43話 パチモン
「ふぅーん、ねぇ1つ聞きたいんだけど……ユウに友達なんていたの?」
「はっはっは……愚問だね! 勿論、居るに決まってるじゃないか! 今時、友達0人の10歳児なんて聞いたことがないからね? あっはっはっは!!」
数時間前に自分へ酷い仕打ちをしてきた母親――ルルと俺は玄関にて相対していた。
手には何も持っていなかったのだが、ちゃんと黒いポーチ――アイテムボックスに全て収納済みだ。
昨日の時点で竜狩りもとい自分探しの旅に出ると言えば引き留められる可能性もあった為、例えダメと言われても強行突破できるように朝、それも玄関前にてぶっちゃけていた。
ちなみに、友人と呼べる人は……隣の家に住んでる犬のリッキーくらいだろうか。
何度か晩御飯の残り物をあげたらすっかりなつかれた。
ホント、友達ってのはチョロいもんだぜ……しまった。人間じゃなかったや。
いつだったか、友達100人でっきるっかな? みたいな歌を小学1年生が前世で歌っていたような記憶があるのだが、今なら断言して言える。あんなのは餓鬼の妄言だ、歌詞変えろよコンチクショウ。
だが、歳上の……それもフリシスやフェレナといった美人な女性達と知り合い、というのは一種のステイタスとも言えよう。ま、リファが姉という時点で2股かけているイケメン野郎よりも恵まれているのだが。
前世では美月という姉がいるだけで年齢=彼女いない歴を特に何とも思ってなかっただけに止まらず、最後の一線を越えかけた俺の言葉だぞ? そんじょそこらのシスコンの言葉とは重みが違う。
……自分で思うのも何だが俺って変態じゃないだろうか。
あ、ヤバイ。何か無性に病人生活時代にリファから『あーん』してもらった時の記憶がフラッシュバックしてきた……そうだ、竜を狩っている際に両腕をわざとピンポイントに狙って骨折……有りっちゃ有りだな。
「そう……でも友達と1週間程度武者修行の旅に出る、ねぇ……人って変わるものね……」
「人間ってものは変わっちゃうんだよ! 360度変わっちゃうよー!! ……あ、そのまんまだわ。じゃ、そう言う事なんで行ってきまアグッ!」
武者修行の旅というのは勿論、嘘。
演技派貴族である俺にかかればダンベルという小道具さえあれば竜狩りの部分をぼかす事などおちゃのこさいさいだ。
ボロを出す前にさっさとギャズ達の下へ! と考えていた俺は玄関のドアのドアノブを掴もうと手を伸ばすが何故か首根っこを掴まれ、行く手を阻まれた。
「ユウ、待ちなさい。1つ言い忘れてた事があったわ」
先程までとは声の調子が変わり、ふざけた様子はすっかり潜まっていた。
も、もしや、「体調管理には気をつけなさいよ?」等と言った旅立つ息子に贈るあの伝説の名言トップ10に入る言葉なのか!?
と期待に満ちた目でルルを見詰めるが
「……お土産は……そうね……酒のつまみになりそうな物をヨロシク!! あ、出来ればクロチっていう私がよく食べてるあのコリコリしたヤツ! ユウは分かるわよね? それを10kgくらいと「……行ってきます」あ、ちょ、ちょっとユウ!? 聞いてるの? ねぇ!? ねぇってばああぁ!」
俺の母親は性根が腐ってた。
ホント、何でこんな人が母親やってんの?
……ふと、思い返してみれば……頭を叩かれたり、メシ抜きにされたり、リファと引き剥がされたり……そして昨夜の出来事だ。……あっれぇ? 俺ってもしかして嫌われてる!?
ま、それにしてもあんなのが人間の国において十指に入る治療師って呼ばれてるんだ。
もう、この国は……ダメかもしれない……
そして俺は喚くルルを背に、一度も後ろを振り向く事なく素早い動きで扉を開け、駆け出した。
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「ふぁ……ふぁ……ふぁ……ふぁっくしょんッ!! うー……誰かに噂でもされてんのかなぁ……」
ヴェロニア伯爵家からセントリアへ向かう際にいつも使っていた獣道のような場所を疾走していた俺だったが、もう6度目のクシャミをしながら鼻をすすっていた。
ホント、誰が噂をしてるのやら……
心の中で少々愚痴を漏らしながらもザッ、ザッと音を立てながら地面を蹴り、セントリアに向かって駆けていた俺だったが、昨日言っていた通り門の近くにて前回よりも一回り大きい馬車? のような物の手入れをしているギャズ達がまだ昇りきっていない朝日と共に双眸へ飛び込んできた。
「おっ、ユウじゃねーか!! 待ちくたびれたぞ!! これを見ろよ。新種だぞ? 新種! たまたまタイミングが良かったらしくてな、入荷したてだそうだ。あのジャンジャラー商会イチオシの商品だぞ? これで移動時間大幅短縮だな!! がははははは!!」
俺に気づき、ブンブンと勢いよく手を振ってくるギャズの隣には馬……ではなく、前世で言う牛のようなものが馬車を引いており、反射的に俺は若干頬を引き吊らせながらも笑みを返していた。
……それ、絶対パチモンだ…………




