初の任務 その2
あまりの衝撃さにメルナは言葉を失い、悪を屠り、正義の為に振り上げた冷たい剣先が止まる。
その隠れ家には――――――――子供がいた。
しかも、全員子供。
年長でも、13歳~14歳ぐらいの子しか居なかった。
驚きつつも状況の把握の為に見渡すが、子供たちは誰もが全員、凶器の目をし冷酷な、邪悪な顔つきで、今にも襲い掛かって来るようだった。
ブラットホース騎士団は王に対して忠誠と秩序をなによりも重んじる。
騎士団長の命令が下りた。
“討伐せよ”
それをメルナは拒否した。
しかし、それは反逆行為。
そして、何より敬愛し、忠誠を誓う王を裏切る事になる。
それに従わなければ、自分の身の保障もない。
街角に吊るされるか斬首だ。
メルナは唇を噛み締め、小さくつぶやく。
「ごめんなさい………」
彼女は心を鬼にして、暗殺集団を正義の名の下に全てを討ち取った。
無我夢中で、仲間の為に、王の為に、平和の為に、正義の為に戦った。
気がついた頃には、自分の手は血塗れになり、返り血を浴びて、地面は血の海になっていた。
その時、メルナは自分の剣を棄てると決めた。
もう二度と人は殺めないと。
正義とは何か?
正義だからとそれだけで小さな子供を殺していいのか?
彼女は自分が信じるものがなんなのか、わからなくなったからだ。
この討伐で活躍したメルナの事は王宮で“冷血で血も涙もない女騎士”と伝えられる。
その報告は王の耳にも入ると、豪傑な女騎士とはどのような容姿をしているのか知りたくなり、いてもたってもいられず、謁見するように求めた。
謁見の場で、労いの言葉と褒賞を与えようと思っていたのだが………。
メルナの気丈な振る舞いと凛々しい姿に一国の王は何を間違ったのか突然、玉座から立ち上がり、歩み寄ると、彼女の両手を手に取った。
「メルナよ、俺の嫁に来い」
「え?」
それには大臣らの目が点になった。
言われたメルナも同じく困惑した。
そして、静寂しきった中で今度は「君は俺の盾になれ。俺は君の剣にってやる」と言った。
………要するに剣を置いた君を俺が守ってやる。という意味らしい。
最初聞いた時には、なんとも恥ずかしい台詞で笑いが止まらなかった。
今でもその台詞を思い出すと吹いてしまう。
なんだかんだで、今にいたっているが辛い過去があるのにメルナは笑顔が耐えない。
どうやったら、精神を保てるのか………。
アレクにとって、それが疑問でしかたなかった。
ところで会議でまさかと思うが「私も剣を持ち再び騎士として戦う」とか言ってたりして………
(それは、流石にないか)
アレクはふと我に返り思い出す。
「あー父上、忘れていましたが、そろそろディーナの所に行かないといけません。これにて失礼しますよ」
「おぉそうか。ではこれからも励めよ」
ガルビオンはそう言うとまた右手で自慢の顎髭を触りながら会議室に向かって行った。
僕も行くか。
あの人は根は優しいんだけど、一言ひとことが心に刺さるんだよなー………。
アレクはしぶしぶ、ディーナの待っている王立図書館に急ぐ。
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前に言ったかも知れないが城内はとても広い。
たまに自分でも迷ってしまうほどだ。
(まったく、なぜ、こんなに広いんだ………)
自分の城に嫌気していると、曲がり角で衛兵とすれ違った。
その衛兵はアレクの存在に驚く素振りを見せると、すぐさま、姿勢を正しピシッと敬礼をする。
「王子様!!今日もいい天気でありますっ!」
(また衛兵のどうでもいい機嫌取りか………。てか今日は曇りだった気がするが)
「…勤務ご苦労」と僕は右手で挨拶するとそのまま流れるように通り過ぎた。
毎日が面倒だ。
同じ会話を何回したことか………。と呆れながら、王立図書館の分厚い扉の前に立った。
「おい。開けろ」
扉を守る二人の衛兵にそう命令する。
衛兵は姿勢を正し、敬礼をすると分厚い扉を押し開ける。
王立図書館の奥でディーナがティータイムをしていた。
目の前にある長机に座って、右手に装飾の施された陶器のカップを持っていた。
「うん?あぁやっと来ましたか。少し遅刻ですね」と小さく呟いていた。
その声を僕は聞えなかった事にした。
「さてアレク様、今日は特別な事をしますよ――――」
右手に持っていた陶器のカップをそっと長机に置き立ち上がる。
いつもより難しいことなのだろうか?
疑問に思い問いかけた。
「はぁ、その特別とは?」
するとディーナは隙間なく保管されている本棚に向かって歩いき始めた。
アレクもその後に続く。
「え―――とっ、ここにあったはず。あれ………違うわね。あら?何処に置いたのかしら。も~」
小言を言いながらガサガサと本棚と探し始める。
「歳ですか」と小さくつぶやいたが、それが聞えたのか、ギロリと睨みつける。
冗談ですとアレクが言うと再び、本棚を探し始める。
「あっ、あったあった――。私としたことがこんな所に置いていたとわ。てへっ」というと自分の頭をポンとコツく。
アレクはその光景にあまりにも、驚きすぎて苦笑いになる。
「てへって………」と言葉が漏れる。
「それで、その本か?」
「えぇそうですよ―――――」
ディーナが、コホン。と咳払いと一つした。
「―――――では、国王陛下の命令で今日は古代文学のミラハルム語について学びます」
「ミラハルム語?」
その言葉の意味を調べることは定めによって固く禁じられている。
まさか、父上自ら定めを破るのか。
「ディーナ、それは定めで禁じられているはずだ。まさか父上がそんな事を命じるはずがない」
するとディーナは、周囲に視線を配ると、図書館の守る衛兵に対して手でひらひらと合図して退室を命じた。
王立図書館の中で二人になったことを確認したディーナは、アレクに近づいて耳元に手を添えると小声で言った。
「よいですか。アレク様、定めでは“王の一族と信頼きる者には許す”と明記されています。知っていたと思いましたが………まさか知らなかったわけないですよね?」
「えっ?そ、そんな訳は無いですよ。嫌だな。アハハ。アハハハハ――――」と苦笑いでアレクはごまかした。
(知らなかった…)
ディーナもアレクの笑いに釣られて笑った。