2-11
捕まったメアとその共犯者とみられる男の人は牢屋に入れらた。
尋問は一晩明けてから、という事になったわ。メアを拘束する為に色々と準備が必要だったから、それだけで『剣』の魔術師が疲れたの。メアが気絶させた男の人の分まで追及するって遅番の人は言ってた。エスカーチャから来てる呪術師対策の専門家まで混ざって取り調べをするらしい。
バーナードの顔もさることながら、私も顔色はきっと悪くなってる。
聖騎士団って呼ばれてるあの人達は嘘を見抜くための特殊な訓練を受けているって聞いている。どう考えてもメアも私達も詰むでしょう。
そんな状態で落ち着かない気持ちのまま翌日になった。
メアが取り調べを受けているだろう時間帯に、同好会のメンバーと一緒にまた導師の部屋に呼び出された。この面子って事は、用件は一つしかない。
「さて。どうして呼ばれているかは、分かるね」
そう切り出した導師と、やっぱり集まった署長達。
みんなは黙ったまま。追及が止まってたから、サセックから反応があったのかと思ったじゃない。それに上層部も触れてこなかったのに。
と、思ったら『飾』署長が魔道具を取り出しながら理由を話してくれたわ。
「これ以上、リリーに呪術が影響する可能性は低いとみていますので、存分に証言してくださってよろしいですわ」
ああ、すっかり忘れていた。私が呪術にかかったって設定をみんなまだ信じているのね。聖騎士を目の前に呪術を使うなんて難しいから集めた、と。上層部の思惑は分かったわ。
でも、また疑問が持ち上がる。私を直接確認しないのかしら。順番がなんだか違う気がする。あの国は魔術師協会をそこまで信用してないわよ、たぶん。
別の事に意識を向けていたら、『飾』署長がギラリとした目になる。
「全く。協会魔術師の義務を果たす気が無いのであれば、制約魔術を実行します」
厭味ったらしく告げる『飾』署長にも誰も何も言えない。
ヤン達はもちろんの事、義兄は共犯扱い待ったなしの現状でそれどころじゃないんでしょう。沈黙を是と捉えたのか『飾』署長が魔術を発動させる。
「『契約の証を』」
契約魔術と同じように光る文字が私達を取り囲んでいる。
見た目からして違うのは文字の色。どこか青みを帯びた光る文字は、制約魔術ならでは。契約魔術はどっちかというと黄色っぽい色合いだからそれで区別がつく。中身の違いは、署名者が強制されるという一点。
文章中にある『一切の虚偽を認めない』という言葉を睨みつけながら続きを待つ。
そして『飾』署長が口を開きかけた。でも、その後の言葉が続かない。
様子がおかしいわね、どうしたのかしら。成り行きを見守っていたら署長達が私達の後ろを睨んでいるのに気付いた。
「――少々、お時間を宜しいでしょうか」
カツン、とやけに固い靴音が響いた。静かな声がして制約魔術の光が消える。『飾』署長の集中力が切れたからよ。そして同好会のみんなもすぐに振り返ったわ。だって、聞き覚えのある声だったから。
肌の露出を避けていたような服装はちょっとだけ変化して、スカートの裾が膝下まで上がってる。そのおかげで細くて引き締まった美脚が露わになった。かなり鍛えていないとそんな足にはならない。
いつもならころころと変わる顔は無表情で、空色の目から感情が全く読み取れない。
そう、姿を現したのはイリアさん、だった。
そしてその後ろにメアが立ってた。誰かを簀巻きにして担いでいる絵面はなかなかインパクトが強いわ。でも、イリアさんの存在感のほうが強くてそこまで目に入らない。
この状況からして、二人は仲間だった、て事よね。
上層部は警戒して魔術を使おうとしている。でも、発動まではさせていない。
メアの演技の時とは違って扉を通して入ってきていない。つまり誰かの手引きで転移してきたのよ。この登場の仕方だと明らかに内通者がいるって分かる。
