第八話 大切な事の証明(2)
「おきろーーーーーー!!」
そんな声と共に体に重みを感じ、くの字に折れ曲がる。何故なら重みを感じたところが股間だったのだ。そして頭を何かにぶつけた。
「いたっ!?」
「ん~~~!?」
痛かった。でもおかげで少しだけ目が覚めた。見ると僕の腿辺りに凪が乗りかかっていて、頭を抑えている。ぶつかったのは凪の頭らしい。
「ごめん、凪! 大丈夫か?!」
僕は慌てて凪の頭を優しく撫でた。凪は、ん~~~とか言いながら目尻に涙が浮かんでいた。まずい。陽射に怒られる。
「本当にすまない! ほらっ! こっちにおいで!」
そう言うとゆっくりと近づいてきた。ここで泣かれたら僕が悪いのは一目瞭然だ。だから必死で泣かないように抱き上げ頭を撫でる。
「大丈夫か?」
「・・・・・」
僕の胸辺りに顔を埋めたまま黙っている。何か気の利いたことを言わなければ。
「今日は一緒に出かけようか?」
なんだこれ。僕にとっての気の利いた事はこの程度だったのか。と残念がっていたが凪が顔を上げた。
「ホントに?」
目尻には涙。相当痛かったのだろう。疑うよな眼差しで見てくる。
「本当だよ。お昼から出かけようか?」
すると急に笑顔になり子供らしい元気さを取り戻した。
「やったぁーー! お出かけだぁー!」
失敗したと思った言葉だったが成功だ。久しぶりに揃ったのだ。これくらいでも嬉しいのだろう。
「ねー! どこいくの? どこいくのー?」
満面の笑みで聞いてくる。太陽の様な笑顔とはまさのこのことを言うんだな。河内さんの所では面倒見がいいと言っていたが、ここでは年相応の子供だ。家では思う存分自分を発揮するのが子供である。
「そうだねぇ。皆で決めようか?」
今はちょっと寝ぼけているのでまともなことは言えない。とりあえず陽射に任せよう。
「うん!! あのねー! おねーちゃんが朝ごはんできたから呼んできてって言ってた!」
「そう。じゃあ行こうか」
朝はあまり食べれないのだが作ってしまったのなら食べるしかない。僕は凪を抱えたまま自室を後にした。
◆大切な事の証明(2)
「おはよ、夜空。ありがとね、凪ちゃん!」
リビングに行くと陽射がテーブルに朝食を運んでいた。何で朝から笑顔ができるのか僕はわからない。とりあえず、凪を降ろしてソファーにダイブする。やっぱり朝からは動けない。このまま寝てしまいそうだ。
「ご飯だよ、夜空」
「ごはんだよー!おにーちゃん!」
二人に呼ばれる。本当に朝から元気だ。とりあえずは席に着いておこう。
「いただきます」
「いただきまーす!」
「いただきます・・・・・・」
四人用のテーブルに僕と陽射が向かいの状態。凪は陽射の隣に座っている。テーブルの上には朝食としていかにもな和食が並んでいる。戦争中にこんなものが食べられるのはまだ日本が守られているからだ。一般的な一軒家にどこでもありそうな家材、こんな休暇も与えられて、アジア支部の人材は優秀だ。そもそも僕たちが何故こんな生活を送れるのかはオリジンという貴著な人材として保護されているに他ならない。町外れの土地と家を与えられ、そこで生活している。給料もそこそこ高く不自由ない生活をおくれている状態だ。専ら裏切られたら困るということで金で繋ぎとめようという根端なのだろう。でもおかげで凪を引き取ることもできたし、一応は感謝している。
「ご馳走様」
「ごちそうさまー!」
「ご馳走様・・・・・・」
食べ終わった食器を台所に戻す。やっぱり朝から食べるのはきつい。布巾を手に取りテーブルを拭く。陽射は食器洗い、凪は陽射の隣にいるだけ。これが家にいるときの朝の風景だ。
「ねーねー、おねーちゃん! おにーちゃんがねー、今日みんなとどこかお出かけしてくれるんだってー!」
「そうなの? 良かったわねー。じゃあ凪ちゃんはどこ行きたい?」
そんなことを話しているのを聞きながら拭き続ける。今日は休日だ。混雑する所は勘弁してもらいたい。
「う~とね~、ピクニック行きたい!」
「ピクニックに行きたいの?」
