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片目を失った少年 その4

ガルビオンも同じくメルナに驚いた視線を送る。


(あの恐れを知らなかった豪傑の女騎士が泣いている………)


王の間ではひそひそと声が出始めた。


「虚け者よ………」


「やはり、アレク王子には跡継ぎとしての才が欠けているよ」


「まだ、お若い。仕方あるまいて」


「しかし、アレク様は悪魔の呪いを受けているとか、なんともおぞましい事よ」


そんな声があがったが、アレクは気にしなかった。


他人の評価などどうでもよかった。


「―――――メルナよ、アレクは次の王になる跡継ぎだ。民を束ねるには経験が必要。よかろう。その申し出、しかと聞き入れたぞ」


「お待ち下さい!アレクはまだ十一になったばかりですよ!そんな子を危険な調査隊に入れるなんて、どうかしています!私はもう胸が張り裂けそうです」と言うと、目の前に居るアレクを腕を掴み、そのままぎゅっと抱きしめた。


「は、母上!?」


久しぶりに抱きしめられて為、彼は戸惑う。


そして、圧迫さて息苦しかった。


(そこまで心配しているとは……)


しかし、アレクは、それよりも竜が気になった。


あの太古の生き物には、どんな力が秘められているのか、またそれを手に入れたらどうなるか。


(もしかすると………この忌々しい僕の右眼を治すことが出来るかもしれない)


アレクは謎の重病によって、なんとかは完治したものの後遺症のようなものが残っていた。


時々であるが、激しい頭痛とめまい、そして、自分の心臓を誰かに握り潰されそうな激痛が起きる。


周囲では、悪魔の呪いの仕業とか、死神がその命を奪おうとしていると王城内で囁かれている。


だから、メルナにとっては、いつまたその発作が起きるかわからないくて、心配で仕方が無かった。


「ならば、私の騎士団も同行させよう。小隊だが、それでも優秀な者を付ける。それでいいだろ。メルナ?」


メルナは下を向いたまま、無言で考え込んだ。


唇を噛み締めると、ようやく考えがまとまったのか、小さな声で言った。


「わ、わかりました………。国王がそういうのであれば、私は反論はしません」とそう言うと、アレクに視線を向けた。


「アレク………本当に大丈夫なのですか?」とメルナはアレクの頬を両手を添えると、眼帯を付けた右眼を左手で優しく擦る。


それにアレクが嫌そうな顔をした。


「母上、僕の右眼に触ると、呪いが移りますよ―――」


冗談を交じえたその発言に周囲からどよめきが起きた。


アレクがざわついた者達を見渡す。


(まったく、うるさい奴らだ。いちいち反応する)


視線をメルナに戻して言った。


「―――ですからそろそろその手を放してください」


それにメルナは何も言わず、眉を八の字にして、泣き崩れた。


アレクもどう話し掛けたらいいかわからず、ただ見つめるだけだった。


何も彼が死ぬとは決まってない。


そんな危険な任務でもないし、王の直営の騎士団が同行するのだから安全だろう。


ガルビオンのブラットホース騎士団はシェールが建国された時に結成された組織である。


初代騎士団長はサーベントという人物でその凄腕から王の剣と言われた男だ。


現在はノイス・バートンという成年が騎士団長を務める。


ノイスは騎士団長としてはまだ若い二十三歳である。


それには理由があるそうだ。


ガルビオンが数年前に調査隊とブラットホース騎士団を自ら指揮し、自ら現地に赴いた。


いつもの事で、少し気が抜けていたのかもしれない。


この日の調査対象地域はバルクルィン戦争において、ミラハルム国軍三千名の兵士が全滅したといわれる死の雪山だった。


その山は標高も高く、極寒の地として知られ、永久凍土の氷に包まれている。


そのせいで数千年前の大戦跡が今も残されているという訳だ。


累々と横たわるミラハルム国軍の亡骸、もちろん竜達の骨もある。


当然、そこらには、人が踏み入れない地である為、静かな場所を好む魔物を呼び寄せてしまう。


それらの調査をするはずだったのだが、道中、突然雪崩が発生した。


それに巻き込まれたガルビオンと調査隊は山の斜面を勢いよくずり落ちていった。


しかし、運良くガルビオンとノイス、調査隊の数人が生き残った。


ノイスは帰還する王を警護する為に護衛の任に就き、数名の部下を指揮した。


帰還の道中、野党・盗賊・追いはぎなどに襲われる事態があったが、すべて彼一人で返り討ちにした。


ガルビオンは、その勇ましく勇敢な若い騎士を気に入り、それ以来、彼を信頼している。


そして、有能なる者として称えた。


こうして、直属の騎士団の団長としてノイスを推薦したわけだ。


その後、雪崩に対して再度、調査が行なわれた。


あの突発的な事故は明らかに人為的なものだと王の親衛隊将校は考え、王を狙った暗殺では?という話も出始めた。


暗殺となると国の一大事となる。


脅威は早急に、排除せねばと、親衛隊が中心となって調査した。


そのうち、なんとも不可解な事がいくつか見つかる。


事情聴取で地元の農夫に聴くと、あれだけの雪崩が起きることは滅多に無く、過去にそういった例がないという。


何人かの農夫は、呪文のようなまがまがしい声が山の奥から聞こえたという主張もあった。


だが、ガルビオンはこの事態を重く受けとめておらず、調査もそれっきり、打ち切りとなってしまった。


親衛隊将校が打ち切りに疑問したが、ガルビオンがそんなことに税金と時間を無駄にしたら民衆に波紋をよんでしまうし、それに国外にその情報を漏らしたくないと言った。


親衛隊将校も王がそこまで言うのであればと、それに異議を申さず、そのまま黙り込んだ。

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