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吸血彼女  作者: 桜庭かなめ
第3章
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プロローグ『しずく』

第3章



 五月四日、日曜日。

 今日の空は鉛色の雲に覆われており、それなりに強い雨が降っている。時折、風が吹けば窓に水滴がつく。昨日から、予報では雨が降るかもしれないと言っていたのだが、それが見事に当たった形となってしまった。

「はあっ……」

 エリュはリビングのソファーに座ってため息をついている。これで何度目だろう。俺の前では笑顔を見せてくれるのだが、俺が少し離れるとエリュのため息が儚げに聞こえてくる。

 それには理由があって、昨日、アンネとエリーゼの件が無事に終わり、ゴールデンウィーク中にどこかへ遊びに行こうと約束していたのだ。エリュには行きたい場所があるようなので、そこはエリュに任せているけれど、どうやら晴れていないと駄目なところらしい。

 昨晩の天気予報で、今日は雨が降って行けないかもしれないと分かっていても、いざその通りになるとがっかりしちゃうよな。俺も小さい頃はそうだった。

 俺はエリュの隣に座る。

「まあ、エリュ。がっかりする気持ちも分かるけれど、明日は晴れる予報だから、それを楽しみにしようぜ」

「……はい、そうですね。ごめんなさい、結弦さんの前で……」

 エリュは申し訳なさそうに苦笑いをする。

「楽しみなことが先延ばしになると、ちょっとショックだよな。その気持ちはよく分かるよ、エリュ」

 ぽんぽん、とエリュの頭を優しく叩く。

 夜モードのエリュだったら露骨にがっかりするのも分かるけれど、まさか昼モードのエリュがここまで落ち込むとは思わなかった。常に優しい笑みを浮かべていて、がっかりした表情をなかなか見せない子だから。

「吸血鬼にとっては、雨の日の方が嬉しいと思うけど、俺と一緒に出かけることが凄く楽しみなんだな」

「もちろんですよ。だから、雨の日よりも晴れの日の方が嬉しいです。何でもない日も晴れている方が嬉しいですけど……」

「それは意外だな。でも、こんな曇天よりも晴天の方が清々しい気分になれるか」

 吸血鬼と言っておきながら、普段のエリュは殆ど人間と変わらない。見た目だってそうだし、暗いところが好きそうなのに恐がったりする一面もあるし。

「雨でも家にずっといるのも何だし、ちょっと雨脚が弱まってきたら、喫茶店にでも行ってスイーツとか食べようか」

 そんな提案をしてみると、曇っていたエリュの表情がぱあっ、と明るくなる。

「いいですね! 是非、そうしましょう!」

 スイーツ好きなところは本当に女の子らしい。今の嬉しそうな反応からして、エリュは結構な甘党だと分かる。

「結弦さんは和菓子派ですか? 洋菓子派ですか?」

「俺はどっちも好きだ」

「……私もどっちも好きです」

 やっぱり、エリュは相当なスイーツ女子だった。

 材料でも買っておいて、時々は家で彼女と一緒にスイーツを作ってみるか。昔から一人でいることが多かった俺は、スイーツ作りで暇な時間を潰していた時期があった。だから、一通りのスイーツを作れる自信はある。

「行くと決まれば、雨が止むのに効果覿面だという人間界のお守り、てるてる坊主をさっそく作らないと」

「よっぽど雨が止んで欲しいんだなぁ……」

 てるてる坊主は昔、雨の日に家に一人でいて、暇なときには作っていた。でも、小学生の時以来作ってないな。それに、あれは願掛け程度で効果覿面というには程遠い。てるてる坊主を吊してちょっと弱くなかったかなぁ、という程度である。ソースは俺。

 しかし、てるてる坊主作りを作ろうと元気になっているのだから、そんなエリュのことを隣で見守ろう。そして、時には手伝おう。

 エリュがてるてる坊主の材料を揃えようと動き始めようとしたときだった。

 ――ピカッ!

 突然、テーブルの上で白く光り始めた。

 眩しくて目を開けていられない。けれど、魔女が出てくるかもしれないので身構える。

「……ふぅ」

 その声は大人びた女性の声だった。吸血鬼なのか? 魔女なのか? 一体、誰がここにやってきたというんだ?

「あの、どちら様でしょうか?」

 エリュがそう訊くってことは、初対面の誰かってことか。

 ようやく目が開けられるようになり、目の前を見てみると、そこには黒色のスーツを来た白いロングヘアが印象的な女性がテーブルの上に立っていた。

「あの、どちら様ですか……?」

 俺も女性に尋ねてみると、彼女は口角を僅かに上げて、


「私、吸血界よりやってきたアンドレア・ヴァイスと申します。本日はエリュ・H・メラン様にご用があって人間界にやってきました」


 ということは、この女性は吸血鬼ってことか。スーツ姿だから一瞬、人間かと思ってしまった。綺麗な吸血鬼さんだ。

 それにしても、アンドレアさんがエリュに何の用事があってきたのだろうか。吸血鬼が人間界にやってくるなんて、人間の俺には嫌な予感しかしないのであった。

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