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5:“ ヒカリと、初めての契約書”

「うん、とりあえず、こんな感じかな――」


 高村は鉛筆を置き、机上の紙をヒカリの方に向けた。

 とても読みやすく丁寧な文字。

 一番上、中央に『契約書』と書かれている。

 その下に続く文章は、次のような一文で書き始められていた。


 本契約書は、明星ヒカリ(以下、甲という)と高村修一郎(以下、乙という)の相互の信頼に基づいて作成されたものである。


「親父が好んで書いていた書き出しの文言でね。一般的な契約書で使われてるかどうかはわからないんだけど、どうかな」

「相互の、信頼……はい、信頼ですね。とても……良いと思います……」

 ほわほわと妙に浮かれた感じのヒカリ。

 相互に信頼するという表現が、どうも嬉しさのツボにはいったらしい。

 ヒカリの頬はこれでもかというほど、ゆるゆるに緩んでいた。

 もしこの場に美佳がいたら「ちょろい女だ」と突っ込まれたことだろう。

 そんなヒカリをさておいて。

「で、次の文はよくある言い回しだね」 

 高村は説明を続ける。


 甲と乙の間において、次の契約を締結する。


「それで……ここからが契約の中身なんだけど」

 高村は指を差しながら、内容を読み上げた。


 第1条 乙は、乙の想い人に対して、一度に限り、乙に関する誤解を解いたのち、その想いを伝える機会を得る。


「ええと、明星さん」

「あ、は、はいっ!」

 ぼんやりと嬉しがり続けていたヒカリは、きりりと真面目な顔を作る。

「この第1条が、俺が叶えて欲しい『願い事』になるわけだけど、この文言で良いか確認してくれないかな」

「はい、わ、わかりました――」

 急に国語の授業に突入したようで、頭の切り替えがうまくいかない。

 こうだとか、おつだとか。

 正直、こんな格式ばった文章は見たことがないわけで。

 お兄ちゃんの書く契約書は、もっと適当な感じだし……

 えっと、乙が高村先生のことで……乙の想い人が、例の女性のことだから……

「多分……大丈夫だと思います……」

「こらこら、多分はないだろう。もっとしっかり――」

「あ、はいっ、何の問題もありませんっ!」

「……ホントに大丈夫かなあ」

 不安げな表情を浮かべる高村に、ヒカリは「あはは……」と愛想笑いをする。

「それで、次なんだけど――」

 高村は続きを読み上げる。


 第2条 第1条が実現された場合、乙はその代償として『魂の一部』を甲に支払う。

 

