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吸血彼女  作者: 桜庭かなめ
第4章
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第11話『待ってて。』

 金倉さんに電話を掛けている樋口先生。

 金倉さんが先生に対してどういう風に言ってくるかを俺達も聞いておきたいので、

「スピーカーホンにしていただけますか」

 と、樋口先生にお願いする。

『早紀ちゃん? 急にどうしたの?』

 先生がスピーカーホンにしてくれたおかげで金倉さんの声が聞こえる。突然の電話だからなのか金倉さんは驚いているようだ。

「いや、さっき……椎原君とエリュちゃんから昨日の話を聞いてね。それで、一言お礼が言いたくて。昨日はどうもありがとう」

『ああ、ううん……2人が来てくれて私も楽しかったよ。早紀ちゃんがしっかりと教師をしているんだな、って安心したし』

「麻衣の方はどうなの?」

『今は春学期の講義中心だからね。基本は1人で受けているから、早紀ちゃんが隣にいないと寂しいかな、って』

 入学した直後に出会って、4年間ずっと一緒にいたって言っていたからな。1人で講義を受けることに慣れていないんだろう。

「まったく、最高だぜ……」

 2人の会話が魅力的だからなのか、恵はとてもニヤニヤしている。お互いに相手を好きだと知っているからこそ、興奮してしまうところがあるんだろう。

『早紀ちゃんの方は大丈夫?』

「教えるのは大変だし、色々な生徒がいるけれど……クラスの子や先生方に本当に助けられているよ」

『……椎原君とエリュちゃん、とてもしっかりしているもんね。特に椎原君は。……実はね、昨日……2人に助けられたんだ』

「……遠藤先輩のこと、だよね。椎原君とエリュちゃんから話は聞いているよ。卒業式の直後から、交際を迫られ始めているって……」

 よし、自然な流れで遠藤さんの話題にすることができたぞ。

『……うん。椎原君やエリュちゃんがいなかったら、って思うと凄く怖くなる』

「そう、なんだね。今まで話を聞けなくてごめん」

『そんなことないよ! だって、今まで言えなかったのは私のせいだから。これからは早紀ちゃんに連絡するね。あと、これは聞いているかどうか分からないけれど、椎原君にも守ってもらえるから……』

 今の金倉さん、きっとうっとりとした表情になっているんだろう。昨日、俺が遠藤さんから守ってくれたことがとても嬉しかったんだと思う。

「ええ、その話も聞いているわ。椎原君が咄嗟に麻衣が自分に好意を抱かれているって嘘を付いたのよね。そうしたら、本当に椎原君のことが好きになっちゃったんだっけ?」

『ふええっ! 椎原君、そのことまで話しちゃったの!?』

 あわわわ、と金倉さんの慌てた声が聞こえてくる。まあ、下手に隠すよりも正直に言ってしまった方がいいと思って俺に好意を抱いたことまで伝えたけど、それはまずかったか。

「まあ、椎原君にはエリュちゃんっていう大切な人がいるけれどね……」

 不満げな表情を浮かべながら俺のことを見てくる樋口先生。気持ちは分かりますけど、本命は先生ですからね。それは分かっていますよね。

『そんな感じはしてた。2人が研究室に来たとき、エリュちゃんがぎゅっ、と椎原君の手を握っていたから』

「ホームステイしている子だからね。椎原君と四六時中一緒なの」

『ホームステイって言っても、あんなにかっこいい男の子とずっと一緒にいたら多分好きになるよね。エリュちゃんはきっと椎原君のことが好きだよ。椎原君、とてもしっかりしていて優しいし。彼、1ヶ月半に20人以上の女の子に告白されたんだって』

「そうなの。さすがは私の自慢の生徒だわ」

 告白された人数が多いからって自慢しないで欲しいんだけど。それが主な原因で今までいじめられてきたんだから。

 2人に色々と言われてしまっているエリュの顔を見てみると、彼女は真っ赤な表情をして俯いていた。そんな彼女のことを恵と真緒がニヤニヤ見ている中、結衣だけが微笑ましく見ているのが印象的だ。

『話は戻るけれど、遠藤先輩のこととかで椎原君にはお世話になっちゃうかもしれない。早紀ちゃんが受け持っている大切な生徒さんを……』

「遠藤さんに関することは椎原君から一通り聞いているから。気をつけなさい、って言っておいてあるわ。あとは、必ず私にも言うことってね」

 そう言って、樋口先生は俺にウインクしてくる。もちろん、金倉さんのことだから樋口先生に必ず伝えるつもりだ。

『あとさ、早紀ちゃん。……明日、お仕事が終わった後に会えるかな』

「うん。予定はないから大丈夫だけれど」

『……そっか。じゃあ、明日……久しぶりに会おう。それで、その……その時に大事なことを伝えたいから』

 大事なこと。それって、やっぱり樋口先生に対する想い、だよな。

「分かった。私も……麻衣に伝えたいことがあるの。だから、明日の仕事が終わったらすぐに麻衣に会いに行くから」

『うん。待ってるね。お仕事が終わったら連絡くれるかな。私の方は夕方までには講義が終わるから』

「うん、分かった。じゃあ、またね」

『うん、またね』

 そして、通話が終わる。

 明日、樋口先生の仕事が終わった後に運命の瞬間が訪れるんだな。といっても、互いに好きなのは分かっているから、あとはそれをちゃんと相手に伝えられるかどうかだ。

「金倉さんとお会いするとき、私と結弦さんがついていってもいいですか? おそらく、告白したら先生の負の感情がなくなって、ルーシーが追い出されると思いますから」

「分かった。むしろ、一緒にいて欲しいくらいだよ。麻衣にちゃんと告白できるかどうか不安だから……」

 樋口先生の顔が段々と青白くなっていくぞ。

 金倉さんの気持ちはもう知っているのに。それでも、不安になって緊張してしまうということは、それだけ想いを伝えるというのは大きなことなんだ。

 ――ブルルッ。

 俺のスマートフォンが鳴っているので確認してみると、LINEでメッセージを受信していた。その証拠にランプが緑色に点滅している。

『特に用事が無かったら、エリュちゃんと一緒に来てくれるかな。早紀ちゃんへの告白の練習がしたいの』

 と、金倉さんからメッセージが送られていた。

「エリュ、今日も大学に行くぞ。金倉さんが告白の練習をしたいそうだ」

「分かりました」

 きっと、金倉さんも樋口先生と同じなんだろう。好きだという想いを伝えることにとても緊張しているんだ。しかも、金倉さんの方は樋口先生の想いを知らない。俺とエリュでその緊張を少しでも取れるように協力しよう。

『分かりました。では、昨日と同じくらいの時間に行きますね』

 金倉さんにはそう返信しておいた。

 さあ、今回のことに終わりの目処が付いてきたぞ。ただ、遠藤さんという厄介者が絡んでこなければいいんだけれど。そこだけがどうしても不安になってしまうのであった。

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