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吸血彼女  作者: 桜庭かなめ
第2章
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第2話『新たな魔女』

 四月三十日、水曜日。

 今日の天気は一日中晴れの予報。俺にとっては喜ばしいけれど、日差しが苦手なエリュの表情はやや曇っていた。七分袖の吸血鬼の服を着て、日差し除けのために麦わら帽子を被っている。これが晴れの日の彼女のスタンダードコスチュームだ。

「結弦さん、体調は大丈夫ですか?」

「さすがに一日経ったし大丈夫だよ。それに、エリュの美味しい料理で栄養もちゃんと付けたんだし」

「それなら良かったです。今後も血の補給は寝る前やお休みの日にするようにしますね」

「ああ、暫くの間はそうしてくれると嬉しい」

 緊急時でない限りはゆっくりできるときの方がいいな。

「それにしても、こうして結弦さんと一緒に登校できることが嬉しいです。今日も月曜日のように何事もなく過ごせればいいんですけど」

「そうだな」

 月曜日は登校時に池上や松崎と対峙する場面があったものの、それ以降は何事もなく平和に一日を過ごすことができた。結衣や恵達などと楽しく話すことができて、少しずつではあるけれど入学直後のような時間を取り戻してきている。普通に過ごしていれば当たり前で何とも思わないんだろうけど、今の俺にとっては普通になっていくことがとても嬉しく思えるんだ。

 そして、月曜日は魔女が誰かに憑依しているようなこともなかった。リーベを倒したことで魔女の侵略が停滞しているのかな。

「それでは、そろそろ姿を消しますね」

 学校の近くになると、エリュは俺や結衣達のような親しい人間以外には見えなくさせている。

 そして、学校に到着し、教室まで行くと結衣、恵、真緒、陽菜、千尋が俺に向かって朝の挨拶をしてくる。

「今日も晴れてるから、エリュさんは麦わら帽子を被っているのね」

「日光は天敵ですからね。お肌に悪いですし」

 そういえば、エリュは色白だな。日差しに当たらないように努力していることはもちろんだけど、それだけではない綺麗さがある。

「って、こうして話すと周りに変な目で見られちゃうかもね」

「大丈夫じゃないですか、皆がいるんですから、結衣」

「確かに恵の言う通りかも」

 そう言って、結衣と恵は笑い合っている。彼女達の笑顔を見て、リーベの件を通して二人の絆が深まっていることが分かる。

「……そういえば、結弦。月曜日と比べてちょっと痩せた?」

「えっ? そうか?」

「それに、いつもよりも顔が青白く見えるし」

「ああ、昨日はエリュに血をあげて貧血になったからかなぁ」

「……ごめんなさい、結弦さん」

「気にするなって。これはエリュにとって大事なことなんだから。それに、俺がもっと血を増やしていけばいいだけなんだし」

 落ち込んでいるエリュの頭をポンポン、と軽く叩く。すると、エリュはちょっと嬉しそうにはにかんだ。

「何というか、大変ね」

「吸血鬼のパートナーが故の苦労なのでしょうね。そして、貧血は二人にとって一番の敵なのでしょう」

 苦笑いをしている結衣の横で、恵はうんうん、と納得している様子だった。

「昨日、魔女が二人の前に現れなくて良かったね」

 真緒は爽やかに笑いながらそう言う。

 彼女の言う通りだ。血の補給を行なう前に魔女と出会うのはまずい。血の補給が必要になることは、エリュが人間界で生きてゆくことに黄色信号が灯っているのだから。

「それで、エリュさん。血を補給するときはどのような体勢だったのでしょうか? もしかして、互いに抱き合っている状態で首元を噛んだとか?」

「ふえっ」

 昨日のことを思い出しているのか、色白なエリュの顔が一瞬にして赤くなっていく。

 それにしても、恵の勘は凄いな。その内容にはあきれてしまうけど。

「まさにその通りという反応ですね、エリュさん」

「え、ええと……変な理由は何もなくて、首元の血が新鮮だから良くて、ちゃんと吸うには抱き合うのが一番いい姿勢でして……あううっ」

「必死に言い訳をしちゃうのがまたいいですね! 椎原君が椎原ちゃんだったらどれだけ萌える展開になっていたことか!」

 そう言う恵の表情は有頂天という感じだ。もしかしたら、彼女の頭の中では俺が椎原ちゃんになっているかもしれない。

 恵がいつもと違って大声を出すから、周りの生徒が驚いてこっちの方を見てしまっている。

「恵の百合スイッチが入っちゃったのね。まったく、しょうがない子。今日はなかなかの起動スイッチだから、授業中もきっとニヤニヤしていると思うわ」

「……本人が幸せならそれでいいんじゃないか」

 周りにどう思われてしまっても、それは自己責任ってことで。というか、どう思われようがへこたれる女の子ではないと思う、彼女は。

「……えっ」

 急に、エリュがいつもよりも低い声を漏らす。

「どうしたんだ? エリュ」

「……何かが近づいてくるような気がして。嫌な予感がします」

「もしかして、誰かに魔女が憑依しているっていうのか?」

 エリュの嫌な予感に、魔女が絡んでいないわけがない。

 俺はすぐに教室中を見渡す。

 確かに多くの生徒がこっちの方を向いていて、俺のことを嫌う生徒の表情はいいものではない。まさか、この教室の中に魔女に憑依されていたり、洗脳されている生徒がいるのか?

「エリュさん、誰なの? 魔女に憑依されているのは」

「待って、結衣。今、エリュさんは近づいてくると言ったんです。万が一、誰かが魔女に憑依されているのなら、それは今、ここにいない人物ではないでしょうか」

「灰塚さんの言うとおりだと思う。まあ、洗脳されている人はここにいるかもしれないけどね」

 恵と真緒の推測はおそらく正しいだろう。教室にいる生徒の中には既に洗脳されてしまった生徒がいるかもしれない。けれど、さっきのエリュの言葉の意味を汲み取ると、魔女に憑依されている生徒は少なくともここいない人物だ。

「彼です!」

 突然、エリュは声を上げた。


「今、教室に入ってきた男子生徒さんに魔女が憑依しています!」


 エリュが指さした先にいたのは――。

「何だよ、椎原。こっち見んなよ」

 俺のことを虐める中心人物の一人、松崎亮太なのであった。

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