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食事の準備

 ひとまず注目されてしまっている現状をどうにかするべきでしょう。

 えと……もうすぐお昼の鐘が鳴る頃ですしご飯の話でもしておきましょうか。


「あの……皆さんお昼ご飯は何が食べたいですか? 」


「昼飯……? そういえばなんか腹減ってきたな……」

「俺もだ、さっき夜食食ったばっかなんだけど……」

「お前こんな時間に食ってたのかよ、脂肪フラグだぞ」


 うーん、何やら不思議なことになっているというのは理解できたのですが……お夜食って何時間前のことを放しているのでしょう。

 でもさっきって……うん、考えるのは後にしましょう。

 とりあえず皆さんに一度落ち着いてもらうために両手をたたきます。

 ぺちぺちと間の抜けた音でしたが、皆さんこちらに注目してくれました。


「あの、お味噌汁とお漬物のほかに食べたいものって何がありますか? 」


「……焼き魚! 」

「あ、俺も魚食いたい。

炭火でじっくり焼いた脂ののった魚がいいな」

「今の時期なら秋刀魚だよな、脂ののったやつに大根おろしと醤油でジュワッと」

「いやいや、塩だね、塩以外ありえないね」

「お前らまだまだだな、真の通はポン酢だ」

「ばか、そこは何もつけずにそのままってのがいいに決まってんだろ」

「意識高い系乙」

「はぁ? 塩よりの方が意識高い系だろ」

「上等だお前、表に出ろ」


 あわわ、何やら険悪な雰囲気になってきてしまいました。

 こういう時は……そう、手持無沙汰なのがいけないんですよ。

 だからみなさんにも手伝っていただきましょう。


「あの、できれば皆さんにも手伝っていただけると助かるのですが……だめでしょうか」


 できる限り仕立てにお願いをしてみます。

 下から覗き込むように様子を伺いなさいと、前にお母さんが言っていたのを思い出したので実践してみます。


「あざとい」

「あざとい」

「あざとい、だがそれがいい」


 あざとい、というのがどういう意味なのかはわかりませんが良いといってくださったということはダメではないんですよね。

 では早速手伝ってもらっちゃいましょう。


「じゃあ火を起こすところから手伝ってもらってもいいですか?

