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吸血彼女  作者: 桜庭かなめ
第2章
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第24話『魔女狩り-Anne Rosa Ver.-』

 エリーゼから放たれた赤紫色の閃光がアンネの体を貫通した。

 その瞬間、アンネはその場で倒れ込んで、閃光が貫通した場所から血が出ている。

「きゃあああっ!」

 結衣、恵、真緒の悲痛な叫びが広場を駆け抜けていく。

「ふ、ふふふっ……!」

 エリーゼの不気味な笑い声と共に、彼女の体から出てくる紫のオーラがどんどんと多くなっていく。

「もっと、もっと悲しむのよ! 風戸美紀!」

 まさか、風戸に負の感情を抱かせるために、アンネを攻撃したっていうのか! 意識がどうであれ、攻撃されたのは松崎の体に変わりないから、アンネの攻撃によって血を流している「松崎亮太」の姿を見て風戸は悲しんでいるんだ。

「アンネ!」

 エリュは俺達の元へやってきて、すぐさまにアンネの様態を確認する。

「アンネ、今すぐに傷口を塞いであげるから」

 そして、服を脱がせて傷口を直接舐める。

「うっ……!」

 刺激が強いからか、アンネは思わず声を上げた。リーベの攻撃で傷付いた経験があるから分かるけれど、実はリーベに攻撃された瞬間よりも、エリュに舐められたときの方が痛かったりする。

「これで、傷口は塞がった。一命を取り留めたわ。心臓からちょっと外れたところを貫通したのが幸いだったわね」

「エリーゼは風戸と意識を共有していたんだ。風戸に松崎が傷付いて……いや、死んだ姿を見せて深い負の感情を抱かせたかったんだと思う。死んでしまったら、例え、魔女に憑依されていたとはいえ、自分の手で殺してしまうことになるから」

「……もしかしたら、風戸さんの意識があったからこそ、心臓からちょっと外れたところを貫通したのかもね」

「風戸が頑張ってエリーゼに抵抗したんだな」

 それでも、松崎を傷つけてしまったことに変わりはないから、風戸はかなりの負の感情を抱いてしまう結果になってしまった。

「ダメージを与えていないからどうってことないけれど、普通に戦っていたら勝てていた相手よ。それがエリーゼにも分かって、憑依している風戸さんの負の感情をもっと作り出してパワーを得たかったんだと思うの」

「それで松崎の体を傷つけるのは分かるけれど、そこには仲間であるアンネが憑依しているんだぞ。エリーゼはまさか、自分のためならアンネが苦しんでもいいっていうのか?」

「普通なら考えられないわね。せめても、攻撃をする直前にアンネに松崎さんから脱出するように言うはずよ」

「でも、実際にはエリュが叫んだから気づけた感じで、エリーゼは何も言わなかった……」

 まるで、アンネに気づかれないように不意打ちをしたようにも感じる。そのためには意気消沈している今の状態が好都合だったようにも思える。

「とりあえず、松崎さんの体に血を送り込まなきゃ。彼女に告白するんでしょう? そのくらいの元気をつけないと」

「でも、今はアンネも憑依されているのよ。エリュさんが松崎君の体に血を渡したら、アンネの体力も回復することになっちゃうんじゃない? それでもいいの?」

 結衣の言うとおりだ。いずれはアンネも倒すのだから、必ずしも元気といえる状態まで回復させる必要はないと思う。

「……松崎さんの元気な姿を見せることが、風戸さんの負の感情を無くすことにも繋がると思うから。それに、アンネはエリーゼのようにあたし達を攻撃してこないと思うわ。まあ、万が一してきたらその時に考えればいいじゃない」

 エリュは勇ましい笑みを浮かべながらはっきりとそう言った。それは敵であるアンネのことを信頼しているからこそ言えることだと思う。

 そういえば、血を送るってことは俺の時みたいに――。

「じゃあ、血を送るわね」

 エリュはそう言うと松崎の左腕を思い切り噛み付いた。あ、あれ……俺の時みたいに口づけをすることで血を送らないんだな。

「私、てっきりエリュさんが松崎君に口づけをして血を送ると思っていました」

「私もそう思ってたよ」

「おそらく、血を送りやすいのが口からというだけで、実際にはどこを噛んでも血は送れるんでしょうね」

 恵と真緒の会話を聞いて俺も納得する。まあ、血を送るだけであればどこでも良くて、中でも早いのが口づけというだけなのだろう。俺の時はリーベと立ち向かわなければいけなかったから、エリュに早口を送ってもらうために口づけをしたんだ。

