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吸血彼女  作者: 桜庭かなめ
第4章
79/86

第10話『進捗報告』

 5月15日、木曜日。

 昼休み。俺、エリュ、結衣、恵、真緒は樋口先生に昨日の金倉さんのことについて報告をするため、個別自習室へと向かう。

 昨日の学校側の進捗については朝に恵から聞いた。金倉さん役に真緒を置き、色々なシチュエーションを想定して樋口先生に告白の練習をさせたという。口づけまで練習したそうでかなり興奮したと言っていた。

「あれだけ口づけの練習をしたんだから、必ず成功して欲しいよ……」

「本当にご苦労様、真緒」

 休み時間になっては必ず一度は言っているな、真緒は。そこまで口づけをされてしまったのか。まあ、それは恵の要求のせいだと思うけれど。

「でも、金倉さんも樋口先生のことが好きなんでしょう? 本当にリアル百合だわ。どちらも相手のことを好きなのに、お互いにその想いを口に出せない……ふふっ、次の本のネタできるわ……」

 先生以外には昨日のことを軽く説明しておいた。金倉さんが樋口先生のことが好きだと話した瞬間、恵は大歓喜。朝にはあまりの興奮で鼻血が出てしまったくらいだ。

「何だか、今の話を聞いていると、私は部活があって正解だったわ。真緒も昨日、練習に付き合わせちゃってごめんね」

「いや、別にいいよ。変な男と口づけするくらいなら、樋口先生と口づけする方がよっぽどマシだし……」

 今の真緒の言葉に引っかかったのか、恵は急にはっとした表情になり、

「……もしかして、樋口先生のことが好きになった? まさかの三角関係に発展!?」

「そんなわけないよ!」

「ええ……ちょっと期待してたのに」

「好きになれるわけないでしょ。金倉さんに失礼だわ」

 恵のあまりの暴走ぶりに嫌気がさしたのか、真緒は真顔で恵の頭にチョップを食らわせた。本当に昨日はご苦労様、真緒。昨日はもっと大変だっただろう。

 そんな話をしていたら、個別自習室の前に到着した。先生の指示で個別自習室1というところだけど……ここだ。プレートに描かれてある。

 ――コンコン。

 一応、ノックをしてみると、

『はーい』

 と、中から樋口先生の声が聞こえる。

「失礼します」

 俺達は個別自習室の中に入る。すると、そこにはこちら側に向いて椅子に座っている樋口先生がいた。

「今は樋口先生ですか? それともルーシー?」

「樋口早紀の方だよ。麻衣の話だからね」

「……そうですか」

 樋口先生が俺達の担任だからか、金倉さんと同い年であることにどうしても違和感を覚えてしまう。学生と社会人だとこんなにも印象が違うのだろうか。

「さあ、椎原君。ここに座って」

「……はい」

 俺は椅子に座って、樋口先生と向かい合う形に。何だか面接みたいで緊張するな。

「それで、どうだった? 私のこと、どう思ってた?」

「単刀直入に言うと、樋口先生のことが大学生の時からずっと好きだと言っていました。先生と同じように、好意を伝えることで友人関係まで壊れてしまうかもしれない、と怖くなってしまって結局今まで言えなかったと言っていました」

 要するに、樋口先生と同じ想いを抱いていたということだ。それを知ることができたからか、樋口先生は顔を赤くして目を潤ませている。

「……そう、だったんだ。麻衣が私のことをずっと……」

「大学2年生になったときくらいには好意を抱いていることに気付いたそうです。という話でしたよね、結弦さん」

「ああ、そうだ。そして、そんな彼女に付き合っている人はいません」

「ただ、結弦さんが金倉さんに告白されましたよね」

『えええっ!』

 そういえば、そのことは結衣達にまだ言っていなかったな。だからか、俺とエリュ以外の人間が全員驚きの声を挙げる。

「どういうことなのよ、椎原君! もしかして、椎原君って年上が好みだったの?」

「いえいえ、それは誤解ですって。先生と同じです。男性の中では俺が一番好きで、本命は先生だと言っていました。あと、告白されるに至るまでには……遠藤卓也という先生や金倉さんと1学年上の男子学生が関わっているんです」

「それって、遠藤先輩のこと? どうして、彼の名前が出てくるの?」

「……卒業式の後から、金倉さんに執拗に交際を迫ってきているんです」

「何ですって……」

 今の先生の様子だと、やっぱりこのことは知らなかったんだな。

「……どうして、一度も相談しなかったんだろう。それだけ不安だったのかな……」

「初めて交際を迫られたのは3月末だったそうです。その時期、就職をされる皆さんは4月からの社会人としての新生活に不安を抱いているはず。そんな中、自分のことで心配をかけるようなことはしたくなかったと金倉さんは言っていました」

「おそらく、遠藤さんはそんな金倉さんの性格を見越して、新年度が始まる直前に交際を迫り始めたんだと私達は推理しています」

「そう、だったんだね……」

 樋口先生、何だか思い詰めている感じだな。自分を責めているのかもしれない。

「昨日、俺とエリュが研究室にお邪魔しているとき、遠藤さんが告白の返事を迫ってきたので、とっさに俺に好意を抱いているという話にして追い払いました。今後、金倉さんに何かあるなら、俺を通せという形にして」

「そうしたら、その姿に金倉さんが見惚れてしまったんですよねぇ……」

 どうして、エリュはちょっと拗ねた感じで言うのか。

「……なるほどね、それで男性では椎原君が好きだけど、本命は私、って感じなんだね」

「そういうことです。何かあったときのために、金倉さんとは連絡先は交換しました。それで昨日はキャンパスを後にしました」

「そういうことなのね。ありがとう、麻衣が私のことを好きだっていうのが分かってほっとした。麻衣のことも守ってくれてありがとね。でも……遠藤先輩かぁ」

「すぐに告白すれば終わりって感じじゃないんですか、先生」

 結衣の考えるように、樋口先生と金倉さんは両想いで気持ちが言えてなかったので、告白すれば終わりなんだ。2人の近くに厄介な人間がいなければ。

「遠藤さんという厄介者がいるからですね?」

 恵、本人がいないからか厄介者ってズバリ言ったよ。まあ、彼の存在無ければどちらかが告白すればすんなりと終わることができると思う。

「何度も交際を迫っている人が、椎原君に一度追い払われたくらいで諦めるかな。しかも、何かあるなら自分に、って椎原君も言っちゃったし。麻衣もそうだけど、椎原君の方が遠藤先輩に気をつけた方がいいと思うよ」

「……はい」

「でも、椎原君のおかげで麻衣を少しでも安心させることができたと思うから、私からもお礼を言わせて。ありがとう。本当なら私が一番に相談に乗らないといけないなのに」

 樋口先生、今にも涙が溢れそうだった。今まで相談に乗ることができなかった金倉さんへの罪悪があるからなのかな。

「……先生、今、大学の方は昼休みですか?」

「うん。今は昼休みの時間だけど……」

「……それなら、今、金倉さんに連絡してはいかがでしょうか。こっちもまだ、休み時間は20分以上ありますから。ゆっくりと話せるんじゃないですか? 告白するとかではなく、俺やエリュから話を聞いたんだ、っていうことでいいと思いますから」

 そうやって樋口先生から話を聞き出せば、きっと金倉さんの方も遠藤さんのことで先生に相談しやすくなると思うから。

「分かった。電話……してみるね」

 そして、樋口先生はスーツのポケットからスマートフォンを出して、金倉さんに電話を掛けるのであった。

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