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異世界転生 ~少年の転生譚~  作者: 夕日
1章 
43/60

42話 魔人side 動き出すクリシュラ

「クリシュラ様、聞いてくれよ。ちょいと面白い少年を見つけてな……」




 古城。

 だが外観とは裏腹に清潔さを保っており、窓からは紅色の光が差し込んでいた。




 朝昼晩といった概念が存在せず、常に夕暮れのような光に照らされている地域。通称――“ランフィ”

 そこは吸血鬼の領土であり、吸血鬼の王であるヴェリゴールが住まう古城がポツリと遮る物無く聳え立っていた。



 人間のようにあれこれと防壁を造ったりする事はない。

 何故ならばヴェリゴールがただそこに居るだけで難攻不落の古城と化すからだ。



 そして吸血鬼が住まう古城の一室にて場違いな紫色の肌を持った端整な目鼻立ちの魔人――シュグァリは目の前で退屈そうにしていた少女――クリシュラに向かって一方的に話をしていた。



 少し明るい亜麻色の髪を後ろで束ね、吸血鬼特有の鮮血を想起させる赤い目。

 それらを持った端整な顔立ちのクリシュラは気だるそうに口を開いた。



「別にそんな話、聞きたくない。それよりも……あれ、手に入ったの?」



 着ていた黒と赤が基調となった豪奢なドレスの裾を邪魔臭そうに弄りながらも彼女は威圧するような眼差しをシュグァリに向ける。



「くくっ、無茶言うな。クリシュラ様が言ってた素材は年単位で集めねぇと到底手に入るもんじゃねぇよ。それよりもまだ手に入ってないんだがバハムートの肝なんて何に使うんだ? 生け贄召喚でもする気か?」




「生け贄召喚……ふふっ……ま、それに近いかなぁ」




 呆れ混じりに苦笑いをしながらシュグァリは物騒な名前の素材等を口にした。彼は目の前にいる吸血鬼の姫であるクリシュラに命令されて崖の底に行ったりと色々な場所に赴いていた。




 シュグァリの立場はクリシュラの世話役。

 ブツブツと同じことをいつも呟く彼女を気味悪がった吸血鬼の王――ヴェリゴールの臣下に押し付けられ、任されていた。




「くはははっ、おぉ、こえぇ、こえぇ。あ、それでよ。さっき言っていた少年なんだがな? 殴る時にたまに……こう、捻りを加えるんだ。それに手こずってしまっ「シュグァリ!! ……今の動作もう一度やって」……は?」




 生け贄召喚と当てずっぽうで言い放ったつもりだったのだが、その言葉に恍惚といった表情で返したクリシュラに少々引いていた。




 そして話を戻し、1ヶ月前に殺し合いをした少年の話を再度始めると半ばトリップしていたクリシュラが突如、口を開いて声を荒げた。




「いや、だからな? こうたまに捻りを……って急に笑い出してどうしたよ、クリシュラ様」



 自分と戦った少年の真似をするように拳を突き出す際に独特な捻りを加えながらブンッ、ブンッと風切り音を立てながら再現しているとそれに続くかのようにクリシュラが愉快といった表情を浮かべながら笑い始めた。



「ねぇ、シュグァリ。その捻りを加えた攻撃って……右手だけでしょう? それと……たまに露骨に左腕を庇うような戦い方に突如なったり……だとか」



 先程の独特な捻りで確信を得たのか、訳知り顔で自身の思い人である伊月の癖をシュグァリに向かって口にしていく。



 昔、伊月はちょっとした事故で左腕を骨折していた事があった。

 しかも骨折した腕でいつも無茶をする為に骨がくっつく時間が人一倍かかり、無意識に左腕を出来る限り使わないように……そして庇う癖がついていた。



 そして骨が完全にくっついたのが刺されて転生する事となる半月程前の話だ。

 



「んぁ? ……そういえばそうだったな……思い返してみれば拳が粉砕するくらい殴ってきた癖にたまに何故か庇ったような戦い……ってクリシュラ様!?」



 過去を想起させながら後ろ頭をボリボリと掻いていると急にカーペットの上で座っていた筈のクリシュラが立ち上がる。そしてシュグァリの下へズカズカと近づき、彼の首に手を伸ばした。



「ねぇ、シュグァリ。その少年……ううん、伊月はどうなったの? どこにいるの? 早く答えなさい」



 シュグァリが伊月と殴り合いをした、という事を知ったクリシュラは直ぐ様、一切の容赦なく首を絞めて制裁を加えていた。見た目は少女といっても吸血鬼の姫。力は異常な程に強く、その力は時に歴戦の猛者であるシュグァリをも凌駕する。




「ちょ、く、苦しい! 首絞めるなッ!! ……ぷはぁ……はぁ……はぁ。……無事だ、無事。少し前にあったばかりだっつーの。多分、セントリアかどっかに居んじゃねーのか? ていうか伊月じゃなくて名前はユウだからな?」



 首を絞めていた右手を慌ててペシペシと叩き、降参という意識表示をすると共に言葉を絞り出していた。そしてクリシュラの質問に自身が知っている範囲で答えていくと再び彼女は恍惚といった表情を浮かべ始め、笑い声を部屋に響かせた。




「そう……ユウって言うんだ……ふふふっ、ふふふ……伊月も私に会いたがってるよね? うん、絶対会いたがってる……待っててね伊月。今すぐ会いに行くから…………シュグァリ!!」



「……んぁ!? 急に大声上げてどうした? クリシュラ様」



 先程まで絞められていた首を擦りながらシュグァリはゴホッ、ゴホッと咳き込んでいたのだが突如、名前を叫ばれ、その意図を尋ねた。



「今からお父さんに外出許可取ってくる。その間、パミエラに風竜喚ばせておいて。……私が戻ってきたら直ぐに






 ――――セントリアへ案内しなさい」

前作でsideを投下し過ぎるという馬鹿をやった過去があるので、sideを書く際は気をつけながら執筆していこうと思います(-∀-`;)

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