第1章------(1)
夢を見た。
玉座があった。それがニケットを待ち受けていた。玉座は黄金でしつらえられており、装飾をほどこされた背板には見事な宝石がふんだんに埋め込まれている。ビロード張りの座はふんわりして、硝子細工をおりまぜたエプロンと脚は絢爛そのものだ。
そこは清廉で広い場所だった。長い通廊があり、ニケットが現れると、その場を埋め尽くしていた高貴な装いの人々がひれ伏した。その中には各国の王もいる。ニケットは突然、発作のような笑いを起こしそうになった。ではあの玉座は何だ。数々の王までをも跪かせるあの玉座は。
聖王。
ニケットは片膝をついた人々が息をつめるなか、緊張した面持ちで歩をすすめた。一歩、また一歩とその栄光の椅子に近づくごとに、彼の纏った豪奢な衣装の衣擦れと床を叩くかるい靴音が響く。
聖王再臨者。
それが自分なのだ。
にわかに動悸がはげしくなった。
ニケットは選ばれたのだ。この朝と夜の両大陸を創造したアルガ大神の恩恵によってメダリオンの奇跡を得、大陸の絶対守護者にして支配者の地位を手に入れたのだ。
栄光がある。
そしてその光に触れようと、今まさに手を伸ばした時、うつつに引き戻された。
(夢だ)
かすかな倦怠がある。また、あの夢だ。
ニケットは呻いた。
(1)
世界の創世、天地が裂けて
栄光のメダリオンが授けられた。
ひとりの男とひとりの女が
ふたつの大陸のあるじとなる。
しかしとんだ災いの元凶。
メダルは何処だ。
メダルは何処で眠っている。
失われたメダル、女王のメダルよ。
おまえがなければ世界支配も宙ぶらりん。
メダルは何処だ。
メダリオンの奇跡を求めて
善男善女が盗賊まがいの極悪人に早変わり。
王も乞食も、男も女も老いも若きも
正気を忘れ、求め、踊り、狂う、さあ奪え。
メダルは何処だ。
男どもの人殺しと裏切りの陰?
それとも浮気女の寝物語、強欲女の乳房の間にひそむのか。
いやいや違う。
お宝は、そう、深い深い亀裂のなか
暗黒の沈む場所
黄金の生まれる土地
はるか忘れられた緑高原にて
次なるあるじをまちわびる。
〈メダリオンの戯れ歌〉