「うんっ! おねーちゃんとおにーちゃんとお外でごはん食べたいのー!」
意外にも普通であった。てっきり遊園地やら水族館やらの娯楽施設を求めてくるかと思ったが、今のご時世呑気にピクニックする人は少ないであろう。これは混雑することはなさそうだ。
「だって夜空。ピクニックでいい?」
僕に了解を得てきた。どうせ断っても駄目なのに。
「うん。いいよ、ピクニック」
とりあえず布巾を陽射に渡す。断る理由も無いし返事をした。
「じゃあピクニックに決まりだね! お弁当作らなきゃ! 良かったぁ、昨日買い物に行っておいて」
「やったぁーー! おべんとー!」
そう言って張り切り出す陽射とはしゃぎ出す凪。本当に朝から元気だ。昨日凪を迎えに行った後、食料を買いにいったのだ。3ヶ月も家を空けていたのだ、家には何もない。折角の休暇を買い物ばかり行くのは勿体ないので一気に買う様にしている。今回はそれが幸いした。
「水撒きしてくる」
「うん。お願いね」
それだけ言って外に行く。蝉の声が響き渡る。現在は夏。正午になれば太陽が太陽が容赦ない暑さを生み出してくる。その前に地面に水を撒き暑さ対策をするのがこの時期の僕の日課だ。ホースを手に取り水を撒く。ホースの先には様々なタイプの水に切り替えれるノズルが付いている。人代派は技術が進んでいると実感する瞬間だった。庭には向日葵と露草、そして小さな桜の木がある。それにも水を与えながら地面にもばらまく。地面に水を撒くことで涼しくする昔ながらの納涼法だ。
「あたしもやりたい!」
凪の声と共にいきなり後ろから掴まれた。顔を見るとすごい笑みを見せてきた。これは渡すしかないだろう。
「はい。花に直接かけちゃ駄目だぞ」
「うん! わかった!」
渡す前に霧状にしておいたので花にかけても問題はないようにしておいた。何故なら遊びだすに決まっているからだ。
「わぁー! 虹だぁー!」
花にかけている途中、出た水から虹が掛かっていた。それが楽しいらしく色々な方向に水をばらまいている。年相応の無邪気さはいい事だ。おけげで水やりが途中だ。
「これかな?」
そんなことを言いながらノズルを触っている。そして急に明るい顔になったとたん霧状だった水がジェット噴射になった。
「うわっ!?」
いきなり発射されたためさすがに凪も驚いている。が途中で笑い出し、また同じように水を四方へばら撒き始めた。しかもジェット噴射で。それが僕にも降りかかった。しかもジェット噴射で。これは止めないと水浸しになってしまう。
「凪。もう止めるんだ。服が濡れてしまう」
そうは言ってみたが時すでに遅し、凪の服は水浸しであった。
「うん! わかった!」
だからもう遅い。と、凪にいい笑顔されたら言えないな。とりあえずタオルを持ってこなければ。
「二人共何やってるのー? びしょびしょじゃない?」
ベランダから陽射が声をかけてきた。僕たちの状況を見て怒りもせずただ笑顔で見ていた。
「ごめん陽射。二人で遊んでしまった」
「いいよ。タオル持ってくるから待ってて」
陽射は二人分のタオルを持ってきてくれた。ひとつだけ受けとると凪に声をかける。
「凪ちゃん。こっちおいでー」
「うーん!」
僕は頭を雑に拭く。結構な勢いでかけられたのでかなり濡れている。隣では凪が陽射に拭いてもらっていた。朝からこんな・・・・・・。でもおかげで目が覚めた。
「はい、おしまい! 服もびしょびしょだねー。二人共洗濯するから脱いじゃって」
「わかった。いくぞ、凪」
「はーい!」
二人で洗面所に行き服を脱いでそれぞれ自室に向かったのであった。
◆◆◆
現在は昼前の町中。目的地の公園まで歩いている。家は田舎だからピクニックに向いている場所はなく、バスで町まで繰り出したのであった。さすがに休日、人がいっぱいだ。僕は人ごみが好きになれない。とても息苦しくなる。その点凪は好奇心が旺盛。手を繋いでいないとどこかへ行ってしまうのでしっかり握っておく。
「ねー、公園まだなのー?」
「もうちょっとだから。我慢してね」
「うん! お弁当たのしみー!」
