第20話『スキーム』
告白をする決意をしたことで、大きな一歩を踏み出した松崎。
「じゃあ、放課後にでもさっそく告白するか?」
「今は勇気が出ないって言ったばかりだ!」
思い立ったが吉日という言葉があるんだけどな。好きという気持ちがあるんだからすぐに告白してもいい気がするけれど。
「に、人間界には急がば回れという言葉があるじゃないですか。勇気が出ないのであれば時機を見計らって風戸さんに告白するのがいいと思います」
「でも、アンネに長居させるのもまずい気がするんだけれど」
「早め早めの方がいいのは事実ですが……」
それでも、松崎の気持ちを第一に考えた方がいいか。
「椎原とエリュさんもそう言っているけれど。松崎、例えば……明日だったら風戸に告白する勇気が出そうか? もちろん、俺達がついている」
「佐竹達が見守っているんだったら、明日は何とか……できるかもしれない。でも、どうして明日なんだ? 明日からGWなんだぞ?」
「明日は大会で俺の試合があるんだ。共通の友人を応援しに行くっていう理由なら、風戸を誘いやすいだろ? それができなければ、藍川とかの女子達に風戸を誘い出して、あたかも偶然出くわしたように会場で会えばいい」
なるほど。普通に誘うよりも、大会に参加する佐竹の応援という理由があった方が、風戸に変に思われずに誘い出しやすいのは確かだ。それができなくとも、別々に行って会場で会うという手段もとれる。
「……佐竹のアイデアを使いたいとは思うけれど、風戸を上手く誘えるかどうか不安だ。前よりも距離が開いてる状態なんだぜ」
そう言って、松崎はチラリと俺のことを見る。二人の距離感がちょっと開いてしまったのは俺の所為だけれど、だからといって俺が風戸を誘うわけにはいかない。松崎以外なら女子と一緒でないと。
「風戸さんって一年二組?」
「ああ、そうだけれど」
結衣、どうしたんだろう。いきなり風戸のクラスを訊くなんて。それに、二組だと分かった途端に微笑んでいるし。
「じゃあ、テニス部の友達に二組の子がいるから、その子と一緒に風戸さんを佐竹君の試合の応援に誘い出してみるわ。幸いにも風戸さんは佐竹君の友達だし、佐竹君が遭った今回の話をすれば、応援しに来てくれると思う」
「……なるほどな。じゃあ、それでお願いしてもらっていいか、藍川」
「分かったわ」
凄いな。勇気がなかなか出ない松崎があっさりと受け入れる提案を出せるなんて。部活に入っているとこういうときに強みが出るんだな。
佐竹と藍川のおかげですんなりと今後の道筋をつけることができた。俺やエリュだけでは決してできなかったことだと思う。
「……俺、何にもできてないな」
「結弦さんは松崎さんと風戸さんを見守っていることが正解ですよ。結弦さんは風戸さんにとって特別なポジションの人なので、下手に動かない方がいいと思います。それに、何か起きたときに動くのが結弦さんと私の役目だと思います」
「松崎の心が増幅したり、松崎からアンネが追い出されたりしたときの対処か」
「ええ。それは結弦さんと私にしかできないことですから。自分にできることを一生懸命やればいいんだと思います。協力してくれる方がこんなにいるんですから」
「……そうだな」
考えてみれば、佐竹は俺達と松崎をつなぎ合わせる役割を果たしてくれて、藍川は風戸と松崎や俺達をつなぎ合わせる役割を果たそうとしている。それは二人がその役割を果たすことに適しているからだ。
エリュと俺に適している役割は魔女への対処。今できることは、いざというときのために松崎や風戸を見守っていることだな。
魔女といえば、あのことを聞いてみないと。
「なあ、松崎」
「何だ?」
「……松崎はアンネに憑依されているけれど、アンネ以外にも魔女はいるのか?」
アンネ以外の魔女が人間界にいるのか。そして、いるとしたらアンネとの繋がりがあるのかどうか。
松崎は曇った表情をして顔を横に振った。
「いや、俺はアンネ以外知らないけれど。何かあったのか?」
「実は昨日の放課後、樋口先生に男子テニス部のことを伝えに校舎へ行こうとしたときに、エリュが魔女の視線みたいなものを感じたみたいでさ」
「そうだったのか。アンネに憑依されたときに別の魔女がいるようなことは聞かなかったし、昨日の放課後はアンネに意識を渡していたから記憶が無いんだ」
「なるほど」
人格がアンネの時は松崎の意識が無くなっているのか。
「アンネは憑依しているのであなたに依存しているんです。それを利用して松崎さんがアンネの記憶を探ることはできませんか?」
「……や、やってみるか」
そう言うと、松崎は難しい表情をし、やがて目を瞑った。
アンネが松崎に依存しているのであれば、依存されている松崎もアンネの記憶を知ることができるかもしれない。
「……全然分からないな。アンネに憑依されてから、以前よりも体の力が漲っている感じはするしできるかもって思ったんだけどな」
「もしかしたら、アンネは今のような状況を想定して、むやみに自信の記憶を探れないようにしているのかもしれませんね。松崎さん、ありがとうございます」
「いや。何も分からなかったんだ。すまなかったな」
結局、アンネ以外の魔女がいるかどうかは分からないままか。でも、昨日のあの時のエリュは真剣そのものだったし、アンネ以外に魔女がいないとは思えないんだよな。いたとしても、それがはっきりしていれば対策を考えることができるんだけれど。
「じゃあ、告白のタイミングは佐竹の試合の後に行なうということで。それまでに心の準備を宜しくな、松崎」
「……ああ、分かった」
「藍川も明日、風戸と一緒に試合を見に行けるように頑張ってくれ」
「任せて」
「他に魔女がいるかもしれないという不安は残りますが、まずは明日……松崎さんの告白が成功し、アンネを倒すことができるように皆で頑張っていきましょう」
エリュの言うとおり、全ては明日にかかっている。アンネ以外の魔女が俺達の気付かないところで見ているという懸念はあるけれど。今立てた計画通りに事が運ぶように頑張っていこう。




