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初の任務

「さてと一日の始まりか」とそう言うとアレクは背伸びをした。


(調査隊の出陣も気になるが………)


まぁ今は我慢して、詰まらん一日を過ごすとしよう。


「まずは朝の剣術………」とけだるそうにしながら、王城の中庭に向かう。





――――――――王城の中庭では王族専用の稽古場がある――――――――


一般の兵士らは兵舎の中庭で訓練をする事になっている。


理由は暗殺などを警戒しているからである。


ひと昔に王族に恨みを持つ集団が居たとか。


今は壊滅しており、一人も居ないと訊く。


だからと言って、気を抜くわけにはいかない。


僕も面倒くさいが護身の為にも剣術を身に付けないと………。


刺されるのは嫌だし。


そう思いながらアレクは王城の中庭で静かに剣を構える。


彼が手にするのはレイピア。


剣の重さは軽い為、小柄な彼でも使いこなせる。


この武器は先端が鋭利で細く、連続攻撃が基本とされる。


そして、相手の手首を弾くように切り裂いたり、腹部や胸部に向かって刺突する。


ところで、本来ならば、アレクは稽古役にフレダと言う古参の兵士が相手するのだが。


今日は珍しく、フレダは王城の外に出ているようだった。


その為、アレクは一人で剣術稽古をするはめになっている。


「なぜ、この僕がお前のような粗末な人形と相手をしないとけないのだ?答えろ人形」と木の人形に愚痴を吐いた。


彼のそんな愚痴は人形から返って来るはずもないしそんな事は彼だってわかっている。


(はぁ。つまらんが。今日はフレダも忙しそうだし………。やむを得ないか)


仕方ないかと言いながら剣術に励んでいた。


左手を腰に当てたままで、右手に持ったレイピアで人形に足や手首を軽く斬りつける。


一旦、後ろに離れ、次はどこを狙うか、足さばきはあっているかを確認していた。


中庭にある廊下では若い侍女や使用人がアレクの稽古姿を見入っていて拍手をする。


「王子様、素晴らしいですわ」


「ガルビオン様は豪快な戦い方をしますが、アレク様はそれとは違って、鮮やかで、とても華麗です」


そんな声を横目にアレクは心の中で思った。


(世辞か……てか、華麗ってなんだよ)


自分に取り入れようとしているのだろう、と考えた。


しかし、彼女らの目には、そのような薄汚れた瞳ではなく、ただ単に、敬愛をし、そして浅はかな恋する乙女の眼差しだった。


アレクには、そんな気持ちはわからない。


彼は、その類には鈍感なのである。


そんな侍女らを見惚れさせているアレクの姿をガルビオンも片隅で密かに見つめていたのである。


(さて、少し休憩をするか…)とアレクは、レイピアを鞘に納め、相手の人形に一礼する。


礼儀は人形だろうがしなくてはならない事をわきまえている。


そんな真面目な性格が若い彼女らを魅了するのである。


アレクはそれを知ってて、やっているわけではないので、そこらの自己陶酔型の貴族とは違う。


目障りで、集中力が切れそうになったアレクは、ただの稽古で、なぜそんなに集まるのだと思い、その侍女らを呆れながら見渡した。


「あっ今、王子様と目が合った!」と一人の侍女が顔を赤く染める。


すると、それに対抗するように、騒ぎ出す。


「違うわよ。私よ私ッ!」


「違うって!私だもん!絶対に私よ!!」


そのよくわからない言い争いにアレクはため息をついた。


(まったく、女とはよくわからん…)


そんな侍女らが作る人の壁から、ぼこりと飛び出している見慣れた顔が見えた。


アレクは、それを見て驚き、仰け反る。


「ち、父上?見ておられてのですか?!」


ガルビオンが深く頷く。


アレクに見入り過ぎて、王の存在に気がつかなかった侍女らも慌てふためき、ガルビオンにこうべを下げた。


そして、彼女らはもう一度、お辞儀をするとそそくさと自分の仕事へと戻っていく。


「………父上、おはようございます」


改めてアレクが言い直す。


それにガルビオンは返事した。


「励んでおるな。それでこそ我が息子ぞ」


腕を組んで嬉しそうにする。


そして自分の自慢の顎鬚を右手で触りながら話しだす。


「ところで、アレクよ、一つ頼みがある」


「頼み、ですか?」とアレクが唐突な頼みに首を傾げる。


アレクは初めて、父から頼み事をされたからだった。


「そうだ。数日以内にシェードの街に行き、調査隊を集めてほしい」


「僕がですか?」


「左様。今回の調査隊は隊の数を増やすつもりだ。遠方地域にも調査したい。そこでシェード街の冒険家オーレリアという女性に会い、シロデ鉱山の場所と案内役を頼んでもらいたいのだ」


(これは初めての仕事?)


少し嬉しくなった。


そして、なぜかアレクはどこか胸の奥で、父の焦りを感じた。


人手不足なのはわかるが、何をそこまで恐れているのかと疑問になった。


しかし今回で初めての外出ができる。


シェールの城下街に行くものだめだったし街の外にも原則禁止。


アレクは胸が躍る感情を押し留め、あくまで平常心を装ったままで跪いていった。


「父上、この僕、アレティスク・フォン・ドゥーナトスにお任せ下さい。必ずや役目を果します」


するとガルビオンはアレクに近づき、右手で彼の左肩を二回、優しく叩いた。


「なぁに、そんなに重く受け止めなくともよい。だが頼んだぞ」


ガルビオンの側近がうやうやしく頭を下げて言った。


「陛下。そろそろお時間です」


「おぉそうだった。そうだった。今日は大臣達との会議があるのであったな」


「王妃様が既にお待ちです」


側近の男の言葉にアレクが反応する。


「えっ?母上もですか?」


会議に出ると聞いて驚いてしまった。


メルナは、政治と戦の話には関わらないようにしていたのだが。


彼女が嫌う理由はアレクは知っている。





―――――――実は母上は若い頃は凄腕の女騎士として、父上の騎士団仕えていた事があった。


騎士と言っても母上は貴族ではなく、平民の出身であるから従者扱い。


(通常は貴族が騎士で平民は従者となっている)


女騎士の頃、とある重要な任務を任された。


それは王家を中心に狙うアサシン教団と呼ばれる暗殺集団の討伐と完全なる根絶をする為、本拠の隠れ家を見つけ出す任務だった。


母上はいつもの通りの気持ちで任務を遂行する為、証拠を集積した。


ようやく隠れ家がトゥーオールの首都の外れにある山奥の洞窟にある事がわかると、これでアサシン教団との終止符が打てると信じた母上は迷う事無くブラットホース騎士団の団長に報告した。


そして騎士団と共に山狩りを開始。


その隠れ家である場所にも強襲をかける事になり、母上を先頭に木目の扉を蹴破り、剣を片手に突入した。


だが、目の前に映った光景が母上に戦う戦意を削いだと言う。

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