 文章はここで終わっていた。

「最初の文言は大丈夫だよね。俺の願い事がきちんと叶えられたときという意味。それで、この続きに『魂の一部』の内容を書くつもりなんだけど」

 高村は紙を自分の手元に寄せて、再び鉛筆を手に取った。

「『魂の一部』とは、乙がその生涯において、乙の想い人と出会う機会を永久に失うことである――と、こんな感じで書けば良いのかな」

「はい……先生がそれで良いのなら」

「俺は構わないよ。じゃあ――」

 続きを書き始める高村。

「……あ、でも先生」

「ん?」

「私や高村先生は、甲とか乙で置きかえているのに、『乙の想い人』は、そうしないんですね」

「あ、そうだね。じゃあ(へい)で置きかえよう。甲乙丙のヘイだね」

 高村は、その部分を消しゴムを消して、書き直す。

 続く文章も書き終えると、ヒカリの前にそれを差し出した。


第1条 乙は、乙の想い人(以下、丙という)に対して、一度に限り、乙に関する誤解を解いたのち、その想いを伝える機会を得る。


第2条 第1条が実現された場合、乙はその代償として『魂の一部』を甲に支払う。『魂の一部』とは、乙がその生涯において、丙と出会う機会を永久に失うことである。


「さて……これでいいのかな」

 落ち着いた様子でヒカリに確認を求める高村。

 ヒカリは紙を手にとって、なんとか冷静にその内容を読み返す。

「あっ……」

 ここに至ってようやく、ヒカリはある重要なことに気が付いた。

「……先生」

「ん?」

「その……先生の『想い人』が、もし先生の告白に応じた場合は……どうするつもりなんですか?」

「いや、イエスとかノーとか、そんな答えを求めるつもりはさらさらないよ。さっきも言ったけど、彼女は既に婚約してるわけだからさ。俺としては想いが伝えられれば――」

「いえ、表面的な返事はともかく、心配なのは……その女性の気持ちです」

「あっ……」


 先生も……気付いたようだった。

 難しい話でもなんでもない。もし、先生が密かに望んでいたように、その女性が先生からの告白をずっと待っていたとしたら……

 彼女は婚約を破棄してまで、先生の想いを受け入れたいと思うかも知れない。

 けれど、その後、何をどう頑張っても、先生と会うことはできないのだ。

 悪魔の、制約のせいで……


「俺が馬鹿だった、自分のことばっかりで……彼女の俺への好意が、彼女を傷つけてしまう可能性を考えないなんて……」

 勢いで机を叩きつけてしまいそうなほど、拳を強く握りしめる。

「やっぱり、やめよう……こんな契約は」

 契約を書いた紙を両手で持ち、破り捨てようとした間際。

「……そうか」

 何か思いついたように、紙を机の上に戻した。

「ねえ、明星さん――忘れる、というのはできないのかな」

「忘れる? ええと、何をですか?」

「そうだね、きちんと書いてみるよ――」

 高村は、第2条の一部分を消しゴムで消した上で、内容を書き加えた。


 第2条 第1条が実現された場合、乙はその代償として『魂の一部』を甲に支払う。『魂の一部』とは、乙と丙に関する以下の2つの制約のことを指す。

1.乙はその生涯において、丙と出会う機会を永久に失う。

2.もし丙が、乙が伝えた想いについて、肯定の意思表示をした場合、その時点で丙は乙に関するすべての記憶を失うものとする。


「わかりやすく2つに分けてみたんだけど、第1項はさっきの制約。そしてこの第2項が、俺が言った『忘れる』ということ……なんだけど」

「ええと、これは……」

 ヒカリは息をのむ。

 この第2項とは、その女性が先生の告白に良い返事をした時点で……

 つまり、両想いだとわかった時点で、彼女は先生のことを忘れてしまう、と。

 そういうことである。

「こんな条件にしたのは、せめてそのタイミングを俺自身で決めたいからなんだ。『イエスかノーで答えてくれ』と問い詰めれば……彼女はきっと正直に答えてくれる。まあ、結果がどっちになっても、俺にとっては悲しいことにしかならないんだけどね」

「そ、そうですよっ! 忘れちゃうなんて……悲しいじゃ、ないですか……」

 その場面を想像するだけで、心が痛む。

「でもさ、よく聞くだろ? 忘れた方が幸せな場合もある、ってさ」

「けど……」

「どうなんだろう、明星さん。こんなややこしい形の契約はできないのかな?」

 高村の問いかけに、ヒカリは口元に手を当て、悩みながら息を吐いた。

「……すいません、少し待ってください」


 ――私の感情はさておいて、ひとつずつ考えよう。


 まず、その女性から先生の記憶だけを失わせる、ということ。

 できるできないで言ったら、間違いなくできる。過去、お兄ちゃんが人間と契約して叶えた願い事の中には、人間の記憶を操作するようなものもあったから。


 次に、その制約のせいで、その女性が傷つくことにならないか、ということ。

 これは微妙。というか本人以外にわかるはずもない。

 けれど、もし私自身が『他の男性と婚約したのに、もともと好きだった男性から告白された』という状況に立たされたとしたら……いっそのこと、もともと好きだった男性のことは忘れてしまいたいと、そんなことを願うかも知れない。

