
「靴は……そうね、銀粉を吹き付ければ問題ないからこれでいいわね」
小物を合わせだすベルに、私はそういえばと気付いた。
「ねえ、化粧はどうするの?」
「それはもうヤーニャに頼んであるわ。コネはこういう時に使うものだもの」
にこっとするベルは茶目っ気があってそれも魅力の一つよね。
「さ、明日があるから今日はもうお開きにしましょう」
「ええ。ベル、頑張ってね」
そう声を掛け合ってベルとは別れた。




