ハロウィンの夜に
トントンと。
扉を叩く音。
「「トリックオアトリート」」
いつかのハロウィンに。
君と僕とで、
扉を叩きに行った。
***
君は黒のとんがり帽子をかぶっていたから。
「知ってる」僕は言った。
君、魔女なんでしょ。
ほうきに乗って、空から降りてきた君は、絶対に。
「そうだよ」
君はにっこりと笑って、僕にその白い手を差し伸べた。
「トリックオアトリート」
おかしをくれないといたずらするぞ。
だけど僕はおかしを持ってなかったから。
君は口をとがらせて、不満げな顔をする。
「じゃあ」君は言う。
「いたずらする」
それから君は、僕の手をとって、ほうきを片手に歩き出した。
ずんずん歩く君に引っ張られて。藁葺きの牛小屋が見えてくる。中にいる牛たちの寝息が、微かに空気をふるわせている。
うずたかい牧草の山に、半分隠れた扉を。
トントン。
君は叩いてから、細く開けて、「なんだ」と言った。
「牛小屋なの」
そう言ってまた、歩き出す。
すぐ隣に見つけたウッドハウスからは。明るい調子のメロディーと、楽しげな笑い声が僅かに聞こえる。
トントン。
扉を開けたのは、若い女の人だった。
「トリックオアトリート」
君は言って、さっきのように手を差し伸べた。
「ねえ」
だけど。
「君たち、理不尽だと思わない?」女の人は言う。
「こちらは何もしていないのに、突然こちらの損害にしかならない取引を持ちかけるなんて」女の人は、僕と隣の君を見下ろす。「そんなの、人質をとった強盗と同じじゃなくて?」
でも、君は眉ひとつ動かさず。真っ直ぐ女の人を見上げて。
「それもそうね」と、短く応えた。「ごめんなさいね、さよなら」
君は、僕の手をひいて女の人に背を向けた。
歩く。
歩く。
歩きながら、
僕は君に問うた。
「どうしてあの人にはいたずらしないのに、僕にはするの?」
「私は」
君は答えた。
「誰かを嫌な気持ちにするために、ここに来たんじゃないもの」
「ふうん。偉いんだね」
僕は答えたけれど。
意味はよく分からなかった。
そしてまた、家が見えてくる。柔らかな明かりがカーテンの隙間から仄かに漏れる。赤いレンガ造りの家。
トントン。
君はまた、扉を叩いた。
「「トリックオアトリート」」
僕も一緒に言ってみた。
君が僕を見る。僕が微笑んでみせると、君も笑った。
扉を開けたおばあさんは、少し驚いた様子で。僕と君を見て、ふと微笑んだ。
「少し待っててね」
おばあさんは、油紙に包んだクッキーをふたつ持ってきた。
そしてそれを、僕と君にひとつずつ手渡して。
「ありがとう」
君は言った。僕も言った。
おばあさんも言った。
「ひとりで迎えるハロウィンなんて、面白くもなんともないもの。来てくれて、ありがとう」
***
それから僕と君は、扉を叩いてまわった。
君の持っていた籠がいっぱいになった頃。
僕と君ははじめに会った場所に戻っていた。
「いたずらは終わり」
結局。
「いたずらって何だったの?」
だから、と君は言う。
「私と一緒におかしを貰いに行くこと」
そうだったのか、と僕は頷く。
そして。
君は、僕に一言、
「じゃあね」と言って。
ほうきで空に昇っていった。
***
いつかのハロウィン。
あの日から僕は、毎年。
扉の叩かれるのを待っている。
ハロウィンだけど忙しくて何もできなかったので、中学の時に書いたものを発掘。言葉遊びとか某おとぎ話とかが、微妙な感じにからんでます。話の内容もよー分からん感じになってます。でもとりあえず。なんか、今より全然純真だなって。思います。