 忘れた方が幸せな場合もある。それは確かだろう。


 そして最後。これが最大の問題。

 この内容で、果たして契約が成立するのか……これは本当にわからない。

 契約については、私がすべて好き勝手に決められるわけではなく、守らなければいけないルールがというものが存在する。ちなみに、そのルールを誰が監視し、どのように守られているのか、当然のように私は知らない。

 お兄ちゃんは知っているはずだけど、私は知らない。

 というか聞いたのだけど、ちんぷんかんぷんで。

 お兄ちゃんの説明が下手なのか、それとも私が馬鹿なのか……

 さておき。

 話を戻そう。

 

 魂の一部を代償とする契約。

 魂と一部とは、人生における制約であり、つまりはペナルティである。

 だから、今までお兄ちゃんと契約をした人たちの中に、「別の制約を追加する」なんて要求をした人は、もちろんいなかった。

 ゆえにそんなことが許されるのかどうか、私にはわからない。

 ペナルティなんだからいくら追加しても……というのは、流石にダメな気がする。

 お兄ちゃん曰く、世界のバランスを取ることが目的なわけであるし……

 でも、先生が望んでいる制約。


 自分の想い人である女性が、自分のことを忘れてしまう――

 

 これは「その女性に想いを伝えたい」という願い事の結末としては、酷く悲しいことであり――つまり「願い事」と「制約」の関係として、バランスが取れているのではないだろうか?

 想い人に会えた、なら、二度と会えない、といったように。

 良いことが起きた後は、悪いことがずっと続くといった、そんな関係として。

 さらに言えば、その女性に「二度と会えない」なら「忘れられてしまった」としても、先生の立場からすればあまり変わらない気がするし。


 結論。この制約を追加しても、ルール的に問題ないっ!


 などと、もちろん断言できるわけもなく……

 それにこの制約は「自分のことを忘れて欲しい」という願い事としても解釈できるわけで……あ、でも、例えば、えっと……「一度でいいから、ある人に自分のことを思い出して欲しい」という願い事を叶える場合、その代償は「そのある人は、自分のことを二度と思い出さなくなる」という制約になって、つまりは「忘れる」のと同じことになる。

 ……のかな?

 だからこの願い事も合わせて契約書に書けば……いや、でも「思い出す」って何だろう……「魂の一部」で済むような簡単な願い事なんだろうか……? 大体、契約書にいくつも願い事を書いてもいいんだっけ……? あっ、そうだ、ただ単に「忘れる」だけじゃなくて、条件がついてるんだ……これは……一体どう解釈すればっ……!?