私は妖術が使えないので、火打石を使わなければいけないんです」


 冒険者の方々の中には【妖術師】と呼ばれる方々がいます。

 先ほど叢雲さんとお話ししていた八雲さんもその一人ですね。

 八雲さんの使う妖術は火の鳥を燃やし尽くすような大火や、湖を凍らせるような氷を呼び出すこともできるという話です。

 そんな炎を出されても困ってしまいますが、冒険者の方々は夜営とかもしているそうですし火力を間違えるようなことはありませんよね。


「炎……? あ、妖術か。

なあどうやって使えばいいんだ? 」

「知らねえよ、俺の職業は侍なんだから専門外……でもスキルってどうやって使うんだ? 」

「あー、気合でやってみるとか? 」

「普段なら鼻で笑っているところなんだが……状況が状況だしなぁ、やってみるか」


「あの……? 」


「あぁ、手伝う手伝う、すぐに行くよ」


 何やら妖術の使い方がという話でしたが、何かあったのでしょうか。

 うーん、火力の調節って難しいのでしょうか。

 もしできるならかまどの火力調節とかを手伝ってもらいたかったんですけど。

 でも手伝っていただけるということなので、先に厨房で準備をしておきましょう。


 えーと、薪は十分にありますね。

 あと魚は炭火がいいとのことでしたので七輪を、うちは大所帯なので七輪も五つあります。

 それから七輪用の炭を、この間いい炭が手に入りましたからね。

 あ、そうだ食材。

 えーとお魚は秋刀魚がいいとのことでしたね、それなら生け簀にたくさんいましたね。

 それからお味噌汁は、馬鈴薯でいいですね。

 ほくほくのお芋が入ったお味噌汁はおいしいんですよね。

 あとお漬物は……胡瓜の浅漬けがいい感じですのでこれを使いましょう。


「おまたせ、えーと……、ごめん名前なんだっけ」


 あら、叢雲さんは覚えてくださっていたんですが……でもあまり話す機会もありませんでしたし、私も所詮は使用人の一人ですから仕方ないですね。


「静江です、それではどなたかかまどに火をつけていただけませんか? 」


「あぁそうだったな、ごめんよ静江さん。

……火か、とりあえず俺が」


 そう言って冒険者の、えーとこの方は睦月さんでしたね。

 妖術師の方で、最近この〈ぎるど〉に入られた方だったと思います。

 まだ〈れべる〉がそれほど高くないという話をしていたのを覚えています。


「それじゃ……【火術】」


 睦月さんが

 お札を二本の指で挟んでそうつぶやいた瞬間、お札から赤い光がほとばしってかまどの中に置いた薪に火花を散らしました。

 その火花はぱちぱちと音を立て、それからすぐにまきが赤熱して端から灰になっていきます。

 周囲からは歓声とどよめきが、睦月さんからはため息が漏れているのがわかりますが、悠長にもしていられません。

 近くに置いておいた竹筒で息を吹き込んで、火が消えないようにします。


「ありがとうございました、睦月さん」


「ん、あぁいや、どういたしまして……」


 心なしか睦月さんの顔が赤くなっています。

 火に当たって熱かったんでしょうか、それとも見間違いでしょうか。

 あ、もしかして体調でも悪いのでしょうか。

 年頃の女性ですし、そういう日もありますよね。

 あとでこっそりお薬をお渡ししておきましょう。


「さて、どなたか井戸から水を汲んできてもらっていいですか?

