プロローグ【サイドA】 2
今日は厄日。
きっと明日も厄日。
冷たい風が吹き込む廊下を一人歩く。横を向けば、都市の街並みが綺麗だろう。
今の私には、見る余裕がない。一歩踏みしめるたびに、脇腹が引きつれて痛い。出来れば普通に部屋着で休みたい。
でも、駄目だった。怪我人相手なのに、人使いが荒すぎる。怖くて文句は言えないけれども。
目的地にたどり着いた。
いかにも立派な扉の前。艶やかな木目が綺麗、と場違いな感想を抱く。
ああ。中で渦巻いている疑念が、キドナを通して見える。
同好会と協会の上層部が揃い踏み。そう聞いている。胃がだんだん痛くなる現状を頭から追いやる。
体に繋がれていた管を強引に剥がしたから、それも痛い。
もちろん、医者や看護師は暴れる私を抑えつけようとした。だから彼らは全て眠らせてきた。
大丈夫、本当に眠っているだけだから健康に問題は無い。見張りの人やら制止した人やらも眠らせてきたから、追手も来ない。本当に便利な能力。
やけに静かなところに鳥の鳴き声だけが聞こえた。
後は、ここで私が演じるだけ。誰も引っかからなかったら、どうしよう。
うまい方法なんて、考えつかなかった。そして、無理ですという諦めをトリシャに託した。
ちゃんと伝えてくれたかしら。それだけが本当に心配。
扉に触れる腕の包帯に、自分の血が滲んでいるのを見つける。
やっぱり綺麗。これが他人の生き血なら、もっと綺麗なのに。
そう、思いながら私は扉を蹴破った。




