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吸血彼女  作者: 桜庭かなめ
第2章
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第14話『下り坂』

 五月二日、金曜日。

 今日の天気は曇りで、空には分厚い雲が広がっている。予報だと局地的に雷雨になるとのこと。

 今日もエリュと二人で赤崎高校に登校しようとしたが、マンションの前で結衣が待っていたので、彼女と三人で登校することに。結衣の話によると、男子テニス部のことで朝一番に職員の全体会議があるため、全ての部活の朝練がなくなったとのこと。

「男子テニス部のことを重く受け止めているってことか」

「部長とエース級の部員が関わっているからね。それに、今は大会期間中じゃない。今後、大会についてどうしていくかを協議しないといけないだろうし」

「……そうだな」

 前田部長と後藤先輩への処罰、男子テニス部の今後の活動、そして、現在開催中の大会への対処。それらを早急に決定するためには、朝一番の職員会議をするのは妥当だろう。

「ここまで大事になると、さすがにアンネも気付くわよね。下手に動かれそうだから注意しないといけないわね」

「……そのことなのですが、結衣さん。昨日、結衣さんや佐竹さんと別れた直後に私達、アンネと出会ったんです」

「アンネが? やっぱり、昨日の私達を見張っていたのね……」

 やっかいなことになりそう、と結衣は呟く。

「だけど、安心してくれ。アンネは少なくとも、佐竹の件が解決するまでは何もしないみたいだ」

「そんなことってあるの?」

 嘘に決まってるでしょ、と言わんばかりの疑った表情をしている。

「……リーベと同じみたいですよ。アンネは魔女としてこの人間界にやってきて、私と結弦さんを殺す気でいるようですけど、アンネとしての目的はまた別にあるみたいです」

「じゃあ、梅澤君と佐竹君を洗脳したのは……」

「松崎さんに憑依した状態で、人間界での活動をしやすくするためですよ。でも、アンネは二人の負の感情について、平和的に解決したいようです」

「なるほどね……」

 そう、アンネには俺達の知らない彼女としての目的がある可能性がある。仮にあったとして、それはどのようにすれば果たされるのか。エリュと俺を殺すことなのか。それとも、別の方法なのか。誰かを傷つけるようなやり方で果たそうとするなら、俺達はそれを阻止しなければならない。

「じゃあ、私達が気をつけないといけないのは、アンネよりも前田部長と後藤先輩の二人になるのかしら」

「その通りです、結衣さん。あと、同じことをアンネも言っていました。あの二人の先輩には注意しておくようにと」

「……そう。まあ、結弦や私が佐竹君に協力したことが知られたら、こうなったのは私達の所為だと思われても仕方ないしね。まあ、そのくらいのリスクがあるだろうとは覚悟していたけれど」

「すまないな、結衣」

 魔女が関わっている時点で危険な目に遭う可能性があるとは思っていたけれど、まさか危険なのは人間の方だったなんて。しかも、二人。

 俺は別に構わないけれど、結衣まで同じリスクを抱えさせることになるなんて。免れることができただけに、その点に悔いが残る。

「……別に気にしないでよ。私だってその……辛い道を通ってこれたんだから。それに、もし私が危険な目に遭っても、また……助けてくれるんでしょ? それなら、私は全然恐くないよ」

 結衣は頬を赤くしながら、はにかんだ。以前よりも、こういう表情を見せてくるようになったなぁ。

「……もちろん」

 俺は結衣の頭を撫でる。

 リーベの件を通して、結衣は俺のことを信頼してくれているようになったのかな。

「わ、私だっていますからね! なのでご安心を、結衣さん!」

「そ、そうね。エリュさん」

 どうしたんだろう、エリュ。俺とならまだしも、結衣と張り合うような感じになって。自分だけ蚊帳の外にいるような感じがしたのかな。

「もうそろそろ学校なので姿を消しましょうかね」

 そうは言うものの、俺と結衣にはエリュの姿が見えているので変化が全くない。

 学校に到着して、教室へ向かうと普段よりも騒がしい。おそらく、理由が分からずに全部活朝練が中止になり、全職員による朝一番の職員会議が行なわれることが明らかになっているので、色々な噂が飛び交ってしまっているようだ。

