フェレナス戦記 その3
………我らが偉大なる英雄王は死んだ。
この戦いは勝利でもあり、敗北でもあった。
なんとも、歯切れの悪い合戦だった。
しかし、不思議な事にアンクルの剣だけは石化しなかったのである。
剣が無事でも、王の死の影響は大きかった。
大戦終結と同時に有能な指導者を失ったミラハルム国では権力に欲を出した複数の者が反逆を起こした。
こうして、ミラハルム国の存在はその後、歴史の闇へと消えてしまうのである。
故郷を命からがら脱出したガランハル一族はその後、遠方の地に逃れたとされている。
また残された竜達の中には竜王の復活を願って何体かが人の世界に残った。
特に残った竜達の中で蒼竜フキルスは危険であったがその姿はフェレナス会戦後は誰も見ていない。
民衆の間では再起を計って、人に化け、何処かに潜んでいるのだと噂された。
だが一番有力なのがフェレナス峡谷を越えた所の死の森スヤヌーエルに移り住んだと言われている。
また竜達のほとんどが空の果て、竜の始まりの地エハレクの浮遊大地である二つ目の世界に帰ったとされている。
エハレクは翼を持つものだけに住むことが許される大地である。
人間には行くことはできない為、実在するかは誰にもわからない………
このバルクルィン戦争は忘れてはならない。
後世に語り継ぎ英雄王ガランハルが守ったこの大地に我々が平和に住み続ける限り。
私の名前はゲルヴァ。
王に仕えた予言者であり魔導師でもある。
最期の予言を、私はここに書き記そう。
“王の末裔と竜人が会う時、再び世は、戦乱に巻き込まれ、竜王の復讐を果さんとする者が動く。”
――――――――悪しき者、バルクルィンの血を引き継ぐ者が現れ、父の無念を晴らさんと、人に復讐成し遂げんと野望する。
大地は暴れ揺れ、空は漆黒の闇に包まれる。
街は業火に焼かれ灰とかし、その死の灰が大地に降り注ぐ。
疫病が蔓延し、我ら人々は滅びの時を迎えるだろう。
ある国の王は国の為に死する。
しかしガランハルの末裔、再び、アンクルの剣を手にするならば、悪しき者を倒さんと立ち上がる。
若き王の旗に人々は集う。
勝利をもたらした王の子は若き英雄となる。
玉座に座り王冠をかぶる時、人々は歓呼高く叫び、敬愛し、また敬畏するだろう。
英雄の帰還、英雄を迎えよ。王の都へ――――――――――
―――――“英雄の願い詩”――――――
遥か、彼方の向こう。
忌み嫌われし大地に。
我らの、英雄は、そこに眠る。
遠方の彼方に目を向けて
共に、この願い詩を歌おう。
届け遥か彼方、伝われ、我らの英雄に
いずれ、迎えに行こう。
新たな王を連れて、必ず取り戻す。
我らの愛しき王国、ミラハルム。
悪しき者を打ち倒し、安息をもたらそう。
我の子に、平和と愛を。
遠方の彼方に目を向けて
共に、この願い詩を歌おう。
届け遥か彼方に、伝われ、眠りし英雄に
フェレナスに一人寂しく、一人哀しく
冷たくなった石体を残した英雄を迎えに行こう。
そして共にミラハルムへ。
例え、そこに石体が無くとも、魂を持ち帰ろう――――――――




