閑話1【サイドBより】
※本日(7/30)投稿一話目です。全六回分あります。
珈琲を淹れて一息ついた。
夕方の空気が温く感じる。もうそろそろ新年が近いからだろう。
魔術師協会は明後日に迫った祝賀会の準備で慌ただしい。スレイの不祥事でどこの部署も休暇返上って聞いている。俺は、無理やり帰ってきた。必要なのは精神統一だけ。当日例の症状で気絶しないように……情けないけど仕方ない。ハルとサリアが有能じゃなかったら今頃まだ仕事だ。
珈琲の水面を揺らして動いていくオイルをぼうっと眺める。
本当は、個人的な問題の方が俺にとっては負担だった。だから余計にあの女にムカついたって今なら分かる。
ベルとの関係にも悩んでる。リリーの今後にも悩んでる……そして、これにも。
思考を断ち切って現実逃避から戻った。
目の前には一通の手紙。机の上に未開封のまま放置している白いその手紙。どうしても読まないわけには、いかないんだけど。できるなら読まずに燃やしたい。無かったことにしたい。
本心と理性の葛藤の末、諦めて封を切った。
近況報告だった。事務的な文面で、就職先が決まったって内容。今までの支援を感謝しているって綺麗な字で書いてある。
すぐにその手紙を閉じた。彼女の気持ちなんて本当の所は全然分からない。
でも、形式ばった内容でも少しだけほっとした。これでようやく肩の荷は半分くらい下りた。
もう義理は果たした。後は俺とは関係なく勝手に生きてくれればいい。自分の屑さ加減にも苛立つけど、この件に関してはもうどうしようもない。どうしようもないって、言い聞かせる。
燃えていく手紙を眺めていたらリリーが帰ってきた。
きのこがいっぱい入った籠を抱えて満足そうにしていた。
ドレスをいきなり持ってきて刺繍を始めて数日。鬼気迫った顔で「ここがなんか違う!」と叫んだ後、唐突にきのこ狩りに出て行ってて。
準備しておいた毒の検知器を起動させたらリリーは籠を降ろして渋い顔で口を曲げた。
「大丈夫よ、問題ないものばかりだもの」
「素人の大丈夫ほど安心できないものはないって俺は知ってるよ」
「本当に、大丈夫なのよ」
リリーには悪いけど、信じるわけにもいかない。たまに、変な色のきのこも混ざってるから籠の中身を選別していく。
「ちょっと、そのツルタケはおいしいのよ!」
「毒きのこだって結果が出てるじゃん、没収」
「毒抜きすればいいじゃない!」
「そんな危ないことはしないって」
言わんこっちゃない。俺は頭が痛い。
いや、リリーは毒抜きできるかもしれないけど、俺はできない。
まとめて外のゴミ置き場に捨てて戻ったら、妹は早速きのこを煮ていた。
リリーの突拍子もない行動には呆れることもある。これでも引き取った当初よりはましだ。最初は小動物みたいな警戒の仕方をされた。会話が成り立ったのは数日経ってから。しかも、単語だけのやり取りからだよ。
そもそもトマスさんの元にいた時は、たまに来る俺の事を居ない人扱いしていた。そこから考えたらかなり妹との関係は改善している。
そんな風だったから、未だにリリーの素性を俺はよく知らない。
ただ、狩猟の解禁になるとたまに鳥とか小動物を獲ってくるから、きっと人里離れた場所で生活していたんじゃないかと推測はしている。だから人付き合いが苦手というか、視野が狭いというか。
それに……トマスさんが言ってた内容を思い出す。このままでいいのか。それを俺は時々考える。手助けできることは限られている。他は何とでもなるし諦めがつくけど、どうしてもそればかりが心残りで。
気分が沈んでいるところに、『色移り』を解いた姿で料理をしているリリーが手を止めて振り向いた。
「ねえ、きのこ鍋食べる?」
「毒じゃなければいいよ」
「だから、毒は全部問題ないわよ」
ぶすっとするリリーがおかしくて、少し笑ってしまう。
「冗談だって。じゃ、ご飯にしようか」
こんな妹だけども。せめて、少しでも平穏に暮らしてほしい。俺はそう願っている。