「何も知らせなかったのね、貴方は」
表情を変えないままイリアさんが声を掛けた相手はもちろん導師。
みんなの視線を一身に受けた導師は「機会が掴み切れませんでした」と気まずそうに受け答えをした。署長達が警戒を導師に移した。ところで、さっきから『飾』署長だけなんだか様子がおかしい。絶対喚く人なのに、一言も話さない。
イリアさんは目を微かに細める。
「現実は待ってくれないなんて、よく分かっているでしょうに」
「忠告痛み入ります」
そんな二人の会話に『理』署長が「謀ったのか」割り込んだ。普段の穏やかさが吹きとんだ怖い顔で導師を睨んでる。そうなってしまうのも仕方がない。
「言い訳はしないよ、ごめん」
「エイドリアン……貴様よくも」
口調もだいぶ荒くなっている。導師が口を開こうものなら殴りそうな空気だったわ。何も言わない『剣』署長も目だけすごい剣呑になってるし、『癒』部長は顔を曇らせている。そしてやっぱり『飾』署長だけ変化してないわ。どうしてよ。
そんなぎすぎすした空気の中、「混乱は不本意です」とイリアさんが水を差した。簀巻きの人がイリアさんの前に勢いよく放り出された。もごもごと芋虫みたいに蠢いている。よくよく見ると、あの時のホラ、ホラ……なにがしだった。
「あくまで、私はこの無礼者を捕まえに来ただけですので」
簀巻きの人を見下ろすイリアさんの目が、相談に乗ってた時の冷めた目と被った。そしてイリアさんは彼の顔面を足で踏んだ。声がひどくなったけれども、すぐにその人からは何も聞こえなくなる。
「一体何の魔術ですの!?」
さっきまで黙っていた『飾』署長がいきなり話し出した。イリアさんは「魔術ではありません」と無表情のまま告げる。ええ、そうね。さっきからイリアさんは魔術なんて使ってないわ。
「私の動きを止めたのはあなた方でしょう!?」
「ええ、確かにそうです。説明は、こちらをご覧になったほうが早いかと。『契約の証を』」
イリアさんが契約魔術を使う。ええ、既に締結済みの契約魔術。内容は署名された人達の間では要請になるべく応じるというもの。免責事項なんかも書いてあるから、別に誰かに有利な契約ではない。
署名は導師と、メアの名前は分かった。それ以外は知らない人達。でも、発動した術者の署名は赤くなるから、イリアさんも別の名前で同意している。
みんなが内容を確認したところを見計らってイリアさんは魔術を止めた。
そしてお手本のような綺麗なお辞儀で私達に名乗った。
「改めてご挨拶を。魔族と人間の共栄を理念とする組織、ウィティウムの序列四位イールです。メア、貴方も名乗りなさい」
「十位のメアです」
イリアさんの命令に即答したメアからはちょっと哀愁が漂っている。同好会のメンバーを見ないようにしているから、事情は把握済なのね。それと、フィロガの魔力がまた荒れだしたわ。
上層部は相変わらず。むしろ、『理』署長と『剣』署長の態度は硬化した。
「ウィティウムだと……犯罪組織の連中か」
そう鋭く吐き捨てた『理』署長は、結界を展開する。既に抜刀している『剣』署長も頷いている。
そんな二人に、イリアさんは「ええ」と淡々と肯定した。
「おっしゃる通り、その側面はあります。しかし、我々に社会を脅かす意図は全くありません」
「ふざけたことを」
「さ、さっきから魔族だのなんだの、意味が分かりませんわ!」
二人の緊迫した会話の途中で喚きながら「迷信がどうしたのですか!」と『飾』署長がイリアさんに嚙みついた。
威勢だけはいいわね。でも、私も魔族って言葉は全く聞いたことがない。
「迷信ではありません。貴方もまた魔族と会ったことがあるはずです。我々は己を魔族と公表することは稀ですから、知らないのは仕方ないことかもしれませんが」
