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【サイドB】2-4

 リリーに嘘の証言をさせるって話が纏まったから署長対策の為にやり方を説明した。作戦のうちだからやるとは言ってたけどゴミを見るような目で軽蔑された。あまりにも悲しいんだけど誰にも打ち明けられない。


 今日は俺の個人事務所でジェイクと諸々をすり合わせだ。

 壁に大剣を立てかけて椅子に座ったジェイクは、棚にある魔道具を見て遠い目をしている。


「相変わらず好きだなお前」

「他の魔術体系の魔道具って面白いですよ」

「いや、分かるっちゃ分かるんだけどよ。これ全部修理の依頼なんだろ」

「ええ、そうですね」


 俺が答えたらジェイクはため息をついた。

 髭を剃ったから元の顔立ちがはっきりして、サセックの時とはだいぶ違う。リリーが分からなかったのって、こっちの印象が強かったからだと思うんだ。


「大々的にやったらクラリッサ署長から警告されんぞ」

「だいぶ前から言われてます」


 彼には盛大に呆れられたけど気にしない。

 学生の時からやってるからって言い分で通してるけど、だいぶアウトよりな副業だ。協会と競合しかねないからって点で。そんなつもりは俺にはないんだって主張してもやっぱり言われる。


「でよ、本格的にリーメアのサポートどうすっか」


 身を乗り出したジェイクは真面目にあの女のフォローを考えているらしい。

 誰にも面倒見がいいから貧乏くじを引かされるって自覚したほうがいいんじゃないかと思うんだけどね。思うけど、俺もお世話になった一人だから言いづらい。


「介入が起こったらもうお手上げとしか言えません。俺の言葉をエスカーチャが信用するわけないんで」


 腕を組んで唸る彼は何か言いたげでいるけど首を振る。


 エスカーチャは俺の育った国だ。

 だからお国柄だったらよく知っている。俺が呪術師疑惑がある時点であの国にとっては警戒対象。そもそも、動いている輩は俺もあわよくば施設にぶち込みたい派だろうと勘繰っている。


 それに……これ以上考えたくないから俺はすぐに思考を切り替えた。


「現状を聞いている限りはリスリヴォールが牽制しそうですよね」

「限りがあるだろう、限りが。どうにか協会内で収まる範囲にしねえと」


 ジェイクは空中筆記の『ライトライティング』を発動させて状況を箇条書きにしている。

 彼の一番の懸念事項は、協会魔術師の手に負えないと判断されてスヴェンコフ家が出動することだろう。そこはかとなく目が死んでいる。


「スヴェンコフのご当主はスレイの事、知っているんですか」


 話しかけたらすぐに元に戻った彼は顎に手を当てる。


「俺には分かんね。導師がジジイに要請してないのは分かるぞ、様子からしてな」

「介入はありえそうですか」

「あー、そんなの誰も得しないしジジイもそこまで非道じゃねえよ、さすがに……たぶん」


 段々と曖昧な表現をするジェイクに俺も一抹の不安がよぎる。

 スヴェンコフ当主に魔術師協会は逆らえない。普段は全てこちらが運営を受け持っているけど、それも当主が全権委任をしているからであって。いざとなった時は当主が協会内を統制できるような制約魔術をみな受けている。それこそ一般人も身内のはずのジェイク達だって例外なくそうだ。


 身内から監視されるって俺は嫌だけど、ジェイクもヤンも気にした素振りを見せたことがない。昔のヤンの暴走を思い起こすにかなりの放任主義な家系なんだろうなとは思っている。


 唸ったジェイクが「でさ」と改めて俺に疑惑の目を向けた。


「お前は何か他に情報掴んでたりしねえか? ほれ、誰にも言わねえからよ」


 俺が品行方正じゃないってよく知ってるジェイクはすぐに探りを入れてきた。

 彼の場合は本当に誰にも言わない。むしろ、積極的に俺が動きやすいよう動こうとしてるだけ。俺は考えないようにしている。自分の立場が悪くなっても自己責任だって、ジェイクはそれでいつも終わらせるから。