「……頭使いすぎて、脳が痛くなってきた」

 ヒカリは頭を抱える。

 いつの間にか窓の外、空の端が水色からオレンジ色に変わろうとしていた。

 多分、お兄ちゃんに聞けば、ちゃんと答えを出してくれるとは思う。

 けど、この件については、あまりかかわって欲しくないし……

「なんか……ごめんね、明星さん」

 悩むヒカリの姿を見て、高村が心配そうな声で言った。

 ヒカリは慌てて顔をあげ、勢いよく首を横に振る。

「あ、いえっ、そもそもは私が……」

 そう。

 魂を引き換えに、願いを叶えてやると――持ちかけたのは私の方。

 しかも先生には、魂のすべてを代償にするという覚悟があったのに、私が自分の感情を優先して、それを拒否してしまった。

 話をややこしくしたのは、私が原因なのだ。


 ならばいっそ、先生が真に望む願い事を叶えてあげても――


 一瞬だけそんな考えが脳裏をよぎった。けど……

 以前、お兄ちゃんと契約してしまった、ある女性のことを思い出す。

 生まれて初めて恋をして、雲の上だと絶望し、身を投げようとしたところで。

 やってきた悪魔と、契約を結んだ。

 その後、想い人の男性と結ばれて――すぐに別れたのだという。

 自分も含めて、この世に存在する何もかもが、信じられなくなったと。

 心配して会いにいった私に、やつれた顔でそんなことを話してくれた。

 だから……


「うん、決めた」

 ヒカリは覚悟を決めて小さく頷く。

 そして契約の書かれた紙を手に取って、一読した。

「先生、確認です。この内容で、私と契約を結んで――本当に良いですか?」

 真面目な顔つきで言うヒカリに。

「ああ、問題ないよ」

 高村は強い口調で答えた。

「それでは、ダメ元で、契約を結びましょう」

「……ダメ元?」

「あ」

 つい余計なことを言ってしまった。

 どうも大事なところで恰好がつかない……

「ええと……契約のための儀式があるんですが、とりあえずそれをやってみます。もしダメなら成立しないだけで……でも、そうなったら、ごめんなさい……」

 頬を染め、もぞもぞと身体を揺らすヒカリに、高村は苦笑いを見せた。

「わかったよ。でも、儀式って一体何をするのかな」

「あ、儀式といっても、血判をするだけで……」

 言いながら、制服の胸ポケットから小さなケースを取り出す。

 中に入っていた裁縫用のマチ針をつまみあげ、高村に渡した。

 そして契約の書かれた紙を机に置き、高村の方に向ける。

「その針で指先を刺してから――紙のどこでも良いので、血を付けてください」

 高村は言われたとおりに、指先を針で刺す。

 ぷくっと、球状に膨れた赤い血を、紙の中央あたりに押し付けた。

「では――」

 ヒカリは神妙な面持ちで高村から針を受け取ると、自分の指先を刺した。

 そして紙の上、高村が付けた血の部分に、その細い指をそっと乗せた。

 

 ぱあぁ――っと、指先から眩しい光が広がった。


「なっ……」

 高村は驚きの声をあげる。

 光はすぐに消え去り、机の上には紙がそのままの状態で置かれていた。

 ヒカリはそれを手に取る。

 そして、指先で紙の隅っこをパラリと捲りあげると、満足げな表情を見せた。


「契約、無事に完了です――」


 ヒカリは肩の辺りまで両手を上げる。

 左手と右手、それぞれ1枚ずつ、紙を持っていた。

「おお……」

 高村は目を見開いた。

 同じ内容、同じ筆跡。血の跡も両方に付いている。

 契約を書いた紙。1枚だったその紙が、精密なカラーコピーでもとったかのように、2枚に増えていた。

 ヒカリはその1枚を高村に手渡して言う。

「この紙は正式な契約書になりました。お互い1枚ずつ、持っておきましょう」

 ヒカリは、手続きが終わった市役所の受付職員のような笑顔を見せた。

 ちなみに、契約が上手くいくかどうか不安で、今の今まで心臓がバクバクと鳴り続けていたことは、何とかおくびには出さなかった。そして、初めての契約が成功したという事実については……嬉しいのかどうなのか、よくわからずにいた。

「すごい……」

 高村は心底驚いていた。

 昨日のことがあったとはいえ、やはり疑っていたところはあったのだろう。

 しばらくぼんやりと、神か宇宙人でも見るような目でヒカリの顔を見続けていた。

 やがて冷静さを取り戻したように、契約書にじっと目を向けた。

「ええと……今更だけどさ」

 わずかな不安を浮かべながら、高村はヒカリに訊く。

「この願い事が実現したとして……後になって、この契約書に書かれている以外のものを要求されることはないよね? 例えば『やっぱり死後の魂を寄こせ』って……明星さんが巨大な鎌を持って、俺を追いかけ回しにきたりとか」

