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第七話 大切な事の証明(1)

「俺が訓練生だと思って舐めるなよ?一応四つの属性を持つオーバーなんだぜ?普通じゃあ勝てない。女みたいな成りしてそんなで勝てるのか?」


 開始してからすぐに話しかけられた。向こうの出方を待っていたのだが、まさか能力自慢されるとは・・・・・・思った通りだ。


「まぁお前に俺たちを攻撃できる前提の話だがな。俺たちに怪我でもさせてみろ?お前これか・・・」


 戦闘中なのにだらだらとしゃべっているから先制攻撃。一瞬で距離を詰めてとりあえず一番箸にいたやつの腹部を蹴り飛ばし場外へ飛ばす。新米兵B君は話の最中で仲間の一人がいきなりやられたので開いた口が塞がらない感じで驚いている。


「すまない、もう一度言ってくれ。途中から聞いてなかった」


「もう一度って・・!? お前人の話聞いてたのか?! これ・・・やばいぞ! お前の未来が懸かってるんだぞ?! 俺たちを攻撃するって事はお前完全に上層部の敵になるんだ!!」


「だから聞いていなかったと言っている。それに人代派タカ派は僕たち神代派と呼ばれる人達を滅ぼす事をうながした奴らだ。つまりは僕のかたきでもある。そんな奴らに僕が気を遣う道理はない。だから・・・・・・」


 僕は一回俯いてまた前を見る。彼らは驚いていた。何故かありえないものを見る様に。


「何か言ってきたら・・・・・・殺してやる・・・・・・」


「お前・・・・・・目が蒼く・・・・・・! さっきまで紅だったろーが!?」


「気にするな。これは戦闘用の目だ」


「戦闘用の目ってなんだよ!? 聞いたことねーし!? この化物が!!」


 また言われてしまった。でも問題ない。幼少から言われていたことだ。


「次行くぞ」


 手を合わせてから地面に手を付ける。何かを感じたのか新米兵AとBはその場から離れた。さすが大きい口を叩くだけある。その判断は正しい。そして残された二人の足元から水が湧き上がり二人を覆うほどの渦巻く水柱を立てた。


「ぐがっ!」


「ごぼぼぼ」


 水柱の中は上に向かって回転している。二人はそのまま水柱の頂点まで渦巻いて飛んでいった。場外まで。


「くそっ! まだ俺たち何もやってねーじゃねーかっ! もう半分以下だっ!」


「まだだっ!! いいか? 挟み撃ちだ! これでもまだ二人いる! 挟み込んでまず俺が攻撃する。避けたところお前が攻撃しろ! それで行けるはずだ」


 離れたところで作戦を立てている。何を言っているかよく聞き取れなかったが関係ない。彼らに歩きながら近づく。そして何故か話しかけてしまった。


「君、オーバーとか言っていたな? どの属性を持っている?」


「えっと・・・・・・火と風と土と・・・・・・てなんでお前に話すか!」


 そう言いながら走っていた二人が僕を挟んだ状態になった。




◆大切な事の証明(1)




「いけっ!!」


「くらえぇぇぇぇ!!」


 新米兵B君が手に火の玉を作り僕に向け投げ飛ばした。それを彼の方に走りながら回避、僕はすかさず彼との距離を詰める。その途中に僕は右手に炎を纏わせておく。


「えっ!?」


 不意に接近され驚いている様子、というか驚きすぎだ。今日だけで勉強になったことはたくさんあったであろうに。


「ついでに教えておく。これが火属性の使い方だ」


 右手のひらを彼の腹部に貼り付ける。炎を纏った手を付けられたのだ。それだけでも熱いのに火属性は放射の特性がある。だからこの手のひらから火炎放射のごとく放射された。


「熱いっ! う、わあぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」


「戦闘不能を確認!!」


 武田さんの声が響いた。もう彼にダメージを与えることはできない。


「加減はしておいた。見た目は派手でも軽い火傷程度だ」


 体が煤で黒く染まり白目を向いていた新米兵B君にそう言っておいた。気絶しているから聞いてないか。そしてまたゆっくりと歩き出す。残った新米兵A君の所へ。


「ま、待て! お前が強いのは解った! 解ったからもうやめてくれ!」


 そう言いながら後ずさり、こけた。尻を引きずりながらも後ずさっている。


「降参、ということか?」


「違う! まだ負けてない! これは複数での連携訓練だ! 俺にはもう仲間がいない! 続行不可能だ! もう複数じゃないんだよ!!」


 何を言っているのだ。危機的状況で気が狂ったのか? 発言は降参の様なものなのに負けを認めていない。これが甘やかされて育った成れの果てなのか? でもこれはどちらかが敗北するまで終わらないのだ。場外に出るか、戦闘不能になるか、降参するかで終わる。これでは終われない。だから終わらすために僕は右手を上にかざした。