「……とある人から興味深いものを貰いましたけど」


 渋々引き出しを開けてジェイクに見せる。

 マスターからのリーク情報はこの家に隠してある。リリーに書類を見られたりしたら『剣』の職務に忠実になって通報されるかもしれない。

 兄としては真面目な妹は嫌いじゃないけど、家庭内で検挙されるのはごめんだ。


 ぱらぱらとめくった彼は無表情で「こいつやべえ奴だろ」と呟いている。

 マスターの手書きは非常に綺麗で内容が読みやすいから報告慣れしてるのも透けて見える。ここに書いてある人よりもマスターが一番怪しいって突っ込みは俺の心の中だけで済ませた。


「着眼点が完璧に監視するやつのそれだよな。こいつがクロじゃないのか」

「そこまでは分からないです。数年前からの付き合いなんで」

「お前な。やばかったら手を切ったほうがいいぞ」

「身辺整理する時にはそうします」

「つまり最後までって事だろ、それ」


 マスターが敵かどうかというその判断は俺にもできていない。そもそも、この面倒な事態になるもっと前から協会に居ついていて目立つ人間を観察していたんだ。『僕のライフワークなのさ、面白おかしい人生を観測するのが』っていうのが言い分。こんな趣味あってたまるかと思うけど、あの気難しいマスターだ。やりかねない。


「要注意人物って書かれてる二人は分かるか?」


 そのメモには、イリアと商人のホラスって人の名前に線が引いてある。


 そうだ。マスターの感性によればイリアは警戒対象らしい。

 目を通した時に思わず二度見したけどタイミング的には確かに納得はできる。ディートやハルだって怪しんでいたから当然の疑惑だ。


 そうするとブルッカもグルって事になる。同盟国との契約魔術に沿った内容の書類だからこそ協会へあの魔道具の解析を依頼できている、つまり国からの承認を受けた依頼って事なんだ。

 つまりイリアがクロならブルッカの諜報員という線が濃厚。そうなったらいよいよ協会はまずい。


 一方のホラスは北部の商品を取り扱っている人で、真面目で愛想がいいと商業区の人達は言っていた。協会での商売は決まり事が多いからみんな親切に教えるんだ。だから新人は印象に残りやすい。

 それを通して何らかの情報を探ってもまず疑われないから、そこが怪しいところではある。


 考えるとどっちもどっちな状況だ。二人の事を伝えたらジェイクは遠い目になった。


「同好会に関わってるのか、そのイリアって研究者」

「本人の持ってきた魔道具はおそらく本物ではあるかと思うんですけど」

「大学から盗んだとかもあるんじゃね? 国がバックにつくならやりかねないぞ」


 組合に出向しているからこそ、ジェイクはそういう国家の闇とか何度も目撃しているかもしれない。組合は協会と同盟を結んではいるけど味方ではないから、こちらに情報を流したりはしない。


 でも、それにしてもイリアの行動がちょっと不可思議で。

 これから協会を陥れるつもりの人間が魔道具を大量購入するのかな。イリアの購入したと思われる品物も一緒にメモに書いてあるんだけど、一般人がよく買うアクセサリー類と実用的なカンデラ一個、そして切れ味が多少ましになっているナイフ一本。


「チョイスが完全にお土産って感じだな」

「最近はピアスを買おうとして断念してました」

「ピアスにまで手を出すなら、かなり金遣いが荒いか金持ちか」

「ええ、ヤーニャも破産しない程度に搾り取ろうとしてましたよ」


 ジェイクは自分の妹がすでに関わっていることで渋面になっている。俺だって、リリーが危ない人間と関わっていたら嫌だから気持ちは理解できる。 


「裏捜査もグレスが指揮を執ってるんだったか」

「ええ、そうです」

「この内容、報告すっか。ぼかして」


 気を利かせたジェイクがマスターのメモを元に内容をかいつまんで書き起こす。

 彼が聞き込みをした結果として報告するって事だ。身元が確かで協会都市の人間でもジェイクの事は知っているから、こういう事件の時にみなが証言してくれるのは全然おかしくはない。

