尋ねた話は素直に聞いておくもの
「別に今日中に行けば問題ないよな?」
俺は選択に迫られていた。
橋の直ぐ目の前に来てから気付いたのだが、どうやら川の両岸を沿って街の中心へと向かう大通りが2本あり、橋は目の前の橋と真っ直ぐ川を下った先のこことは丁度、反対に当たる外壁沿いの橋の2本しかないらしい。
そのどちらの通りを進むかで迷っている。
いや、正確には目の前の橋を渡るか渡らないかで迷っているのだが。
初めのうちは、早めに向かった方がいいと道行く人に尋ねて聞いた通り、橋を渡らない方の通りを行こうとしたのだが、肉の焼ける良いかおr.....橋の上に並ぶ屋台に気を引かれ、今に至っては橋を渡る方にに天秤が傾いている。
決して、肉に惹かれたわけじゃない。
様々な屋台に気を引かれただけだ。
そういう訳で、ここは橋を渡ることにしよう。
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口の中に広がる肉汁。
消して脂っぽさはなく、かと言って筋っぽさがあるわけでもない程よい弾力があり、香草の香りが臭みを感じさせずに肉の邪魔をすることなく良い仕事をしている。
「すみませーん。兎肉串もう一本ください」
そう言って、4本目の兎肉串を受け取るとやっと屋台を離れる気になった。
そのまま兎肉を食べながら歩くことしばし、ようやく橋の中ほどに着く。
「絶景かな絶景かな。桜はないけど」
川の両側にある大通りを進む馬車などを眺めつつ、ふと川の先を見ると遠くの方に中州のようなものがあることに気付いた。
何やら建物のようなものも見える。
「まさか、役場ってあれなのか?」
中州の両側に薄く橋のようなものが見えるのでどちらからも行けそうではあるのだが、確かに橋を渡らずに行った方が僅かに橋が短いようだ。
これなら橋を渡るかどうかで悩む必要はなかったと思うが訪ね方が悪かったのだろうと思い、諦める。
取りあえず、役場の位置が確認出来たのでそもそもの目的を果たすため橋を渡りきることにする。
若干、未練が残るが、屋台巡りに構えて何時まで開いているのかも分からない役場を尻目に日が落ちるのを許すわけにはいかない。
屋台にはまた来るとしよう。
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今、俺は役場のある中州までかかる橋を渡っている。
だが、この橋、ただの橋ではないのだ。
この橋は領主個人が造った橋なのである。
つまり、私道につき、有料であるのだ。
お蔭で10兎肉串分を失う羽目になった。
高すぎる価格設定だ、抗議したい。
ちなみに反対側の短い方の橋は街の公共物として造られてるために通行は無料。
どうりで向こうから渡る道を勧められたわけである。
高い通行料を払い、長い橋を一人ぽつんと歩く俺。
「はぁ~、やっちゃったなぁ。」
10兎肉串は高かった、そんなことを考えつつ、まだまだ長い橋を渡りきるとようやく目の前に現れた役場の建物。
両開きの扉の上に掲げられた石看板には”エルーシュ街役場”と大きく彫り込まれていたのだった。