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花粉症高校生シリーズ

花粉症高校生の卒業

作者: 蒼峰峻哉

こんにちは、蒼峰です。


以前書いた『花粉症高校生の憂鬱(春)』から早二年。書きたいと思いつつ書けなかった続編を、この度高校卒業に合わせて書いてみました。

拙い内容ですがよろしくお願いします。

 こんにちは皆さん、お久しぶり。以前花粉症患者の苦しみを分かってもらおうとペンを取った者だ。

 振り返ってみれば最初の記録からはもう二年も経ってしまった。最初は秋にまた会うかもしれないとか言っておいて、ここまで音沙汰がなかったことを許してほしい。俺が何も為すことがなく、ただ目を掻き鼻をかむだけの日々を過ごしている人間だったのならシーズンごとに書くことも可能だったんだが、生憎そういう訳ではなかったんだ。

 さて、あの日から二年が経過したということで、俺も高校を卒業する日がやってきた。三年間通い続けた思い出の詰まった学び舎ともお別れだ。友人達と馬鹿をやったり、団結して行事に挑んだ記憶が思わず蘇る。

 しかし、三年経っても卒業できないものが存在している。それは何かって? 二年前にも俺の記録を読んでくれた人ならばもう分かっているだろう。そう、花粉症だ。こいつのせいで卒業の寂しさで涙が出るより先に、目の痒みで涙が溢れてくる。厳かな雰囲気で進められる卒業式の最中に鼻をかむ音が響く様は、春の風物詩と言っても差支えないだろう。

 ……前置きはこの辺で終わりにしようか。そろそろ本題、つまりは卒業式の日の俺の様子についてを書き綴っていこうと思う。これを読んだ花粉症患者の諸君が健やかに日々を過ごすことが出来るよう、ティッシュを鼻に詰めながら祈っている。




 卒業式当日。桜が咲く時期にはまだ少し早いが、その枝にはじきに花開くであろう蕾達が付いている。校門前で暫し足を止めそれを眺めた俺は、いつものようにマスクで顔の半分を覆ったスタイルをとっている。身なりは普段以上にきっちりと整えてはいるが、ここだけは譲れぬ意地がある。というか、外せばどうなるかなんて目に見えている。まぁその〝目〟は充血していてあまり良くは見えないんだけど。

 感傷に浸ってあまり長く外にいる訳にはいかない。俺はやや早歩き気味に校内に入った。別に時間が危ないとかではない。俺の体調が危ないだけだ。

「おはよう」

「あ、おはよ。相変わらずキツそうだね」

 教室には既にある程度の人数が集まっていた。俺が自分の席に向かうと、近くにいたクラスメイトが例によって憐みの目で俺を見ながら声をかけてきた。良いんだ、こういうのには慣れている。きみは花粉症の症状が出ないということがどれだけ幸運なことなのかを噛みしめて、今後の生活も頑張ってくれ。

 とりあえず席に座った俺は、しょぼくれた目でクラスメイトの皆や教室の中をしみじみと見回していた。この教室で花粉に苦しむのも今日が最後なのだと思うと、中々感慨深い。

 その後はクラスメイト達と会話をしている内に時間がやってきて、間もなく担任が教室に入ってきた。ここから少しの間、担任から話があった後に卒業式に会場へと移動になる。俺は式本番に備え、ポケットティッシュ五個と目薬二種類を静かに懐へ忍ばせた――――。




 入場の段階から目を赤くしているのを見た在校生や保護者達は、俺が既に泣いたと思っているのだろうか。そう思われているのかと思うと、少しだけ恥ずかしい気もする。

 入場を済ませた俺は指定された席に座り、式の進行を待っている。何かの代表や表彰がある訳でもない俺は、司会の指示に従って起立・礼・着席をこなすのと、卒業証書授与の際名前を呼ばれたら返事をして立ち上がることだけ気を付けていればそれでいい。俺は鼻声で君が代と校歌を歌った。

 早くも卒業証書授与が始まる。俺は出席番号が最後なので自分の番まで少し間がある。俺は鼻をかんで待つ。隣の友人に睨まれたがそんな目をされたところで出るもんは出るのだ。

