第15話『ウラオモテ』
まさか、金倉さんが樋口先生に告白しようとした瞬間に、遠藤さんがたくさんの男子学生を連れて研究室にやってくるなんて。まったく、この上なく悪いタイミングで来てしまうものなんだな。
「金倉を全員で味わおうと思ったんだが、今は4人もいるのか。高校生の女の子が2人もいるなんて。これは良い意味で予想外だ」
「……あなた方はどういう繋がりなんですか?」
同級生にしては多いような気がするし、サークルとかでの繋がりなのか? あと、金倉さんを味わうということは、不埒な行為でもしようとしているのか。
「まあ、表では映画研究会って名乗っているけど、本当の活動目的は女とヤることなんだよ。高校生のお坊ちゃんには早かったかな?」
「女性から告白はされましたけど、そういう行為は一度もないんでね。まさか、金倉さんに交際を迫ったのはこれが目的ってわけですか」
「当たり前じゃないか。本来ならそこにいる樋口もターゲットだったが、樋口は色々と忙しそうで接触するチャンスがなかったんだよ。それに、金倉は樋口が卒業して1人きりになったから、アタックしてみたらなかなか落ちねぇ。まさか、その理由……樋口が好きだからってわけじゃねえよなぁ?」
「もし、そうだとしたらどうするつもりですか?」
「気持ち悪ぃ! 女同士で付き合うなんてさぁ!」
そう言って、遠藤さん達は大笑いする。ああ、そんなことを言って大笑いをしたら間違いなく、
「黙りなさい! 気持ち悪いのはあなた達の思考の方ですよ!」
やっぱり、百合をこよなく愛する恵が黙っちゃいなかった。
「人を愛することは性別関係なく美しいことなのです! あなた達は私よりも年上なのにそんなことも分からないのですか! それを気持ち悪いというあなた達の思考回路が気持ち悪いですよ! 笑わせないでくれませんかねぇ!?」
「何だ、このメガネ女! 女なんて男の欲求を満たすためだけにいるんだよ!」
「それが大学院に通っている人のお考えなんですかね?」
「何だと……!」
よし、少しの間は怒り狂った恵に任せよう。
「樋口先生、いや……ルーシー。お前の意識もちゃんとあるんだろう? このままじゃ、あの男達に力ずくで思うままにされてしまうかもしれない。ルーシーとエリュが協力すれば、あのくらいの男達は何とかできるはずなんだ!」
遠藤さんは10人以上の男子生徒と一緒にいる。2、3人程度なら俺とエリュで何とかなると思うけれど、あの数じゃ対処しきれない可能性が高い。
「しかし、吸血鬼と協力するなんてこと、魔女のあたしが……」
良かった、ルーシーの意識があったんだ。
「えっ、早紀ちゃん? どういうことなの? 吸血鬼とか、魔女とか。それに、さっきと話し方が変わっているし」
「事情は後で説明します、金倉さん。ルーシー、魔女としてのプライドがあるのは分かっている。けれど、これは樋口先生と金倉さんという2人の人間を守るためなんだ。このままだと遠藤さん達に2人が傷つけられてしまうかもしれない」
「だけど、あたしは……!」
「ルーシー!」
俺はルーシーの両肩を強く掴む。
「前に、ルーシーは先生の苦しみをなくしたいって言っていたよな。それを、あと少しでなくすことができるんだ。それが分かっているから、今まで静かに見守ってくれていたんだろう? だけど、遠藤さん達の思い通りになったら、それは樋口先生を今まで以上に苦しめることになるかもしれない。樋口先生を助けるためにも、エリュと協力して遠藤さん達を倒してくれないか」
ルーシーはとても悩んでいるようだ。人間を守るためであっても、宿敵である吸血鬼と協力することに。
恵の様子を見てみると……さすがは恵だ。今でも遠藤さんを相手に堂々と言い合っている。百合のことで怒らせたら敵なんていないんだろうな。あっぱれ。
「……何となくですけど、あたしは何のために魔女をやっているのか分かった気がします。結局は誰かを守りたいからなのです。だから、樋口早紀さんと金倉麻衣さんに免じて、エリュ・H・メランと協力します」
「ありがとう、ルーシー」
「とりあえず、あの男達の動きを制止できればいいんですよね?」
「ああ、そうだ」
すると、ルーシーはエリュの隣に立って、
「……エリュ・H・メラン。あたしが術式を使って、男達を金縛りにかけますので、その間にあなたがどうにかして男達を気絶させてください」
「分かったわ! 恵さん! あとはあたし達がやるからこっちに来て!」
「ええっ? 仕方ないわね、今日はこのくらいにしておいてあげるわ!」
恵はそう言うと怒った表情のまま俺の所までやってくる。
「さあ、女性を傷つけようとするあなた達には痛い目に遭ってもらう必要がありますね」
「何だと? 樋口に何ができるっていうんだよ?」
「そう思うなら、大人しく痛い目に遭いなさい! はあっ!」
ルーシーが両手を開いた状態で手を突き出す。
すると、遠藤さん達は自分の体の異変に気付いたのか、表情が崩れ始める。
「どうしてだ! 体が動かない……!」
「さあ、エリュ・H・メラン! 今のうちにあの男達を倒しなさい!」
「分かったわ!」
すると、エリュの姿が急に消え、
「うっ……!」
エリュが姿を現したと思ったら、遠藤さんがそう声を漏らしてその場に倒れた。その繰り返しで男子学生達を全員、気を失わせる。
「……ふぅ。まあ、相手は人間だから力を入れて、鳩尾に渾身の一発を食らわせたわ」
「な、なるほど」
ちゃんと相手に応じた攻撃方法を考えているんだな。しかし、一瞬のうちに次々と男子学生を倒していったな。金縛りなんて必要ないくらいに鮮やかだった。
「あんなにあっさりと倒せたのであれば、あたしが金縛りをする必要はなかった気はしますけど、今は清々しい気分です」
「ううん、あなたが金縛りをしてくれなければ、今みたいにはできなかった。大勢いるから、あんな動きをしていても取り押さえられてしまったかもしれないし。ありがとう」
エリュは笑顔でルーシーに手を差し出す。
「……まさか、吸血鬼と気持ちが分かり合える日が来るとは思いませんでした。こちらこそ、樋口さんと金倉さんのためにありがとうございます」
そう言って、ルーシーも笑顔になってエリュと握手を交わした。いつかは吸血鬼と魔女がこういう風に握手ができる日が来ればいいな。
「結弦、この男達はどうしようか?」
「大学の事務室に連絡して、事情を言って警察に通報してもらおう。金倉さん、事務室の番号って分かりますか?」
「えっと、確か、バッグに大学の手帳が入っていたはず……」
そして、俺は金倉さんから事務室の番号を教えてもらって、研究室の中にあった固定電話から電話を掛けた。事務の方にこれまでの経緯を説明すると、警察に通報してもらえることになった。
そして、程なくして警察が大学に到着し、遠藤さん達は強姦未遂の現行犯として逮捕されたのであった。