あとお米をといでくださるとうれしいのですが」


「あ、僕行ってきます」


 そう言って数少ない男性の冒険者の方が裏口から出ようとして、足を止めました。

 何か忘れものでもあったのでしょうか。


「水はどうやって運んだらいい? 」


「えーと、外に桶が置いてあるのでそれで運んでください。

水はそこにあるカメに入れてもらえれば、ちょっと残りが心もとなかったので」


 そう伝えて私は火の様子を見ています。

 ある程度、火の勢いがついてくれたら他のかまどにも火を移して、七輪にも火を入れることができますからね。

 と思っていると男性の冒険者さんがカメを持ち上げて外に出ていこうとしてる姿が視界の端に映りました。

 えーと、何をされているのでしょう。


「これごと運んでやった方が早いし楽だから」


 ……いえ、そういう問題ではなく大人二人を詰め込めるような大甕を一人で抱えれ運ぶなんて……冒険者の方に常識は通用しないんですね。

 心もとないとはいえ半分くらいまでは水も入っていたはずなんですけどね。


「……あ、ちょっと待ってくださいね」


 カメを持ってい庫としているのを制止して、窯に水を注いでおきます。

 火がいい感じなので窯を火にかけて、お湯を沸かしていくつもりです。

 お味噌汁の準備です。


「へぇ、こんな風にやるんだな」

「お、あれって出汁取りか」

「はぁ……現代なら顆粒出汁で十分なのに手間がかかっているんだな」

「あ、米とぎやるか」

「そうだな、ほかに何かやることある? 」


 みなさんいろいろと手伝ってくれて大助かりです。

 でもちょっと注意しないと何をするかわからないのが冒険者という生き物と聞きますし、気を付けましょう。


「えーと、じゃあ七輪の火加減を、それと生け簀から秋刀魚を取ってきてください」


「秋刀魚が生け簀って……いやいい、突っ込んだら負けだ、うんゲームのころもできてたしいいんだ」

「トリップなんて不可思議な事態が起こっているんだし今更だもんな」


 皆さん首を傾げていますが何か不思議なことでもあったのでしょうか。

 ……ふぅ、少し暑くなってきましたね。

 ちょうど水も汲んできていただきましたし失礼しましょうか。


「んっく……ふぅ」


 カメから柄杓で水を汲んで、一口二口と飲みます。

 あぁ生き返ります。


「おい、あれ直接飲んだよな」

「あぁ……色っぽいしぐさだな」

「そうじゃない、俺たちもあそこから水を飲んだり料理したりということは……」

「……お前天才か、あんなかわいい娘と間接キスとか」

「学生時代は寒冷期だったからなぁ……なんかこの世界も悪くない気がしてきたぞ」

「おれ、男の体に戻れたらあの子に告白するんだ」


 うーん、冒険者の方たちのいうことはあまりわかりません。

 でもお水を飲んだことをとがめられる様子もありませんし、とりあえず料理を再開しましょうか。

 表ではお米も研ぎ終わって……いけません!


「ダメです! 」


 思わず声を荒げてしまいました。

 でもあれは見過ごせません。


「お米のとぎ汁を捨てるなんてだめですよ! 」


 冒険者の方々がお米のとぎ汁を捨てようとしていたのを見てしまい、驚いてしまいました。

 何を考えているのでしょうか、お水もただではないのに。 


「え、あ、ごめん……なさい」


「そこの木桶に入れておいてください」


「あ、はい……ちなみに何に使うの? 」


「え……? そりゃ洗濯とかに使いますし、時期じゃないのでありませんけど筍とかのあく抜きにも使いますよ」


 洗濯にきれいな水を使うなんてもったいないですし、だからといって汚水を使うわけにもいきません。

 けどお米のとぎ汁は汚れを落としてくれますし、嫌なにおいもつかないですからね。


「あぁ、申し訳ない。

知らなかったんだ」


「そうだったんですか、ごめんなさい怒鳴ってしまって」


 知らなかったなら仕方ない、といいたいところですが子供でも知っているはずなんですが……あ、でも冒険者の方々は華族の出身の場合も多いと聞きますしそれなら炊事洗濯に携わることも少ないですよね。

 悪いことをしてしまいました。


「いや、俺が不勉強だったよ。

もしよければ今度いろいろ教えてもらえないかな」


「えぇ、私なんかでよければ」


 勉強熱心な方みたいですね、これは本当に怒鳴ってしまって悪いことをしてしまいました。

 次はちゃんと手順を説明してから手伝ってもらいましょう。


「おーい、静江さん。

七厘準備できたよ」


「あ、はーい、それじゃあ秋刀魚お任せしてしまっていいですか? 」


「おう、任されたよ」


 そう言って秋刀魚を網に載せた冒険者さんから目を放さないように馬鈴薯のお味噌汁を作りながらご飯を炊いていきます。


「お前秋刀魚なんか焼けるのか? 」

「まかせろよ、昔秋刀魚が安かったころ貧乏学生だったんでよく食ってたんだぞ」

「へぇ……お前何歳だ」

「まだ還暦ではないとだけ言っておくよ」


 還暦って……見た感じ二十代か三十代くらいにしか見えないのですが……。

 あ、いけないお味噌汁が、皆さんが馬鈴薯の皮むきなどを手伝ってくださったのに失敗してしまったら申し訳が立ちません。

 でもご飯の方も、蓋を取れないので中の様子はわかりませんが音から察するにそろそろたけそうですね。


「では皆さん、お茶碗を用意してください。

そろそろ出来上がりますので」


「おぉ、できるのか。こういうの初めてだから新鮮だなぁ」

「俺はキャンプみたいで楽しかった」

「俺なんて手取り足取り教わる約束取り付けたぜ」

「座敷牢」

「座敷牢」

「座敷牢」

「ギルティ」

「まって、俺まだ手を出してない! 」


 手取り足取りとまでは言っていないんですけどね。

 でも皆さんからは先ほどまでのような険悪な雰囲気が消えていますし、ご飯の準備も早く済んだので万事うまくいったということにしておきましょう。

 ……この後食べるときのことは気にしない方がいいですね。

 私もその場に居合わせるわけではありませんし。 

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