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フェレナス戦記 その2

――――――ミラハルム国暦六〇三年一二月四日


寒空の雪が降る中で、フェレナスの会戦の始まりである。


大平原のモントヘルムにバルクルィン率いる竜軍とガランハル王率いるミラハルム国軍(同盟軍)の両者は決戦の地に着いた。


静寂に包まれる。


竜達、または人々は何を思ってこの場にいるのだろうか。


戦列の前に王ガランハルは立った。


そして振り返り、兵士の一人ひとりの表情をゆっくりと見渡す。


彼には兵士達の胸の奥に潜めた心の声が聞こえるような気がした。


王と共に死す。


そのように聞こえた。


だからここまで就いて来たのだとガランハルは自分に言い聞かした。






――――――――戦いの角笛が鳴り響いた。


遂に戦いが始まったのである。


戦いの選局は、数分で動いた。


数万とも言える大軍で竜軍に戦いを挑んだものの、勝てなかった。


強靭な竜の鱗は剣をはじき返し、竜が使う古の魔術に圧倒された。


地平線は竜が放った業火で火の海。


陣形が崩れ、兵士は恐ろしいほどいびつい尻尾で高々に吹き飛ばされた。


敗北は濃厚。


というよりも、無謀だったのかもしれない。


兵士に屈した表情が表に出始めていた。


それでも王であるガランハルは剣を両手に構えて突き進んだ。


彼の目標はただ一つ、竜王バルクルィンを倒すだけである。


なぜなら、奴を倒せば、この戦いが終わると信じていたからである。


いくら味方の屍を見ようとそれを踏み潰そうと、その駆ける足を止めなかった。


バルクルィンに剣を降りかざす。


しかし、弾かれる。


それでも諦めず、今度は、落ちていた長槍を手にして、それを投げつける。


バルクルィンとの数時間の死闘の末、彼はようやく霧深いフェレナスの峡谷に追い詰めた。


身に着けていた鎧は竜と味方の兵士の血で赤く染まっていた。


周りを見ても、目の前の奴しかいなかった。


なぜなら、フェレナス峡谷は戦場から一〇キロほど離れているからだ。


ついてくる味方は一人としていない。


(全滅かそれともまだ戦っているのか………)


それすらわからない。


ガランハルは息を大きく吸い込み大声を奴に叩きつけた。


「破滅をもたらしたバルクルィンよ。お前をここで倒す。出でよ。そして汚らわしい姿を現せ!」


峡谷に王の声が何回も響いた。


視界が険しい。


霧の深さで、六〇センチ先も見えないほどだった。


ガランハルが目を顰め、神経を尖らせる。


数秒後、別の野太い声が返ってきた。


「ええぃ!人間め、出て来い。小賢しい真似を」


バルクルィンはガランハルの居場所がわからないようだ。


(好機なり)


この深い霧により視界の悪いのであればこっちは有利だ。


竜の体は巨大でしかも眼が黒く光っていて何処にいるか直ぐにわかる。


(――――奴をここで倒せる!)


ガランハルは覚悟を決めた。


左手を拳にし、胸にあて念じる。


ここですべてを終わらせると。


すると何も前触れも無く、空より声が響いた。


それはまるで穢れを知らない清らかな聖なる声。


思わず見上げる。


空は漆黒に包まれているはずだったが雲の間から一点の光が見える。


不思議な声はガランハルに語りかける。


(ガランハルよ。古の掟を破りし悪しき竜王を倒すのだ!)


あまりにも突然だったが、その声は誰なのかは直ぐにわかった。


神ラスタの声だ。


そして空より雲の間から光が射し照らされ目の前に一つの武器が現れたのである。


その武器は独特でありガランハルがこの世界で一度も見たことのない物だった。


続けて神ラスタの声が頭の中に響く。


前よりも強くはっきりと聞えた。


「その剣の名はアンクル。竜王を倒す為だけに造られた神剣だ。さぁ受け取るのだ」


そう言われたガランハルは右手に持っていた剣を鞘に収めそのアンクルの剣を手に取る。


(なんだこの軽さは………?)


彼は驚いた。その剣はまるで羽毛のような軽さだった。


(素晴らしい剣だ)


見惚れてしまい左手でアンクルの剣の刃を人差し指で触れた。


力は入れていないのに指から血が出た。


だが、不思議と痛みを感じない。


この剣の鋭さならあの鱗も紙切れだ。勝利を確信した。


「さぁ戦いの続きを始めよう。そしてこの戦いに終止符を打つッ!」


「人間ごときに我を倒すことは出来ん。貴様を灰にしてやる」


この瞬間に世界の行く末はガランハルとバルクルィンに託されたのである。


閃光の如く振りかざされる神の剣と、猛烈な炎。それは運命の戦いとも言える。


そして雌雄は決した。


ガランハルは軽快な動きでバルクルィンの攻撃を避け懐に入り込み心臓を刺した。


「がぁあああ―――――!??なぜだ?これはいったい何だぁ?!力が吸い取られるではないか………ぐぉおおおうぅ。し、勝利を約束された、この我が?!おのれ許さん………許さんぞ人間の王よ!」


声を震わせながら言う。


その恨みは表情に表れていた。


そして、バルクルィンは睨みつけながら倒れたのである。勝利した。


王ガランハルは息を吐き剣を収め竜王に背中を向け家族の元へ帰ろうとした。


だが彼は甘かった。


バルクルィンはまだ生きていたのである。


竜王は最期の力で古の魔術を使った。


石化魔術である。(すべての対象を石化する禁断の魔術)


王の体は瞬時に石に変わってしまった。

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