 俺がやったって言ったら多方面から勘繰られるんだけど、さ。


「この相手が例の犯罪者と繋がってたら意味ねえんだけど。まあ、証言としては悪くはないだろ。それに、少しでもグレスの負担を軽くしねえとリーメアが後で切り刻まれる」


 ジェイクらしい面倒見の良さだ。でも、あの女を心配する必要はどこにもない。

 自分で蒔いた種だ、自分で刈り取ればいいんだよ。俺はそう思っているからもうこれ以上動く気はない。

 顔を上げたジェイクは俺を見て引きつった。


「なあ……お前、絶対リーメアを陥れようとしてるよな」

「勝手に転落していくと思いますよ、あの女は」

「いや、顔がやばい、顔が。魔王の冷笑とか言われるからなそれ」


 もうすでに噂が色々と酷いから諦めた。

 ジェイクは天井を仰いでから俺の肩に手を置いた。その表情は半泣きなんだけど、何があったんだろう。


「なあ、素直が取り柄のお前がどうしてこうなったんだよ」

「素直……自分には素直ですよ」

「違う、出会った時のお前はもっと、こう、ピュアだったろ!」


 ピュ、ピュアって。頬が自然と引きつりそうになるのを曖昧な笑みに変えてやり過ごした。俺はそういう奴だった覚えは今も昔もない。ジェイクは俺に夢を見ているんじゃないかな。


「くそ、あの根性ひん曲がったラインハルトのせいだな」

「ハルの事を悪く言い過ぎです」


 何故かハルが引き合いに出されたからそう返した。

 俺から見たら彼の偏見のほうが強いと思う。でもジェイクは首を振って真顔で言い放った。


「いや、あいつは人間性よろしくないからな。気をつけろよ」


 だいたいの人には優しいジェイクがハルにはどうしてかこうなっている。そしてハルもジェイクをよく貶す。確実に原因はあるはずなのにサリアに聞いても話を逸らされる。例によって緘口令でも敷かれているのか、俺と同じ世代には分からない。ヤンも聞いたことはないらしい。


 彼が『剣』に向かったから、俺は残りの時間を魔道具の修理に回すことにした。

 手元にあるのは小さな置き時計の魔道具。動力源の魔力石を交換しないといけないから、魔術師じゃないと直せない。これを持ってきたのはまだ十歳にならない子だった。どうしても直して欲しいって言われて、出世払いにしておいた。


 クラリッサ署長の叱責自体は至極当然のものだ。

 でも、協会都市に暮らしている一般の人達はほとんどが崖っぷちの状況から逃げ出して住んでる。自分の国に居場所が無くなったからやってきた、半分、難民みたいな人達。そんな人達を突き放すなんて無理だ。俺だって似たようなものだし。


