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吸血彼女  作者: 桜庭かなめ
第2章
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第21話『前哨戦』

 五月三日、土曜日。

 午前十一時。俺とエリュは松崎の他に、真緒や恵と一緒に佐竹の出場するテニス大会の会場に来ている。高校の公式試合の応援をしに来ているからか、皆の今の服装は制服だ。

 風戸の方は結衣の計画通り、女子テニス部での結衣の友達に協力してもらって、三人で佐竹のことを応援しに来ている。応援する対象が友人の佐竹であることや、それを誘った結衣とその友達が女子テニス部であることにより、難なく誘い出すことができたという。ついさっき、会場に来たという旨のメールを結衣から届いた。

 間もなく始まる佐竹の試合の応援が終われば、偶然を装って松崎と風戸が出くわして、松崎が風戸に告白する流れになっている。

「どうだ? 告白する勇気はついたか?」

「……昨日よりも勇気も緊張もあるぜ」

 真剣な表情で言う松崎は少し震えていた。

 刻々と迫っているから勇気と一緒に緊張も出てくるのは仕方ないだろう。そうなるというのはそれだけ風戸のことが好きなんだと思う。

「こういう松崎君の姿は学校ではなかなか見られないね」

「そうですね。そんな松崎君のことを一生懸命応援する佐竹君。あぁ、男性同士の友情は清く美しいですね。実は風戸さんよりも親密な関係だったりして」

 真緒の言葉に納得だけれど、恵の言葉には少し首をかしげる。恵の言っている言葉に否定するつもりは無いけれど、どうもボーイズラブっぽく聞こえてしまう。どうやら、梅澤の件を通してそっちの方にも目覚めたようだ。

「でも、佐竹さんは素晴らしいご友人だと思いますよ。松崎さんを勇気づけるためにも絶対に勝つんだと意気込んでいましたし」

 そういえば、昨日の夜届いていた佐竹からのメールに書いてあったな。明日の試合は松崎の告白の前哨戦のようなもので、絶対に勝って松崎を後押しすると。松崎のことを考えていなければ、第三者の俺にそういう風に言い切ることはできないだろう。

「男子テニス部でのこともあったし、佐竹にとっては今日の試合は特別なんだと思う。色々な意味でこの試合を始まりの一戦にしたいんじゃないか」

 松崎にとっては風戸への告白の始まり。

 佐竹にとっては高校生のテニスの始まり。

 特別な意味を持った大切な試合に、佐竹はこれから挑もうとしている。佐竹には是非、勝って欲しいな。

「……いましたよ、結弦さん」

 エリュはそう囁くと、結衣達の方に指を差した。結衣の横には彼女の友人である女子生徒と、今日のヒロインである風戸美紀がいた。彼女達も佐竹を応援しに来ているからなのか征服で応援しに来ていた。高校テニスの大会だから、学校という側面が強いんだろう。

 そして、タイミング良く結衣だけがこちら側に気付いて、風戸から俺達が見えないように上手く動いてくれた。

「……皆、俺のために動いてくれているんだな」

「松崎に自分の想いを風戸にぶつけてほしいと思ってるんだよ。そして、風戸と付き合うことができるように、な」

「……そうか。実は昨日、家に帰ってからアンネに告白を頑張れって言われててさ。それでも緊張して、勇気がなかなか出なかったんだけれど、今日の皆を見ていると段々と緊張がとれてきてるぜ」

「その勇気が試合が終わった後まで続くようにしないとな」

「……そうしないといけねえな」

 そんな松崎はいい表情をしてきている。

 それにしても、アンネが松崎に恋の応援をしてくるとは。それだけ松崎の恋心が成就して欲しい気持ちがあるのか。それとも、何か別の理由があったりして。

「佐竹君が出てきましたよ」

 恵の言葉で俺達はテニスコートの方を向くと、そこにはラケットを持ったテニスウェア姿の佐竹が立っていた。今までの佐竹からは考えられないような闘争心が漲っているように見えた。これこそ、テニスプレイヤーである彼の本当の姿なのだろう。

 会場が歓声に湧く中で、佐竹の試合が始まる。

 あの二人の先輩からテニスを撮られていた佐竹であったが、そんなことを感じさせない技術の高さと、今まで我慢していた分を吐き出しているように激しいプレーを展開する。佐竹和馬というプレイヤーの凄さを見せつけたことにより、後半になると彼のプレーにどよめきが起こる場面も。

 佐竹に負かされて彼を恐れる二人の先輩の気持ちも分かってしまうな。おそらく、テニスをしているからこそ、彼には届くことができないことが分かって、彼からテニスを取り上げたんだと思う。

 もし、佐竹が普通にテニスをすることができていたら、と思うと興奮してくるな。それだけのポテンシャルが彼には宿っている。

 そして、相手にリードされること無く、佐竹は見事に勝利したのであった。



 試合が終わってから三十分ほど経って、俺達は制服姿の佐竹と合流した。

「佐竹! やったな!」

「ああ、ありがとう!」

 そう言って、佐竹と松崎は互いの拳を合わせる。

「俺は試合に勝った。今度はお前が大事な試合に勝ってこい」

「……そうだな。お前が試合をする姿を見て告白する勇気が出たよ」

 どうやら、勝負のバトンが佐竹から松崎へと無事に渡すことができたようだ。松崎にとって、さっきの佐竹の試合がいい刺激になったようで。

「あとは松崎の告白と、アンネと倒すことだな」

「……ええ」

 松崎が告白する勇気がついたのに、どこか浮かない表情をしているエリュはアンネとは別の魔女がいる可能性を捨てていないからだろう。

「別の魔女がいるにしても、まずは松崎の告白が成功することを祈ろう」

「そうですね。さてと、そろそろ戦闘モードになりましょうかね。佐竹さんの試合中、ずっと力を溜めることをしていたんです」

「そうだったのか」

 テニスコートの方を見て集中していたから、佐竹のプレーに魅了されていたのかと思っていたんだけれど。

 そして、程なくしてエリュの体が赤く光ると、彼女の髪の毛が赤くなり、目つきもそれまでと違って鋭くなる。夜モードのエリュになったのだ。

「結衣さんと彼女のお友達に風戸さんをこの近くで待たせるように頼んでいるけれど、そろそろ行かないと。松崎さん、準備はいいかしら」

「……ああ」

「意識があるなら聞いておきなさいよ、アンネ。ここまで来て、松崎さんを裏切ったりしたら承知しないんだから」

 半ば脅しのようにエリュがそう言うと、松崎の口角がほんの少し上がった。これまでも松崎の恋を応援するような姿勢を見せていたわけだから、裏切ることはないと思うけれど、油断はしちゃいけない、か。

「じゃあ、行くか」

 俺達は相談して予め決めておいた結衣達との待ち合わせ場所へ向かう。

 決着の時が刻々と近づいてくるのであった。

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