「何をする気だ?! もう続行は不可能だ! やめろと言っている!!」


「だったら降参しろ。それが武田少尉に伝わらなければ訓練は続行だ」


「だから負けていないと言っている!! お前は馬鹿なのか?! これは連携訓練なんだぞ!? 俺はもう一人しかいないんだ!!」


 そう言っている間に頭上に大きな水の塊が浮いていた。これは僕が先ほどいた水上演習場の水を水属性の術で持ってきたのだ。


「君は確か僕の水属性の術を見たいと言っていたろう」


「そ、それは使いたくないって言っていたじゃないか?! 敵じゃないと使わないって!?」


「君は今敵だ。そうでなくても君は神代派排除を望み行ったタカ派の者だ。敵には変わりない」


「・・・・・・クソッ!! この化物が!!」


「これで終わりだ。目が覚めた時には僕はもうここにいないだろう。戦場で会えるといいな」


 そうして僕は右手を下に降ろす。これで頭上の水の塊は落ちてくる。あれだけの水圧をくらえば訓練兵では戦闘続行は不可能だろう。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!・・・・・・」


 そう言って気絶してしまった。水を落とすふりだけして降参を誘ったのに、まさか効果があったとは。しかも彼の股間の辺りに染みが出来ている。どうやら驚かせすぎて失禁してしまったらしい。


「戦闘不能を確認!! 訓練生の全滅により月神夜空の勝利!!」


「「「「おぉ!!」」」」


 他の訓練生ギャラリーたちが一斉に声を上げた。怖がられると思ったがそうでもなかったらしい。皆の所へ行くと先ほどの女性訓練生が近づいてきた。


「すごかったです!! 月神さんの戦術!! 私、風以外でも火が使えるんです。今のを見て驚きました! あんな使い方があるということを教えられたような感じがします!」


「そう、火も使えるんだ? 君は近中距離タイプなんだね」


 僕より1、2歳くらい下のこの女性。なんか目が輝いている。


「そうなんです! 9月には配属が決まりますから、私、海軍の第一艦隊第四小隊希望でいきます!!」


「うん、がんばって。待ってるから」


「はいっ!」


 と言って訓練生たちと戻っていった。いつの間にか訓練終了の時間が来ていたらしい。


「お疲れ様です月神殿。やってしまいましたなぁー」


 武田少尉が苦笑いで話しかけてきた。自分の上司の子供たちがやられてしまったのだ。上からの責任追及とかもあるのだろう。


「申し訳ない。あのタイプは戦場でも過信して一番に死んでしまう。ここで崩しておかないとと思って」


「いえいえ、私もそう思っていたんです。あなたがあいつらの性根を折ってくれて助かりました。でなければ私の教え子達に死人が続出なんて、嫌な話ですから」


 武田少尉は少し悲しい顔をして訓練生たちと同じ方向へといった。僕と模擬戦をした5人には救護班が向かった。まぁ万事解決というやつか。


「お疲れ様、夜空。ちょっと本気だったでしょ?」


「・・・・・・」


 本当に陽射には隠し事ができない。神代派を化物呼ばわりした事で少し本気で攻撃してしまったのだ。訓練生相手に大人気ない事をした。特別講師はこれで終わり。去年と同じく講義と戦闘訓練を見て教えるだけ。いる意味はないと思うのだが数少ないオリジンということで呼ばれている。今年は少し気の強い訓練生がいたが何とか切り抜けることができた。そしてまた来年も呼ばれるのだ。少し憂鬱な気分になってしまう。でも後一年はここに来ることはないだろう、と思いたい。


