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吸血彼女  作者: 桜庭かなめ
第4章
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第7話『金倉麻衣』

 5月14日、水曜日。

 午後4時半。俺とエリュは、金倉麻衣さんが通っている豊栖とよす大学大学院のキャンパスに来ている。当初は恵も一緒に行く予定だったんだけれど、恵は真緒と一緒に樋口先生の告白の練習をするとのことで赤峰高校に残っている。

「うわあっ、大学って高校と比べてとても広いところなんですね!」

 確かに、こういう見慣れない広いキャンパスにいると心躍る気持ちは分かる。俺もこういう場所に来るのは慣れていない。あと、慣れていないというと……。

「なあ、エリュ。どうして制服姿なんだよ。キャンパスなんだから、いつもの吸血鬼の恰好でも大丈夫なんじゃないか?」

 アニメの影響を受けすぎている女性だと思われる可能性はありそうだけど。

「樋口先生の教え子がキャンパスを見学する、という名目で着ているんですから、制服姿の方がいいでしょう? 私、この姿だと逆におかしいですか?」

「……いや、恐ろしいほどに自然だよ。可愛い女子校生にしか見えない」

「か、可愛いですか?」

「うん。とても良く似合っているよ」

 こうして見てみると、エリュは可愛い女子校生にしか見えないな。でも、魔女との話を聞くと、実年齢は日本の高校生よりも大分年上なんだよな。

「周りから見てみると、結弦さんと私って恋人同士に見えるんですかね?」

「……手を繋いでいるから、そういう風に思われるんじゃないかな」

 しかも、今の繋ぎ方って恋人繋ぎっていうやつだし。エリュ曰く、この繋ぎ方が一番好きなんだとか。

「そっか、結弦さんと恋人同士に……」

 エリュ、とても嬉しそうだな。もしかしたら、吸血界ではこういう場所がないのかもしれないな。そして、誰かとこうして手を繋いで行きたかったのかもしれない。

「さあ、金倉さんを待たせちゃいけないから、さっそく行こうか」

「はいっ!」

 そして、俺は樋口先生に教えてもらった研究室に向かって歩き始める。しかし、大学ってやっぱり広い場所なんだなぁ。

「こっちでしょうかね?」

「そうだね」

 キャンパス内の地図を頼りに、日本語学専攻研究室の扉の前まで何とか辿り着くことができた。途中、俺とエリュが制服姿だったからか、何人もの学生から視線を向けられるのが恥ずかしかったけれど。

 ――コンコン。

 俺がノックをすると、

『はーい』

 部屋の中から女性の声が聞こえ、程なくして扉が開かれる。

 茶髪のセミロングの女性が俺達のことを出迎えてくれた。桃色のワンピースが良く似合う可愛らしい女性だな。

「あなた達が早紀ちゃんの?」

「はい。樋口早紀先生が受け持っているクラスの椎原結弦です」

「私、エリュ・H・メランといいます。ギリシャから結弦さんの家にホームステイをしています」

「へえ、そうなんだ。私、金倉麻衣です。椎原君とエリュちゃんね。でも、エリュちゃんって名前だけど顔は純粋な日本人みたいな感じだね」

「母親が日本人にしか見えない容姿で、そんな母によく似ているって言われるんです」

「そうなんだね。可愛いなぁ」

 そういえば、エリュはギリシャから来たホームステイで、日本人にしか見えない母親の血が濃いっていう設定だったな。

「さあ、中に入って」

「失礼します」

「お邪魔します」

 俺とエリュは研究室の中に入る。

 日本文学の研究室だからか、本棚には文学書とか参考書とか色々な本がぎっしりと入っているな。1人分のスペースがきっちりと確保されていて、卒業論文などを作成するためか、各スペースにはパソコンが置かれている。