 冗談めかしたその言い方に、ヒカリは微笑みながら答えた。

「大丈夫です。その契約書は絶対的なものですから。そこに書かれていること以外、誰かが傷つくようなことは起きません。そう、まさに『ヴェニスの商人』です」

 シェイクスピアの有名な戯曲。

 貿易商が金貸しのところへ、金を借りに行く。

 彼を恨む金貸しが担保として要求したのは、彼の心臓の肉1ポンド。

 契約を結ぶも、期限までに返済できず。

 裁判の結果、金貸しは契約書通りに、貿易商の心臓をナイフで切り取ろうとする。

 しかし、裁判官に変装していた、貿易商の親友の妻は言った。


 彼の心臓の肉は切り取っても良い。

 しかし彼の血は1滴たりとも流してはならない。

 なぜなら契約書に、彼の血を流してよいとは、書かれていないからである――


「あとは……信じてください、としか言えません。その……相互の信頼、です」

 はにかみながら言うヒカリ。子供のようなその仕草。

「……わかった。俺は、明星さんを信じるよ」

「はい、ありがとうございます」

 ヒカリが笑顔を見せると、高村も応えるように目を細めた。


 用のない生徒は下校しましょうと、校内放送。


「ええと、そういえば願い事について、日時の指定はしていませんが……」

 ヒカリは最後に付け足すように、説明する。

「恐らく近いうちに、早ければ今晩にでも……その機会があると思います」

「わかった。楽しみに……というのも変だけどね。まあ、実はさ、俺――」

 高村は椅子から立ち上がり、窓の外を眺める。

 水色とオレンジ色が混ざり合った空は、どことなく寂しさを感じさせた。

「昨日、あの河原で本当に落ち込んでたんだ。それこそ……死んでやろうと思うくらいに、ね」

「……え」

「そんなときに明星さんが現れて……何だかんだで、色々すごいことが起きたけど……こうやって明星さんと話をしているうちに、少し冷静になって気付いたんだ。結局……これって、ただの失恋話でしかないんだよね」

 当たり前だけどさ、と、遠くの景色を見ながら言う。

「俺が受ける制約については、本当、気にしなくて良いよ。願いが叶った後、彼女のことは、すっぱりと諦めることにする。本来そうすべきだったのを、俺が未練タラタラ、勝手に落ち込んでただけだからね」

「先生……」

「けどやっぱり、想いを伝えられなかったという後悔はあった。その機会を与えてくれた君には、本当に感謝してる。ありがとう、明星さん」

「はい……あ、あの……こんなことを言うのも変かもしれませんが」

 ヒカリは照れ臭そうに。

「高村先生は、優しいヒトなので……すぐに良い女性が見つかると、思います……」

「あはは、そうだと良いけどね」

 高村はゆっくりとヒカリに近づき、ぽんぽんと頭を軽く叩いた。

 優しく、穏やかな顔で笑いながら―― 

 

 その後、その教室の前で高村と別れた。

 廊下をゆっくりと、自分の教室に戻りながら、ヒカリは思う。


 魂を代償とした契約を結ぶ。

 お兄ちゃんや私の役目であるところの、それは何とか成功した。

 まあ、お兄ちゃんにしてみれば「美味しくない」契約かも知れないけど……

 初めてにしては上出来だろう。

 心配だった規則については、結果はどうあれ、その人にとってペナルティとなるような制約は追加しても良いと、そういうことなのかも知れない。

 というか、そのおかげで――

 願いを叶えたにもかかわらず、先生が不幸な結末を迎えることなく、むしろ本人にとって、良い方向に手助けできたなんて。

 僥倖(ぎょーこー)だ。すばらしいっ。

 これぞまさにウィンウィンの契約というやつだろう……ふふふ。


「なるほど、今後、私は……こういう感じで頑張っていけば……いいのかっ!」

 ヒカリは、ぐっと拳を握りしめた。

 自分なりに仕事のやり方を見い出した新入社員のように。

 気が付けば、自分の教室の前。

 オレンジ色に染まる教室には、誰もいなかった。

 置いたままだったカバンから、クリアファイルを取り出すと。

 手にした契約書を丁寧にしまう……その前に、もう一度その文面に目を通した。


 ふむ……これで、良かったの……かな?


 首を傾げながらも、カバンにしまいこみ、教室を出た。

 

 妙な胸騒ぎを感じたのは、その後すぐ。

 学校の正門を出る辺りのことだった。


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