二人は人ごみを気にもせずニコニコしている。凪は小学校に通っているから町には熟れている。陽射は昔から人に囲まれていたからであろう。かくいう僕は人に囲まれた経験が少ない。昔から嫌われていたから。しかも先程からすごく多くの視線を感じる。不快だ。
「どうしたの? 夜空?」
「すごく見られている。落ち着かない」
「それは夜空が綺麗だからだよ」
「違うと思うけど」
実際の所見られているのは陽射であろう。美人と言われているし見事な金髪だ。目を向けるなと言われても難しい話だと思う。でも確かに金髪と銀髪が並ぶと目立ってしまうけど。
「そんなことないよ。絶対夜空も見られてるよ。夜空美人って言われてるから。蘭ちゃんもそう言ってたし」
「いや、見られたくないんだが・・・・・・?? 美人? 僕が? 蘭も?」
「うん。皆言ってるよ。中性的で神秘的だって。神秘的は雰囲気の方だったかな? でもとりあえず夜空は美人だよ」
初耳だ。皆がそんなこと思っていたなんて。母艦内ではすれ違うたびに避けられていた気がするのに。まさか蘭までもが。
「夜空美人だよねー?」
「うん! 美人だよー。すっごくキレイって河内先生も言ってたもん!」
なんてことだ。河内さんまでそんなことを。
「なんかねー、最初は女の人かと思ったって言ってた! おねーちゃんとおにーちゃん見て、まるで太陽と月だねって!」
自分がどう見られているかを知った時間であった。とそんなこんなで目的地に着いた。
「着いたよ凪ちゃん。」
「うわぁ! 緑色がいっぱーい!」
と、走り回る凪。いつも笑顔だが今日はまた一段と輝いている気がする。着いた場所は町の中の公園。丘の上にあり自然がまだ残っていてとても綺麗な場所だ。広い作りになっており人も多少いて同じようにピクニックをしている。
「あんまり遠くへ行くな。迷子になるぞ」
「うん! わかった!」
と言いながらどんどん距離が離れていく。これはひとりで遠くに行くパターンだ。
「ちょっと行ってくる」
「うん。お願い」
場所取りを陽射に任せて急いで凪を追いかける。凪は走るのがかなり速い。しかも凪を押すように風が後ろから流れている。これは術を使っているに違いない。距離が少しずつしか縮まらない。
「凪! 待つんだ!」
「きゃははっ! 早く早くー!」
緑の丘を適当に走り回る。これは追いかけっこになっている。凪もそのつもりだろう。是が非でも捕まえなければ。
「・・・・・・」
少し肉体強化をすることにした。でなければすばしっこい凪を捕まえることは不可能だろう。
「あ!来た!」
徐々に追いつき手を伸ばす。もう凪を捕まえられるところまで来たがいきなり九十度の角度の方向へ移動する。そしてその後に風が襲ってきた。
「っ!」
また術を使ったのだ。今度は僕を妨害するために。なんてやつだ。また離されてしまった。弁当が待っているというのに。
「ほら早くーー! いっちゃうよーー?」
しかもわざわざ止まって挑発までしてきた。周りの一般客もこちらを見て笑っている。何故だろう? 絶対に捕まえたい、そんな気持ちだ。だから凪の方をじっと見た。
「きゃははっ!」
また走り出す凪の方へ体を向け一気に走り出す。大人気ないなんて言われても関係ない。全力で捕まえるだけだ。
「わぁっ! 速い!」
驚いた顔をした凪。それはそうだろう、本気なのだから。
「ん~~~~!」
すぐに追いつき手を伸ばす。もう少しで捕まえられる所でまた九十度の方向へ切り替えした。だがもう同じ手は通用しない。足を踏ん張らせて九十度の方向へと飛んだ。そして捕獲。
「捕まえた」
「いぃ~~~! おにーちゃんズルした!」
6歳児に指摘されてしまった。だが僕は大人気なくても関係ないと心に決めたのだ。だから関係ない。
「でも楽しかったぁー! きゃはは!」
と笑顔でそう言ってくれる凪。久しぶりに会えて久しぶりに遊べる、楽しいのが普通だろう。
「そうか。お昼だから戻ろう。陽射が待ってる」
「うん! お弁当食べたい!」
僕は凪の手を繋ぎ、陽射の待っている所へと向かった。