「そんなの、信じられる訳がないでしょう!?」
イリアさんはため息をついて、「だから、事前説明がいるのよ」と溢した。
相手は導師かしら、親から叱られた子供みたいに「申し訳ありません」と謝り通しよ。なんでそこまで下手に出ているのか。こっちが心配になってくるくらい。
『理』署長が「やけに導師と親しげだな」と皮肉った。苦い顔の導師と対照的に、冷淡なままのイリアさん。
「エイドリアンはたまたま彼が魔術師となる前に知り合ったことがある程度です。再会するまで私の存在は忘れていましたよ。彼とは関係なく、元より魔術師協会の代々の導師と契約関係を結んでいます」
無言のまま導師が頷いた。でも、導師が魔術師協会に入る前、しかも未成年っていうと、結構昔の話よね。イリアさん、その頃生まれてるようには思えない年齢だけど。
「代々の導師が、か」
『理』署長の声が響く。導師は『剣』署長から視線を向けられて牽制されている。場合によっては導師の不祥事だから『剣』の職務からしてそうなるでしょう。
「ええ……貴方は、協会が犯罪者に手を貸していたと、そうお考えのようですね」
「当たり前だろう。魔族の事まで持ち出すなど、度が過ぎている」
『理』署長の言葉に、イリアさんは一瞬だけ考え込んで明らかに私達をチラ見した。
「貴方は、魔族をご存じでしたね。魔族の取り扱いは国によって異なりますので、まずそちらからご説明がよいかと」
イリアさんにとって、私達は居ないほうがいいっぽいみたい。上層部にしか話をしたくない事情があるのか、言葉を選んでいる風だった。イリアさんは踏みつけている簀巻きの人に視線を戻した。
「普段、我々魔族は人間に紛れて暮らしています。そして、基本的にはその事を公表しません……ザクセン署長の出身国は魔族の存在を公に認めているはずですが、それでも触れないでしょう」
「確かに、そうだ。他国では迫害されると聞いている」
「ええ。見た目が変わらないまま人間の寿命を超えて生きる者を……それをすぐに受け入れられる人はそう多くありません」
不老長寿。その説明を聞いて私は魔族という存在を理解した。
私の国じゃそういう人達の事は『魔族』と言わずに、『先祖返り』というのよ。だったら、あの金色の目もここでいう魔族の特徴かしら。イリアさんの話の続きを待った。
「それだけではありません。先ほどクラリッサ署長を止めたのは、魔族としての私の異能。今は、コレに力を使っているので解きました。このようにして不可思議な力を得る魔族に恐れを抱くことも、あるでしょう」
コレ、と言う時にイリアさんは簀巻きの人を足で転がした。ほとんど人扱いしていないわよ、イリアさん。
そんな様子にフィロガはやっぱり敵愾心満載になってるみたいで、またディートリヒが魔力の制御をしている。どうしてここまで悪化したのかは、分からないわ。当然、『理』署長も他の上層部の人達もフィロガのことは一旦無視してる。イリアさんの目的を探る方が先ね。
「それとウィティウムが、どう関係している」
「簡単にいえば魔族が人間として生きるための隠れ蓑を提供しています。国に保護されている魔族ばかりとは限りません。そういう時に、我々は動きます」
「まるで慈善活動でもしているような言い分だが、殺人もいとわない犯罪集団だろう」
「武力で制圧することは確かにあります。しかし、それは魔術師達の殺人歴を問うのと同じこと。正当な理由なくウィティウムがそのように動くことはありません」
人殺しを否定しないのは駄目じゃないのかしら……メアは割と最初からそっち側の人間って思ってたけど、そうは見えないイリアさんに私には衝撃が走ってる。他のみんなはちょっと違うみたいね。制御で忙しいディートリヒと腰の抜けてるヤン以外は大して驚いてない。私の知らないところで片鱗を見たのかしら?