 修理が終わったから事務所を出て魔道具の持ち主を探す。この時間帯だったら買い物をしているかと思って店を回った。

 ちょうど、俺の行きつけのパン屋の中にいたから声かけようと思ったんだけど。


 その子は大きなパンを抱えて店から飛び出した。


 駄目だ、盗みで『剣』に突き出されたりしたら都市から追い出される。ここはそういう点ではどこよりも一般人に厳しい。

 俺はあの子の後を追いかけようとしてたパン屋の店長に無理やり声を掛けた。


「ちょっと後にしてくれ!」

「ブッチャーさん、ごめん。これでどうにかならない?」


 そう言ってパン代を渡すと店長はすごく渋い顔をする。

 店長とはそこそこ話をする仲だけど、これは俺だって少しやりすぎかもと思ってる。


「一時の情けはあの子のためにならないよ、味を占めて今度もやらかすことになる」


 店長だってあの子の事情を知ってはいる。積極的に協会から追い出したい訳じゃない。でも、治安が悪くなれば自分にも火の粉が降りかかるから見逃せないんだ。

 分かってる。単なる自分勝手だ。あんな小さな子が放り出されるのを見るなんて辛いからってだけ。


「うちの客でもあるから、ちゃんとパン代は上乗せするよ。払って貰うまで魔道具は渡さないから」

「まあ、筋を通すってなら。でも、あんまり入れ込んだらフィロガさんが辛くなるぞ」


 ため息をつかれたけど一応引き下がってくれた。忠告には「気を付けるよ」と返事をしてあの子を追いかける。


 探してたら古びたレンガの家の前で彼は座っていた。自分の家じゃなくて空き家に隠れるつもりだったらしい。そのせいでちょっと時間が掛かった。

 でも、一人じゃなかった。薄茶色の髪を縛った女性と一緒。後ろ姿で顔は見えない。その人がしゃがんで子どもの目の前にいた。


「どうして盗ったの? 理由を聞きたくて」


 聞き出そうとしている女性の声は、イリアのものだ。

 どうしてこんなところに入ってこれたんだ、ここは部外者の入れない場所のはずだ。マスターのメモが頭を過ぎる。二人が俺に気付かないうちに塀に隠れて様子を窺うことにした。


 あの子の声は小さくて聞き取りづらい。代わりに、イリアの声がよく響く。


「そっか。どうしてご飯がないの……ふーん、お金がないのは? そうか、お母さん亡くなったんだね」


 パンを抱えて泣いてる子を目の前にイリアは動かない。意外だった。同好会で話している様子からして真っ先に抱き締めるタイプだと思ってた。

 やっぱり、今までの彼女は演技だったのかと警戒心が強まる。あの子が不安そうにイリアを見上げるとようやく言葉を掛ける。


「お仕事はないのかな、小さい子でも出来るお仕事」


 かなり現実的な話を切り出すイリアにあの子は何かを答える。それを聞いた彼女が立ち上がった。


「そうしたら、お姉さんの靴磨きして貰おうかな。そうそう。あ、そのご飯は食べちゃおう」


 盗んだ商品ということは口ぶりからしてイリアも分かっている。でも、あっさり証拠を隠蔽させた。

 そして慌ただしく自分の鞄を漁って、ハンカチとぼろの布切れ、靴墨とブラシ一式を出して並べた。


「先に埃を落として、乾拭きしてからこっちのブラシ使って少しだけ靴墨を付けるんだよ。で、こっちのブラシでうすーく伸ばして。ここ傷付いてるから隠して欲しいな。で、一番大きなこのブラシでピカピカになるまで優しくだよ、優しく磨いてね。で、最後にこの布で一通り磨くんだ。やってみて」


 不思議そうに眺める子どもは言われたとおりに作業をした。ぎこちないながらもやり終えて、イリアを見上げている。そんな様子には反応しないで取り出した紙に何か書いている。


「靴磨きでもらうお金は協会都市ならこのくらいが妥当かな。まず最初に靴磨きセットを買うんだよ。そうしないと、続けてお仕事出来なくなるから。それと、お金を払ってくれない悪い人も居るから最初にもらってから仕事した方がいいかな」


 イリアは頷いた後に「さてと」と振り向こうとする。目が合う前に引っ込んだけど、これは見つかったかもしれない。


「お兄さんから靴磨きしてもいい場所教えて貰おっか」


 やっぱり気付かれてたか。もしかしたら初めから覗かれていると分かっていたかもしれない。

 子どもが「おにーさん?」と疑問の声を上げている。そしてイリアは「そうだよ、紫色の目のお兄さん」って完全に俺だと分かる表現をした。

 ずっと隠れていても仕方ないから、平静を装って二人の目の前に出る。


 イリアは俺の顔を見た途端にこわばる。すぐに持ち直して「どこら辺が一番穴場ですか?」と質問を続けるけど、態度からしてよそよそしい。


「そこから出て、左手の突き当たりにある広場です」

「だって。他の人がいたらね、今日からよろしくお願いしますって、ちゃんというんだよ。色々教えてくれる人がいたら、お礼もちゃんとね。そうしたら、苛める人は少ないよ。ああ、そんな早くでなくても良いからご飯代はお兄さんに返してね」

