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片目を失った少年 その2

―――――――ペシッ。


乾いた音がなる。


ここで、もう一度、その若い女性が手に持つ指揮棒で彼の頭を叩いたのである。


「いいですか?弓を射る時は、敵を十分に引きつけなくてはなりません。でないと、矢の威力が落ちてしまい、それでは、ただばら撒くようなものです。そして相手に恐怖心を与える役目もあるんですよ。これは基本中の基本!そのようでは、戦場にも出れませんよ!」


「つぅ。お前は、僕に対しての手加減を知らんのかッ?」とアレクがそう不満を漏らすと、背後で、指揮棒をブンブン振る若い女性を睨み上げる。


その鋭さは、何事にも挫けない真っ直ぐな志と誰をもその力によって、従わせようとする態度が現れていた。


まさに王の証だ。


(おぉなんというその眼差し、その怒りのこもった表情はとても素晴らしいわ。やはり、貴方様は王の器がある)と彼女は感動してしまった。


さらには、その向けられた反抗心には、恐怖ではなく、愛くるしいと思ってしまった。


アレクはそれとは違って、別のことを考えていた。


(………わからん。敵が城壁に近づく前に連射してしまえばいいじゃないか?それに………)


「ディーナ。後、ここの部分がよくわからん。教えろ」


彼の後ろに立つ可憐で気品のよいこの女性の名はディーナ。


アレクの教育官として、剣術、学問、礼儀作法全てを教える役目を担っている。


しかし、だからといって、一国の王子を揮棒で叩くなど、普通はあり得ないだろう。


下手したら、王族に対する暴行罪で絞首刑なのだが。


彼女はそれが特別、許されている。


アレクの母親、つまりは王妃に直接選らばれた教育官なのだから仕方がない。


(私はアレク様が愚王にならない為にも、そして………敬愛の示す為にも、全て責任を持って教えてさしあげなければッ!)


彼女は、目の前で頭を抱えて、唸るアレクを見下ろし、そう意気込んだ。


しかし彼女の愛の鞭は、打たれる本人にはまったく伝わらず。


(僕が王になったら、絶対、ディーナをとことん、いじめてやる)とこのように、憎悪を心に秘めていた。


アレクが教えた事を全然理解していない事を悟ったディーナは再び、呆れてしまい、肩をすくめて、深くため息をついた。


(それにしても、私が教えたこの数時間はいったい、なんだったんだろうか………?)と心の中でつぶやく。


「ディーナ、早くしろ」


「あ―ですから、それは先ほどいったばかりで―――もう今日は終わりにしましょう」


それにアレクはガッツポーズを小さくした。


(よし。今日もつまらん勉学の授業は終わったな。これで部屋で侍女らへんとゆっくりチェスができる)


ディーナは思わず自分の額に手を置いた。


嘆いているようにも見える。


そんな中、突然、ノックも無しに扉が開く。


城の衛兵隊長のヨハンが冷汗をかきながら現れたのだ。


それを見て、アレクはさほど、驚くことなく、頬杖をついて尋ねた。


アレクは、どうせ、今日開かれる晩餐会の予定がずれた、とかだろうと考えたからである。


「なんだ、騒々しい。全くお前は礼儀も―――」


「アレク様!国王陛下が御呼びであります。早急にと」


ヨハンは目を見開いていた。


それには、よっぽど、重要な事なのだろうか?とアレクは思ってしまった。


「何をそんなに急いでいる?」


全く状況がわからかないが、先程から、城内がやけに騒がしくなってきた。


(いつもは静かなのだが………)


「とにかく急いで下さい!」


衛兵隊長ヨハンがアレクの元へ駆け寄ると、強引に腕を掴み、引っ張り上げる。


そして、そのまま、走り出した。


ヨハンの足に追いつけず、アレクは足が縺れそうになった。


腕も千切れるかと思えたので怒鳴った。


「引っ張るな!痛いだろうが?!」と言って、その掴まれた手を振り払う。


「申し訳ありません!」


「全くけしからん。お前はこれが王子に対する扱いか?僕は物ではないのだぞ?」と腕を組んで、不貞腐れた。


(アレク様、その態度は子供ですよ………)とヨハンは心で注意する。


「その、ご無礼を致しました。しかし貴方様は走るのが遅いので、つい―――――」と後頭部に手を当てて、ぺこぺこと頭を垂れた。


アレクの顔が引きつる。


(おいおい。今、さりげなく、僕を馬鹿にした気がするのだが?こいつは、確実に不敬罪だろ?父上に言って、死罪にしてもらおうか?)


そう文句を垂れていたアレクだったが。


今は、父親に呼びつけられている為、流石にのんびりと行くわけにもいかず、少し早歩きで、向かう事にした。


移動中、螺旋階段の途中にあった窓で外を覗く。


すると、城中の衛兵が慌てて、近衛兵までが走り回っている。


「これはどうした?敵の攻撃か?」


これはただごとではないと思い急いで王の間に向かった。




―――――――――王の間の大きな扉を勢いよく押し開けて、アレクが歩いていく。


彼の靴音が天井に響きわたり、控えていた衛兵がうやうやしく頭を下げる。


その奥には、彼の母親であり王妃でもあるメルナとその父親であり王であるガルビオンが玉座で腰を下ろし、アレクを待っていた。


アレクは、王と王妃に対して一礼した。


「父上、何事ですか?」


それにガルビオンが重々しい口調で返ってくる。


「………アレクよ、東洋の国、ジパングを知っているか?」


(わざわざ王の間にまで呼び出しておいて、最初の質問がそれか?どうゆう意味だ?なにか、意図があるのか?)

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