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叢雲の苦悩

 食料庫の中で、凍えるような寒さに鳥肌が立つのを感じながら端の棚から指さしで食事を確認していきます。

 えーと、豚肉に鶏肉、蛇肉にいくつかのお野菜。

 うん、特に減っているっ様子も増えている様子もないですね。

 いつも冒険者の皆さんは好き勝手に食材を詰め込んで、後の処理は全てこちらにお任せということになっていますから。

 

 それから叢雲さんに報告するために先ほどまでいた部屋に戻るついでに、宝物庫に入ります。

 この〈ぎるどほーる〉の維持費はここにため込まれた冒険者の皆さんのおかねから出ています。

 用途としては私のような使用人、といってもこの〈ぎるどほーる〉は私しかいませんが、お給金はここから出ています。

 それから私のお仕事は三食寝床付きなので、その際のご飯代や皆さんにふるまう際のお酒代、家畜の食費なんかも含まれていますし、建物の修繕費なんかもいただいています。


「あ、叢雲さん」


「静江か」


 そうして宝物庫のチェックをしていると、中に入ってきた方がいたので振り返ると叢雲さんでした。

 少し困ったような表情をしていたのが気になります。


「食糧庫は問題なかったですよ。

それと宝物庫も見てのとおりです」


 宝物庫の仲は金銀財宝がゴロゴロと転がっています。

 私のような使用人であれば向こう300年雇い続けてもおつりがくるでしょう。


「うん、うんそうだな」


 しかしそれらを見ても叢雲さんの顔色はよくありません。

 さらに何かを考えているのかぶつぶつとつぶやいているのが聞こえてきます。

 げーむ、とりっぷ、えぬぴーしー、どれもこれもが私にはわからない言葉です。


「叢雲さん? 」


「あ、あぁすまない……なあ静江、ちょっといいか」


「はい? 」


 そう言った瞬間、叢雲さんは私の頬に手を当ててむにむにと揉み始めました。

 さらに頭をなられたり、手をじっと眺められたり、耳をつままれたりしました。

 えーと、これらにはいったいどんな意味があったのでしょう。

 ちょっと叢雲さんの顔も赤くなっていましたし、もしかして体調でも悪いのでしょうか。

 

「叢雲さん、もしかして風邪でもひいているのですか? 」


「え? あぁいやそんなことはない、んだけど……」


 うーん、やっぱりなんか歯切れが悪いですね。

 いつもの叢雲さんってもっとこう、ハキハキ淡々とした感じなんですが今日はどことなくおどおどとした感じです。

 

「大丈夫ならいいんですけど、あまり無理をしないでくださいね」


 そう言って頬に当てられた手をさすると、叢雲さんの顔はさらに真っ赤になりました。

 もしかして照れているとか……そんなわけないですよね。

 叢雲さんみたいな綺麗な人が私みたいな小娘に対して照れるなんてありえないですもん。


「……そ、そろそろ広間に戻ろうと思うんだが」


「あ、わかりました」


 宝物庫での用事は済んだのでしょうか。

 もういいのであれば私も確認することは残っていないので扉を開けて、叢雲さんが出るのを待ってから後ろについていきます。

 二の影ふまずがこういうときの基本ですね。

 お母さん、私教わった事ちゃんと守ってるよ。


「注目! 」


 先ほどまでおどおどしていた様子の叢雲さんでしたが、今は打って変わっていつも通りの凛々しい姿でほかの冒険者の方々の前に立っています。

 