イリアさんがまた簀巻きの人を転がす。
「コレのような偽物が名前を騙ることで心証が地に落ちている場合が多いのです。今回はウィティウムが犯行声明を出したと導師から問い合わせが来ました。隠れて活動する我々が名を広めるなどとんでもない。ですから、こういう輩は叩きのめすようにしています。先ほども言いましたが、混乱は望んでいません」
メアが混乱という単語に肩を竦めている。大根演技の件含めて、秘密裏にできず混乱に叩き込んだのは確かにメアよね。そこは自覚があったらしい。
『理』署長は沈黙している簀巻きの人を睨んでる。
「その人物は、ウィティウムの傘下の者ではない証拠があるのか?」
「貴方の納得するような物的証拠は出せません。存在しないという証明はできないのですから。ただ……本人からの弁明はあるでしょうね」
イリアさんが淡々と足をどける。
簀巻きの人は憎々しげにイリアさんの足元に唾を吐いたわ。やっぱり無表情のままイリアさんはその人に話しかける。
「ホラティオ・ノヴァク。言い残したいことはあるかしら」
「黙れ穢れた存在が!」
「その思想自体を私個人が否定する気はないけれども。発言には時と場合を選ぶべきよ」
「は、取り繕ったつもりか? 人喰いの魔物共」
そう簀巻きの人が嘲笑った次の瞬間、体が壁際まで吹っ飛んだ。イリアさんが綺麗なフォームで蹴りあげたから……そのままつかつかと歩み寄って、また一発、蹴りをいれている。
メアがアワアワしているし、簀巻きの人が血を吐いてるから相当ダメージが深いわよ。
「我々はオーガなどではないわ。侮辱も甚だしい」
イリアさんの声がほんのりと低くなった。
「正体を、あらわ」
「ホラティオ、国家転覆に加担した貴方は失われた命に許しを請うべきよ」
「な、にを。化け物に」
「貴方達の方がよほど化け物じみた行為をしているわ」
強烈な一撃を頭に入れられて簀巻きの人は沈黙した。骨、折れてないかの方が心配になる。腰の抜けたヤンの前に立って目隠ししているとメアがイリアさんに寄っていった。
「メア。コレの手当てをしてちょうだい。骨と内蔵を痛めたはずだから」
「その、内蔵は治しようが」
「頑張ればできるでしょう、貴女は」
物言いたげなメアは諦めの目で気絶した簀巻きの人の体を触る。しばらくしてメアは手を離した。簀巻きの人の顔色は少しだけ良くなった。初めて見たけど、これって。
「治癒、魔術師なのか、彼女は」
「そ、そういう大層なものでは――」
「だが、確かに怪我が」
『理』署長が困惑しているわ。私達だって同じだけど。
イリアさんはメアを下がらせた。
「彼女の異能は我々も把握しきれていませんので、現実だけ受け取ってください。魔術に類似の能力と言われていますが、それを魔術と呼ぶには無理があると魔術師達はそう口々に言います」
でも、あれは魔力が動いたから魔術の類に思える。それなら、やっぱり治癒魔術じゃないの?
疑問は全然残ったままだし、『剣』署長は隙があれば攻撃する気でじりじりと近づいていく。
「ザクセン署長、やはり彼女らは危険だ。人を傷つけるのにためらいが無さ過ぎる」
そう警告する『剣』署長にイリアさんは凪いだ目を向ける。
「きっと、オーガ狩りのせいでしょう。我々のもう一つの仕事、と言えばいいでしょうか」
オーガって、人を食べるという人型の魔物。噂だけは結構みんな知っている。独り歩きしているといってもいいわ。
「オーガの存在は確認されていない」
『剣』署長が声を低くして睨む。イリアさんはメアに一瞬だけ顔を合わせる。猿轡を簀巻きの人に噛ませているメアはひどく落ち込んだ顔だった。イリアさんの視線に気付いて立ち上がった。
「居ない事にされているだけ」
「居ない事に……?」
「オーガはほとんど、人と同じ姿をしている。そのオーガ狩りの為にも協会や国家と契約を結ぶ」
何となく事情が掴めた。ウィティウムの人達は、つまり自由と引き換えにオーガを殺している。周辺諸国はこの人達に危ない仕事をさせて、オーガの事を隠しているのね。これなら筋は通っている。
だって、そんな魔物の存在なんて知ったら人間は恐怖で誰も信用できなくなるわ。社会の混乱を望んでいないなら、なおさらウィティウムの人達は手を貸す。さっきの簀巻きの人からのように自分がオーガと思われたら終わりだもの。
イリアさんは軽く足払いして靴の血を飛ばした。やけに重い音がするのは、刃物が仕込んであるからだわ。