「ありがとう、おねーさん」


 イリアが道具をまとめて渡したらその子は駆け寄ってきて俺を見上げる。


「ごめんなさい、パンのおかね、あとでもってきます」

「分かった、それまで魔道具は預かっておくよ」


 そうやって子どもがいなくなると、俺達二人は黙った。

 俺がイリアを疑っているのは伝わっているだろう。沈黙のままじゃ拉致が明かないと方針をまとめようとしたら、イリアから話しかけてきた。


「ご飯代払い続けたらお金がなくなりますよ」


 世間話の延長のつもりなのか。怪しい彼女の行動をどう問いただすか糸口が見つからないから、相手の口車に乗ることにした。


「そっちはかたっぱしから物がなくなりそうですね」


 あのハンカチは生地からして高い。靴磨きは使い古しとはいえ後で自分の分を補充する必要があるだろう。イリアは今気づいたって表情で間抜けな声を出した。


「えー、はい、そうですね。友達に叱られますね、また」


 彼女は空を見上げる。気まずいこの空気から逃れようとしてるのか。


「パン屋さんの一件、見かけまして」

「どこにいたんですか」

「ええと、あの緑の看板のカフェです。それで、協会で悪いことをしたら子どもでも容赦しないって聞いたことがあったから気になって仕方なくて」

「『剣』の魔術師はそれが仕事ですから」

「ですよね。でも、そのー、やむにやまれぬ事情ってあるじゃないですか。スリルを求めてとかじゃなくて、方法がそれしかないって思い詰めてるとか」


 イリアがこっちを見ないまま少しだけ表情を暗くした。

 その表情はあの子の今後を憂いてのものなのか、俺に見つかったことに対する気まずさなのか。これだけじゃ分からない。そもそも、あの子の居場所をどうやって見つけたんだろうか。土地勘もないここで。


「……何か目的があるんですか?」


 いっそのこと、探ってるって前面に出して反応を見たほうが早いか。魔術を使えるように冷静になった俺をよそにイリアは首を傾げる。


「もちろん、出土品の解析をしてもらうことが目的ですけど、どうかしましたか」


 即座にそう切り返した様子が演技だったとしたら相当手ごわい。困惑している彼女にはそれ以上知っているような様子はない。


 スレイが分かりやすすぎる馬鹿なだけで、本物はこういう人間を言うんじゃないか。疑惑を向けられてもぼろを出さないでいられるなら押しとおせる場合もある。


 そして誤魔化すためなのか、「あのー」と距離を取ったままの状態でイリアは笑みを作った。

 その笑顔は引きつっていて無理やり作っているのが分かる。これも演技なのか?


「その、えー、私、あなたが苦手ってわけでは無くですね。男性全般に苦手意識を持っててですね……なので、すみません、態度に出さないようにしててもふとした時に出ちゃうんです」


 何を言い出すかと思えば全然関係のないことだった。

 しかも俺に対しての苦手意識を男性全般にって言ってる。ディートには全く問題なかったのに、何を弁明しているんだろう。


「いきなり、どうしたんですか」


 そうすげなく答えたらイリアは視線を漂わせて俺と目が合った瞬間にすぐ逸らした。


「いえ、ヤーニャさんが気にしてたので一応弁明をしておこうかなと。その、最初、貴方が遊び慣れてる人なのかなって勘違いしちゃって」


 手遊びで気を紛らわせようとしているイリアはよくよく見るとかすかに震えている。顔色もだんだん悪くなってきた。


「そ、そういうタイプの人は、私怖いんで、その、ちょっと、色々とありまして。ええと、じゃ、私行きますね!」


 恐怖の表情を浮かべたイリアは走り去った。

 残された俺はこの状況をどう処理したらいいのか。苦手意識云々の話だって嘘の可能性はある。

 でも……あれは紛いもなく本音に思えた。精一杯、我慢した結果があの挙動不審な態度になった、っていう。


 もしかして俺と同類だったりする?

 最終的に、白か黒かどっちつかずのイリアの事はとりあえず静観すると決めた。

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