「諸君の仲には予想のついている者もいるかもしれないが……これは今はやりの異世界トリップやMMOトリップというものではないかと推察する。

何か意見はあるか」


 えむえむおー? いったい何の話でしょうか。

 鳥っぷ……新しい料理の名前でしょうか。


「叢雲、さすがに突拍子もないことを言っている自覚はあるんだよな」


「有る、あるんだが……」


「だよなぁ……」


 何やら皆さん気分が沈んでいる様子です。

 えーと、この〈ぎるど〉に所属している人が30人くらいで、女性が20人ほど。

 その中で残った男性の半分程は平然とした様子ですが皆さん自分の胸元や股に手を当てては顔を青くしています。


「なぁ……叢雲……俺……ネカマだったのに本物の女になっちゃった」


「私もだよ……」


 ねかまってなんでしょう、調理器具でしょうか。

 でもあの冒険者の方……えーと八雲さんでしたよね。

 お札を使って戦う妖術師の女性だったと思うのですが。

 あの方や叢雲さんが【ねかま】というのはどういうことでしょう。

 女になっちゃったといっていましたが……はっ、もしかして【ねかま】というのは未通女のことでしょうか。

 それが女になったということは……お相手は誰なのでしょう。

 もしかして先ほど顔色が悪かったのは……きゃー! どうしましょう! お赤飯? こういうときもお赤飯でいいんでしょうか! いえでも落ち込んでいる様子ですし触れない方がいいんでしょうか……わかりません、あとでどなたかに相談してみましょう。


「とりあえず、この中でねかまだった人はどれくらいいる?

ねなべだった人も手を挙げて」


 叢雲さんが落ち込みながらそう言うと、女性の方はほぼ全員が、男性の方は落ち込んでいた人たち全員が手をあげました。

 えーと【ねなべ】っていうのは察するに【ねかま】の男性用の言葉でしょうか。

 となると……もしかして叢雲さんたちのお相手って……きゃあ! もうどうしましょうこれ!


「だよなぁ……オンゲの男女比考えるとそうなるよな……というかうちのギルドに女性がいたという事実にさえびっくりだ。

まあなんにせよ。こういう時はセオリーに従うべきだと思うんだが……」


 そう言って叢雲さんは私に視線を向けました。

 それから手招きをされたので近づくと、私の肩をがっしりとつかんで皆さんの方に向かされました。

 えーと……何でしょうこの状況。

 皆さんの視線が私に集中しています。

 ……そんなにみられると恥ずかしいというか、冒険者の方って整った顔立ちの方が多いので気おされてしまうというか。


「さっき私が触れた感じ、彼女は暖かかったし私の顔色などを心配してくれた。

これは彼女たちNPCにも人格や意志があるってことじゃないかなと思うんだ」


 その言葉を聞いた冒険者の方々がざわざわと騒ぎ始めました。

 触るってなんだセクハラか、あんなかわいい子に触るとかギルマスもげろ、もうもげた後だろ等々の声が聞こえてきますが、何がもげるべきなんでしょうか。

 ……私の後頭部にあたっている二つの肉塊でしょうか、そうですよね、そういうことにしておきましょう、そうしましょう。


「とにかく、そういうことなんで極力彼女をはじめとするNPCに対しては礼儀を持って接するように。

それはみんな構わないよな。

あとは……この子に対して手出し厳禁な、そんな奴は私直々にPKするから……ってPKしたら相手ってどうなるんだろ……すまん訂正。

縛って座敷牢な、何が起こるかもわからないからPKはもちろん、戦闘エリアに出ることも控えてくれ」


 ぴーけー? またわからない言葉が出てきましたが戦闘えりあというのはわかります。

 冒険者の皆さんの言葉でいうと魔物の出現領域ですよね。

 最近は安全が確保されたので私たちのような、戦闘力のない村娘なんかでも気軽に近くの街へ出られるようになりましたけど、それもこれも冒険者の皆さんが尽力して魔物を討伐してくださっているからなんですよね。


「とりあえず私と、八雲、玉藻、明石、十六夜は幹部会議を開くよ。

もう私一人じゃ何が何だかわからないから」


 そう言って叢雲さんは私の肩から手を放して4人の冒険者の方々と奥の部屋に行ってしまいました。

 えーと、これってどうすればいいんでしょう。

 私に視線が集まっていますけど……。

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