「……このくらいでいいかしらね」

 松崎に血を送ったエリュの口の周りには血が付いていた。それを舌で拭い取るところが吸血鬼らしいな。そして、彼女自身の血を作り出すために血の補給薬を飲んだ。

「……まさか、吸血鬼に助けられるなんて」

 ふっ、と笑うと、アンネはすっと立ち上がった。どうやら、エリュの施した処置は成功したようだ。

「……そういえば、椎原結弦。あなた、私がエリーゼに攻撃される前に何かをきこうとしていたわよね?」

「ああ、そうだった」

 俺の目の前でエリーゼに攻撃されたことが衝撃的すぎて、その直前のことをすっかりと忘れてしまっていた。

「はっきりと聞こう。松崎が告白をしたとき、本当はエリーゼ……お前も実は同じタイミングで告白していたんじゃないか?」

「まさか、アンネが松崎さんと意識の共有をしていたっていうの? ていうか、それ以前にあのタイミングで告白する相手と言えば――」

「エリーゼ・ヴィオレット。アンネが告白した相手は彼女だったんじゃないか?」

 今、目の前にいる魔女の名前を告げると、アンネは頬を赤くした。

 そう、あの時の告白には二つの意味があったんだ。一つは松崎から風戸に対する告白。そして、アンネからエリーゼに対する告白。昨晩からアンネが松崎の恋の応援をしようとしたのは、エリーゼが憑依していたからだったんだな。

「いい……いいわ! 最高の力を手に入れたわ!」

 どうやら、今の間にエリーゼは新たに生まれた風戸の負の感情を利用して、相当なパワーを身につけてしまったらしい。

「これでいいのよ。これで……」

 エリーゼは俯いているように見えた。緊急に自身のパワーアップをするために、自分の仲間が憑依されている状態で攻撃してしまったことに罪悪感を抱いているのか?

「まずいわね。さっきとは比べものにならないくらいのオーラが出ているわ」

「一刻も早く告白した方がいい! 松崎もエリーゼもだ!」

「で、でも……私は一度告白して、振られたのよ……?」

「さっき振ったのは、松崎に負の心を抱かせて、アンネにパワーアップをさせたいと思ってわざと振ったかもしれない」

「……そ、そうかな?」

 そう言いつつも、かなり元気を取り戻した感じがする。でも、あれだけ落ち込んだんだ。そんな中で、エリーゼも好きかもしれない可能性が復活したんだから、そりゃ元気になるのは自然なことか。

「相手に自分の気持ちを伝えるなら、松崎の体から抜け出し、自分自身の姿を見せて告白した方がいいだろう。そうすればきっと、人間界に来た目的を果たすことができるんじゃないか?」

 おそらく、アンネが人間界に来た目的はエリーゼと恋愛関係になることだ。その関係を作りやすくするために、エリーゼと一緒にエリュと俺を殺害しようとしたんだ。

「……そうね」

 そう言うと、アンネはゆっくりと目を閉じて、松崎の体が桃色に光り始める。一つだった光が二つに分裂する。

 そして、その光の中から松崎と桃色のポニーテールの髪型をした女の子が現れた。彼女こそが本来のアンネの姿なのか。見た目だけの印象だと、結衣に似た感じだな。

「……アンネ・ローザ。あの時の戦争であなたの姿を見た記憶があるわ」

「覚えていてくれてありがとう、エリュ・H・メラン。もし、覚えていなかったら今頃殺していたかも」

 アンネは笑っているけれど、言っていることは結構怖いぞ。

 そして、エリュはすかさずに松崎のところに行って、彼の首筋を噛んだ。

「唾液をちょっと流し込んでおいたわ。これで魔女に憑依される心配はなくなるから」

「ああ、すまないな」

「さあ、頑張って告白するのよ。さっきのはノーカウントだから、今度こそ風戸さんへ思い切り告白してきなさい」

「アンネも自分の声と言葉でエリーゼに告白するんだ」

 俺とエリュが松崎とエリーゼを後押しすると、彼等は一つ頷いた。

 さあ、彼等の告白で風戸を助けて、エリーゼを倒す鍵を開けるんだ!


「美紀! 俺は美紀のことが好きだ!」

「エリーゼ! 私はエリーゼのことが好き!」


 風戸とエリーゼ、それぞれに届くように、松崎とアンネは精一杯の声に自分の気持ちを乗せた。

「……っ」

 風戸の目から流れる涙は風戸のものなのか、それともエリーゼのものなのか。どっちかだけかもしれないし、両方かもしれない。

 けれど、彼等の告白によって、俺達の目の前にいる女の子の心を動かしているということは確かな事実なのであった。

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