「何だか机の上まで本とか、書類ばかりかと思っていたんですけど、結構綺麗で、パソコンとかもあるんですね」

「うん、そうだよ。あっ、そこら辺にある椅子、勝手に座っていいよ。普段、あまり来ない学生さんの席だから」

「じゃあ、俺がそっちから1つ拝借するから、エリュはそこにある椅子に座って」

「はい」

 金倉さんの使っているスペースは窓側で、窓から見える景色はなかなかのものだ。俺だったらきっと、コーヒーでも飲みながら気分転換するな。

 近くにあった椅子をエリュの隣まで動かして座る。

「昨日の今日ですみません。大学がどういう雰囲気なのかを知りたくなって」

「いいんだよ。それにしても、早紀ちゃんの教え子か。素敵な生徒達を相手に仕事をしているのね。早紀ちゃんの授業はどう?」

「樋口先生の授業は分かりやすいです。気さくで、凄く話しかけやすいです」

「早紀ちゃんは学生の時も、たくさん友達がいたなぁ。まあ、いつも私と一緒にいたんだけれどね。ずっと一緒だった……」

 大学生の時も樋口先生はあんな感じだったのか。それなら、友達が多かったのも頷ける。

「早紀ちゃんの授業を聞いて、文学に興味を持ったのかな?」

「元々、昔から読書が大好きで。明治以降の代表的な近代文学が特に好きですね。樋口先生がこちらの大学で日本文学を専攻されていたと聞きまして。大学院に進学している金倉さんのことを聞いて、ちょっと大学の様子を見たいと我が儘を言っちゃいました。エリュも日本の大学の雰囲気を知りたかったようなので、こうして一緒に来たんです」

「そういうことだったんだ! 最初、扉を開けたときにエリュちゃんが椎原君の手を握っていたから、てっきり2人が付き合っているかと思ったよ」

 金倉さんは可愛らしく笑いながらそう言う。そんな彼女の言葉にエリュは顔を真っ赤にして何も言えないようなので、

「付き合ってないですけど、彼女、迷子になることがあるんで離れないように手を繋いでいるんですよ」

「へえ、そうなんだ」

 しかし、適当なことを言ってしまったからか、エリュは不機嫌そうに頬を膨らませている。後で謝っておこう。

「椎原君やエリュちゃんのことを見ていると、早紀ちゃんはちゃんと教師として頑張っているんだなって安心した。私も研究の方を頑張らないと」

「樋口先生とは卒業してからあまり連絡していないんですか?」

「うん。あまりね。昨日、あなた達のことで連絡を受けたときに、ようやくちゃんと話せたかなって感じ」

「そうだったんですか。本筋から逸れますけど、金倉さんってとても可愛らしいですよね。お付き合いされている方っているんですか?」

 俺やエリュにとっては、これが本筋の内容なんだけれどね。大学を卒業するまでは金倉さんには恋人がいないと言っていたけれど。

 すると、金倉さんは俺のことをジロジロと見ながら顔を赤くして、

「えっ、そ、それってどういうこと? 一目見て、私のことが好きになっちゃった?」

「いえ、特にそういうことはないです。ただ、俺も高校生男子なんで、可愛い女性を見ると付き合っている人がいるのかな、って興味を持っちゃうんですね」

 うわあ、何だか自分で言っておいて凄く気持ち悪いんだけど。何なんだよ、このチャラ男みたいなセリフ。

「もう! キュンとしちゃったじゃない。椎原君、とてもイケメンだし。早紀ちゃん、教師として椎原君に変なことしてないでしょうね!」

「し、してませんよ」

 まあ、実際は男性の中では一番好きらしいけれど。あと、ルーシーに憑依されていたとはいえ、先生と口づけしてしまったことが。そんなこと、口が裂けても言えない。

「でも、もし椎原君が私のことを好きだとしたら断ってた。私、恋人はいないけれど、好きな人がいるから」

「そうなんですか」

「……私達だけの秘密にしますから、こっそりと教えてくれませんか?」

 金倉さんに好きな人がいると分かった途端、早速、エリュが自然な形で訊いてくれる。金倉さんの好きな人の名前によって、大きく状況が変わってくるぞ。

「でも、椎原君やエリュちゃんに教えていいのかどうか……」

「……そう言うってことは、金倉さんの好きな人ってもしかして、樋口先生とか?」

 エリュがはっきりと好きな人は樋口先生かどうかを訊ねる。

 すると、金倉さんは顔を真っ赤にして、ちょっと照れくさそうに笑いながら、


「うん。私……実は早紀ちゃんのことがずっと好きなんだ」

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