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ラジオ同盟・序

作者: Roppu

ベテルギウスのガンマ線がほんのすこしかすっただけだというのに、太陽風警戒警報は2年も解除されていない。


さすがに携帯が火をふいて死んだのには驚いたが、なければないでどうということも、まあ、ない。



とはいえ、ほぼ連日訪れる太陽風ピークに、データを蒸発させられている大人たちのことを思えば、まあ不便な時代だ。


僕は水木517。中学二年。

テレビもインターネットもなくなったけど、お気に入りの声優が連日街頭コンサートをやってくれるこの秋葉原は天国。


アニメは最初っから劇場版。っていうかテレビ局燃えたし。宇宙線軽減対策済みの地下劇場は、どこも椅子をすべてとっぱらって、立ち見で数百人収容。平日でもこれが普通だ。


「今日もいっとく?」

こいつは、まあおたく仲間だ。アキバに34ある地下劇場のひとつが、クラシック祭と題して、往年の魔法少女ものを連続放映。今朝も朝帰りだった。


つぎの瞬間、こいつ、いや彼女がきょとんとしたのは僕のせいだった。

「今日はちょっとね」


実は僕は、ちょっと危ないことにはまっている。

駅で彼女を送ってから、高架下の店先、といっても、シャッターと「本日閉店」の紙が貼ってあるだけだが、錆びだらけの郵便受けに、指を当てる。


そして、本当に軽く指で、


コンコッコンコン


ノックするわけでもなく、ただ何かの合図。だが反応は早かった。同じような、連続音、今度は少し長い。


「高いよ」僕は思わず呟くが、つぎの瞬間、財布から何枚か札をとりだし、郵便受けに落とす。またあの連続音。

そして、僕は手にした「部品」を。


去りぎわにシャッターの向こうからつぶやき。

「もう少し練習しろよ少年。モールス」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その噂を耳にしたのは三ヶ月前だった。消防法の緊急改正で、すべての通信機器が、ほぼ爆発物扱いで回収されてから、

いわゆる「放送局」っていうのは滅亡した。

でも、実は、それがあるというんだ。


太陽風の凪。1日わずか15分の間、その声が聞けるという。


もちろん都市伝説の類いであると、気にもとめなかった。でも、ある日、僕は姉さんの形見の小さなラジオを引き出しから取り出していた。


雑誌の記事にはこうあった。AMラジオを凪の時間にきけば、大陸からの強い電波が聞こえるはずです。そこから、かすかに周波数を下げてください。


ザー


凪の10分が経過しても、雑音ばかりだった。


ザー


そして、


。。。かどこかで


。。ます


いつかどこかでやってます。


驚いたのはその声色だった。まさか。


その気持ちは、次の驚きにかき消された。回路のやけるにおい。ああ。


そのラジオはもう二度とならなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


人目も憚らず、僕はアキバを走り回った。どうしても直したかったのだ。


もちろん、ラジオ所持は非合法だ。どの店員も顔をしかめる。そして、あの店。高架下。


「ダメだな」


またか。。。


「部品が足りない」


なんだって。意外に若い店主だったのが気にはなっていたが、彼は乗り気だ。


「基盤が逝ってる。類似回路でつくりなおしだな」


まってくれわからない。


「チェコの部品が船で届く。来月だ。無名工場だが、純度が高い。よく鳴るぜ。なにより。。。」


アンテナが無事だ。


僕はなぜかそのことばに魅せられた。まるで会うことのもうない姉の笑顔をみたように。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ケースは開いたままだったが、検波回路は修復した。電源もOK。


今日の新聞によれば、凪は午前一時前後。そろそろだ。


そっと電源を入れる。微かなノイズ。そして、


彼女の声。


いま確信した。そう僕は君を知っている。いまの洗練されたヒロイン声ではない。デビュー作のころの、もっとはかげな声。


「いつかどこかでやってます」


それが僕と彼女の本当の出会いになった。


(了)


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