「魔族と紛らわしいあの魔物はただの人では止めることができません。貴方がた魔術師は……技術だけならおそらく可能でしょう。しかし、見た目は人と変わりませんから、やはり抵抗感が強くなるかと」
イリアさんはその口ぶりからしてそのオーガを殺すのに慣れている。呻く簀巻きの人を担ぎ上げたメアは無言で目を閉じている。
「メアからサセックの遭難については聞き及んでいます。かの国の者達とも同盟関係にありますが、説明しても理解を得られるかは分からないと判断したのでしょう。後ほど使者が来るそうですので、それをお待ちになってもいいかと」
完全には納得していない。でも、『理』署長の顔から険が取れた。嘘ではないと思ったらしい。
「何故、彼らは揃って口を噤んでいる。何か無茶をさせたのではないか」
「メアによると吸魔を目撃されたそうです。あれは人間からは共感しづらい特性ですから」
「彼らのうちの誰かが標的になったのか?」
『理』署長は良い顔をしていない。また知らない単語がでてきて、私は内心首をかしげた。
「いいえ。トリシャ・サイネルからと聞いています」
「どうやってだ」
「彼女は吸血型なので、血液を媒介とします」
「彼らの魔力の消耗は吸魔によるものではない、という事か」
もしかして、魔力が足りなくなったから血を飲んだって言ってたあれの事かしら。その事よね、きっと。確かにあれを報告するのは無理だと思ってたわ。普通じゃないし、メア自身が知られたくなさそうだったから。
その内容でだいぶ『理』署長は腑に落ちたらしいけど、イリアさんはトリシャの生まれた村と襲撃者の件は何一つ触れていない。だから、私達はやっぱり全部話すわけにはいかなって事は変わらない。
それに。まだ『剣』署長は全然納得できてないわ。
「明らかにサセックの森は異常地帯となっていた。あの杜撰な査定は組合の怠慢の域を超えている」
「異常地帯、ですか。私は担当ではないので詳細を把握しているわけではありませんが……」
「南大陸に生息するマッドベアまで居たことはどう説明する」
その言葉を聞いたイリアさんは無表情が少し崩れて怪訝な顔になった。そして思い当たることがあったのか、目が一気に据わる。ええ、同好会で話をしている時とはまた違った表情だけれども、感情の動きが出ててほっとした。
「メア、また彼が勝手に?」
「え!? そ、そのー、なんと言いますか」
メアはしどろもどろになった。明らかにイリアさんも知らない内容。そしてメアは隠していたみたい。
「つまり、その、サセックと先生が交渉して」
「……そう。ヴァレンティン署長、マッドベアにウィティウムは関与していません。ですが、組織内の魔族が勝手をしているようです。後で該当者を締め上げますのでご安心ください」
「そ、そのー」
「メア、格上だろうと分からせないといけないものなのよ。覚えておきなさい」
メアの顔が胃痛を抱える隊長と被る。非常に可哀そうになってきたわ。
「本来であれば、この者は強制送還の手順を踏んで出身国に引き渡されると承知しておりますが。表向きは彼が本物のリスリヴォールの間諜であると、そう流してください」
「虚偽となる上にリスリヴォールとエスカーチャが納得しないのだが」
そうよ、メアに呪術師の疑いがあるなら少なくともエスカーチャはしゃしゃり出てくるわよ。
イリアさんは胃痛のメアを見て、そして発言した『理』署長に告げた。
「知り合いの魔族が調整する予定です。お気になさらずに」
どうしてか、その知り合いって表現が相応しくないと思ったわ。目の前、じゃないのかしらって。
図らずもフィロガの望み通りにメアに制裁が下ってるんだけど、リスリヴォール犯人説を唱えていた当人も盛大に動揺している。ディートリヒが制御を止めてるからもう元に戻ったらしい。
ええ、分かるわ。自分の虚言が事実となって真実は闇に葬られてしまうから。義兄からしたらそれも嫌でしょう。そしてディートリヒが「おまえまさか」とフィロガの所業に感づいた。
「そうでした。いくら手段が少なかったとはいえ、壁に穴をあけてしまい大変失礼しました。後ほど組織より弁償いたします……メア」
「誠に申し訳ございませんでした!」
即答するメアにみんなして言いようもない視線を送ってるのは気のせいかしら。
「では。また後日伺います。その愚物を運ばねばなりませんので。外部への転移許可、宜しいかしら」
「……どうぞ」
導師の権限で協会内から外へ転移した二人を私達はただ黙って見送った。




