30話 癒しが欲しいです……
「あ、あはは……ど、どうもー……お久し振りデスネ」
1ヶ月前に文字通り死闘を繰り広げた相手である魔人との思いもよらない再会に俺は頬を引き吊らせ、ぎこちない口調で言葉を返す事しか出来ないでいた。
……何でここに居んの? 入り口が狭いから壊すとか気性荒すぎだよ!! うっはぁ……萎えてきたぁ……
「おいおい、折角の再会だぞ? もっと……そうだな、喜ぶとかそう言った感情はないのか?」
「え……? ……あ、あぁ……そ、そうだね……あはは、あははは……」
あるわけねーだろボケ。
別に俺、シュグァリの事好きじゃねーし! 何で再会を喜ばねぇといけないんだよ。
俺はな、世界平和なんて大それた事を望んじゃいない。
ただリファとイチャイチャしたいだけなんだよおおおぉ!!
俺の願いなんて世界平和に比べれば小さな事じゃないですか!! 俺にとっては世界平和よりも価値があるけれども!! あぁ、神よ、何故こんなにも現実は残酷なのだろうか。運命があるのなら呪ってやりたい気分です。
前回、魔力や体力等が全快の状態だったにも拘わらず敗北してしまった俺は体力や魔力が底をつきかけの状況でシュグァリと相対してしまった今の状況を危ぶんでおり、機嫌を損ねずにいかに戦いへと持っていかないようにするかと考えていた為か、乾いた笑いしか出てこなくなっていた。
傍目から見ても明らかにへっぴり腰だった俺を見かねてか、前回戦った時にもシュグァリに従っていた女性の魔人が小さく耳打ちをする。
「シュグァリさん、あの子供……ユウと言いましたか、あの子供、大方殺し合いをしようと言ってきたらどうしよう、等と考えてるんじゃないでしょうか。会話をしたいのならまずそこを明確にするべきでしょう。戦う気があるならある、無いなら無いと言ってあげた方がスムーズに進むかと」
「あー……それもそうか。おい、ユウ。お前が万全の状態なら殺し合いを始めても良かったんだが……疲れてる奴を殺しても何も面白くねぇ。てことで戦う気はないから安心しろ」
女性の魔人を耳で囁くと成る程、といった表情を浮かべながらも笑みを漏らし、手をパタパタと右左に振って戦う気は無いと公言した。
そして俺とシュグァリが会話をしている最中ずっと武器を手に持ち、シュグァリ達を警戒していたギャズ達は人間と魔人が普通に話しているという事実を目にして呆気に取られていた。
「ゆ、ユウ……お前、魔人と知り合いなの……か? じゃあもしかしてお前も魔「あ゛ー……ちげぇよ」」
ギャズが疑いの眼差しをを俺に向けながら話し掛けていると、「魔人」と言う前にシュグァリが言葉を遮った。
「アイツは正真正銘人間だ。人間にしておくのが勿体無いくらいのな。ま、気になるなら血でも見して貰え。綺麗な真っ赤な血が流れてるだろうからよ」
「……じゃ、じゃあ何でそんなに仲が……?」
ギャズのパーティーメンバーであるラクスやレイラ、そしてフリシスもギャズと同様に俺へ訝し気な視線を送ってきていたのだがシュグァリが姿を現してからというもの慌てて武器を構え、ギャズ以外のメンバーはじりじりと後ろへ後退を始める事で距離を取り、いつ戦闘が始まっても良いようにと準備をしていた。
オーガの時は尻餅をつき、絶望に表情を染めていたフリシスだったが、今回はパーティーメンバーが近くにいるからか、それとも相手がシュグァリと付き人のような女魔人の2人だった為か、行動不能に陥る事はなく、例に漏れず行動を始めていた。
よく見ると、ギャズが右手で小さくハンドサインで指示を送っており、リーダーとしての役割を十二分に果たしていた。
相手のおおよその力量を瞬時に理解し、直ぐ様距離を取るといった行動に移る行動力。
ギルドランクB+であるギャズの力量の高さが浮き彫りとなっていた。
仲が良い……ってか? 何、可笑しな事言ってくれちゃってんの?
仲の良い相手にあんな獰猛な笑みを向けるか? 普通。……ぜってぇ向けねぇよ。
「ああ゛? ……あー、それか。それは1ヶ月程前にユウと俺は殺し合いをした仲でな。久々に感じたあの高揚感は忘れられねぇ……思い出すだけでゾクゾクしやがる……ま、ユウは兎も角、暇潰しにお前らを殺しても良かったんだが……止めておこう。その方が楽しめそうだからな」
シュグァリは1ヶ月前の事を懐かしむように語り、そして――破顔した。
恍惚といった表情をさせながら徐々に声のトーンが上がっていく。
そして何故か右の手を閉じたり開いたりしながら拳を作っていた。
殺る気スイッチONまであと一歩ってとこだろうか……洒落になってねぇぞコンチクショウ!!
「ユウはな、貧弱な人間を守る為に自分の命を犠牲にしようとした馬鹿な奴なんだ。で、俺はお前らがユウの守りたい対象になればユウが以前よりも、もっと俺を楽しませてくれる……そんな気がすんだよ。ま、ユウが俺のストレス発散する相手である限りは殺さねぇから安心しろ。……くくっ、あはっ、くはははははは!!! 今度会うときが楽しみで仕方ねぇな!! お前もそうだろう? ユウ!!」
破顔させたまま、笑い始めたシュグァリの笑い声は崖の底で反響する。
そして無邪気な子供が人に向けるような爛々とした瞳をシュグァリから向けられた俺は作り笑いを浮かべながら乾いた笑いで返事をしていた。
そんな俺の目には少量の涙が湧き出ており、頬に熱い感覚があった。
もうやだこの人……ホント、誰か助けて……リファという癒しを……癒しが欲しいです……
総合評価2000pt突破有難うございます(´ ; ω ;`)
つい先日あたりまで400ptくらいだった筈なのに急激に増えてビクビクしてます……
現時点では不定期更新ですが、今後も更新していく予定ですので拙作をどうぞよろしくお願いします(*´ω `*)