 いよいよ俺の名前が呼ばれた。クラス最後の返事だ。決めてやるぞ任せとけ。

「は゛い゛!」

 中々声は出たな。代わりに思いっきり鼻声だったけど。……締まらん。




 ここから先はほぼ何もすることがないので割愛させてもらおう。基本話を聞いて礼をして鼻をかむだけしかしていないので、このことについて触れても仕方がない。

 さて、式を終え教室に戻ってきた俺達。先生から一人ずつ証書を受け取り、最後の挨拶を皆に向けて行うという正真正銘高校最後のイベントが始まる。クラスメイトが話しながら泣き出したり涙を必死にこらえている様子で涙が出るよりも早く、最高潮に達した目の痒みで涙が流れた。他の純粋に泣いている皆に申し訳なくなった。

 そうこうしている内に俺の番が来てしまった。俺は立ち上がって先生のもとまで歩き、証書を受け取ると皆の方を向く。

「えー……、最後の最後までこんな調子で申し訳ないです」

 笑わせるつもりで言ったのではないんだが笑いが起きた。複雑な気持ちだった。

「春・秋とこんな調子だったので迷惑をかけることも多かったと思いますが、皆の理解と協力があって何とかやってこれました。ありがとうございます」

 なんか最後の挨拶ってこういうことじゃない気がする。

「大学では少しでも僕みたいな人を減らすために、花粉について研究していきたいと思ってます。僕と同じように花粉症の人は、いつか画期的な解決策を僕が見つけるので期待していてください」

 大変なことではあるが、やるだけの価値がある研究だと俺は思う。少なくともここに一人、価値があると信じてる人間がいる。……まぁそんな大仰な理由を取っ払うと、信じて待ち続けているよりは自分から関わった方が経過も分かるし確実だと思ったからだけど。

「皆さん、今日まで本当にありがとうございました」

 最後にした一礼が、俺の高校生活最後のイベントを締め括った。俺はこの時初めて、あぁ卒業なんだと寂しい気分になった……。




 いかがだっただろうか? 卒業シーズンは花粉シーズンに直撃なので、俺と同じ目に遭ったという人も多いだろう。……ドンマイ。

 こうして無事高校を卒業した俺なんだが、花粉症とは一切卒業することが出来なかった。自然に治るモンじゃないんだから当たり前なんだが、実に残念だ。大学入学後は色々な治療法に手を出してみようかと考えてはいるが、時間がかかる方法が多いので結局は症状に悩まされてしまいそうである。

 俺もこれを読んでいる人達も、これから大変な日々は続くんだろうが、ここまで耐えてきたんだ。きっと何とかなるさ。まずは自分を信じてやる。それが重要。……あ、これ花粉の話ね。

 さて、しんみりとした雰囲気は苦手だし何か良い話っぽいのもこれといってないからこのままふわっと終わってしまおう。目下、俺も入学後頑張らなければいけないことがすぐにある。俺と同じ花粉症の患者諸君にも春から新しい生活が待っていると思うが、お互い花粉に負けず頑張ろうじゃないか。

 え? 俺が頑張らなければいけないことは何かって?


 ……新歓の花見。

 

読了お疲れ様でした、蒼峰です。

二年振りの続編ということで、以前とは異なる部分もあったかもしれませんがいかがでしたでしょうか? 

本来はこの卒業編も合わせて三部作くらいの構成を考えていた本作ですが、中々各時間がなかったのに合わせてネタにできるほど花粉が酷くないという時期が続き、結果二部作に落ち着いてしまいました。こういう形ではありますが、このシリーズはこれで完結です。まぁたった二回だけの上にシリーズ物ですよとも言っていなかったのでアレですが。

僕の方は変わらず花粉に悩まされていますが、今年の春は奇跡的に効いた薬があったので何とか乗り切れそうです。とはいえ、既にその薬が切れてしまったのでもう一度病院に行く必要があるのですが。皆さんも体調には気を付けてください。


長々と書いてきましたが、この辺りで失礼させていただきます。

ありがとうございました。



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