 佐竹は既に登校しており、彼の側には松崎に憑依するアンネと梅澤がいた。昨日の言葉通りであれば、学校では大丈夫だろう。

「私が来たときには既にこんな感じでした。一体、何があったのか、と」

 そう言う恵は、佐竹が絡んでいると分かっているからか落ち着いていた。

「この騒ぎ、きっと佐竹君が絡んでいるんですよね。きっと、結衣が昨日言っていたように、男子テニス部のことでこうなっているのでは?」

「その通りだ。結衣の言うとおり、二人の先輩部員が佐竹に対して辛辣な態度を取っていたんだ。証拠を掴んで樋口先生に言ったら、ここまでになったんだ」

「なるほど。おそらく、現在行なわれている会議では、その上級生二人の処罰、今後の男子テニス部の活動、現在参加しているテニスの大会についてどうするのか、ということを主に話し合っているのでしょう」

「多分な」

 そして、前田部長と後藤先輩が呼び出され、今回の不祥事のことについて問いただされているところだろう。そのことによって、あの二人が佐竹にどのような感情を抱くか。素直に謝ってくれればいいんだけれど。

「その二人の怒りに触れて、佐竹君の所に直接来るってことがなければいいけれど」

「……そうなったら最悪のパターンだな、真緒」

 真緒の言葉通りにならないことを祈るしかない。もし、万が一、あの二人がここに来てしまったら、動画を撮影した生徒となっている俺が佐竹に協力しないと。

 気付けば朝礼の始まる時刻に迫っていた。

 そのとき、チャイムが鳴って、

『本日、緊急の職員会議のため、一時間目の授業は全クラス自習とします。教室以外での授業を受ける予定のクラスは教室で待機していてください』

 そんな放送が流れ、騒がしさは増していく。何があったのか、と生徒達の疑念がより一層飛び交うことに。

「長引いているんですね」

「重要なことを議論しているところだからな。相応の結論が出るまでじっくりと話し合うべきだろう。もしくは、前田部長と後藤先輩が否定し続けているか」

 ただ、そんなときのために、昨日、エリュが撮影した動画のデータのコピーを学校側に提出しておいた。最初こそ否定されてもあれさえあれば、彼等も否定しなくなると思われる。

『きゃああっ!』

『な、なんだ!』

 普段にない状況だから、朝礼の時間になっても廊下から話し声が聞こえていたけれど、その声が一部、悲鳴や驚きの声に変わっていた。

「私、ちょっと見てきますね!」

 そう言って、エリュは廊下に顔を出す。すると、程なくして彼女は慌てた表情で俺達のところに戻ってきて、


「大変です! 前田部長と後藤先輩が凄い剣幕でこちらに向かってきています!」


 エリュの叫びで俺達はもちろんのこと、アンネ、梅澤、そして佐竹も真剣な表情で廊下の方を見る。

「だって、今は先生達にこれまでのことについて尋問されているんじゃないの?」

「おそらく、その場から逃げたのだと思います。ですが、今、確実に言えるのは佐竹さんに昨日以上の怒りを抱いて、こちらに向かってきているということです!」

 くそっ、真緒の言う通りになってしまったか! 

「安心しろ! 佐竹には俺達がついてる! だから、決して――」

 屈するな、と言おうとしたときだった。


「佐竹!」

「お前……こんなことをしてどうなるか分かってるんだろうな!」


 背後から身を震わすような罵声が聞こえた。

 その声の主達が誰であるのか、佐竹の怯えた表情を見ればすぐに分かった。彼にとって、今、最も顔を合わせたくないあの二人。

 そして、廊下の方に振り返れば、奴等がいた。前田部長と後藤先輩だ。

 彼等の殺気立った雰囲気を見ると、どうやら、この場で決着をつけないとまずそうだ。そうしないと、彼等に怒りという名の雷を落とされて酷い目に遭う気がしたから。

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