「今年は色々とあったね。あの女の子、私たちの部隊に入れるかな?」


「うん。入ってくると思うよ。だから僕たちの仲間だ。大切な・・・・・・」


 何故だかあの子が第四小隊にきっと入ってくるという確信があった。本人も希望すると言っていたし、あの部隊は最前線で危険なため希望する人が少ない。だから望めば入りやすいのだ。そして仲間になるののなら絶対に死なせない。


「それじゃあ行こっか?」


「うん」


 そして僕たちは歩き出す。本来の休暇を過ごすために。


◆◆◆

「本日はありがとうございました。あの5人のことなら気になさらず。こちらで言いくるめておきますから。ではまたいつか会えるのを楽しみにしております」


「月神殿、姫神殿。本当にお世話になりました」


 本部の前で駐車された車の前で斎藤中佐と武田少尉が見送りに来てくれた。僕たちが車内にいる状態で窓越しに話している。例の5人の話は上層部にいる親が僕に責任を求めたが、斎藤中佐と武田少尉、そして訓練生達の証言ですべて不問になった。現在タカ派と呼ばれる派閥は本当に極僅か。そんな人たちが何を言おうと、戯言にしか捉えられないらしい。つまり何の力もないという事なのだ。この二人はこれからも何かと縁がある様な気がする。


「はい。そのうちにお会いしましょうね」


 返事をしたのは陽射だけ。いつものニコニコ顔で答えた後、車は動きだした。別れは意外にあっさりしていた。そして帰路へ付くのだった。現在は夕方だ。季節は夏のためまだ日はある。というか明るい。


「何か、少し疲れた。早く帰りたい」


「そうだねぇ。色々あったものねぇ。でもこれでやっと凪ちゃんに会えるのよ?もうちょっと頑張りなさい」


 窓の外を見てみる。この本部周辺には住宅がない。だから人がほとんど通らない。だが道はしっかりしていて、コンクリートで固められている。人工的過ぎた風景に見ていて気分が悪くなる。でももうすぐ普通の暮らしができる。俗に言う一般家庭の暮らしだ。凪を早く迎えに行かなければ。

「うん。もうちょっと・・・・・・もうちょっとだけ頑張るよ・・・・・・」


 そう言ったハズの僕はその後目を閉じそのまま眠ってしまった。


◆◆◆

「夜空! 起きなさい! 夜空!?」


 体を揺すられ起こされた。目をゆっくりと開けて見る。近くに陽射の顔があることを確認。そして周りを見渡すと窓の景色が流れていない。車は動いていなかった。体を起こし目を擦る。何となく左右を確認して状況判断。先ほどより空は暗くなっていた。だが住宅が並んで見える。そして車は一軒家の隣に止めていた。これはつまり目的地に着いたのだ。


「行くよ、夜空。ほら!荷物持って」


 渡されたバックを持ち車を出る。これは空母から持ってきた荷物。僕も陽射もボストンバックに余裕ができるほどの荷物しか持っていかなかったから軽い。帰りはやはり身軽が良いと思う。


「ありがとうございました」


 と後ろから陽射の声。運転手にお礼を言い、そして車は去っていった。そして正面にある一軒家の門のインターホンを陽射が押す。そして女性の声がインターホンから聞こえてきた。


『はーい?』


「こんばんは。姫神です。凪ちゃんを迎えに来ました」


『あ、はーい! ちょっと待ってくださいねー』


 といって切れた。それから玄関まで歩く。扉が開き声の主が現れた。


「あらぁ? お久しぶりー! 無事に帰ってきてくれて何よりだわぁー!」


「お久しぶりです、河内さん! 凪ちゃんはいますか?」


 河内さんは様々な理由によって育てることができない親のために子供を預かる施設を立てた優しい人。もう三十路過ぎと聞いているが元気で若々しく、いつも明るい笑顔をしている。


「はいはい、ちょっとまっててねー」


 そう言ってまた家の中に戻っていった。しばらくしてからまた扉が開く。最初は顔半分を覗かせていた視線が合うと目を輝けせて小さな女の子が出てきた。


「おねーちゃん! おかえりっ!」


 少女はそう言いながら満面の笑みで陽射の所へと走っていった。陽射もいつもより上機嫌なニコニコ顔をしながら荷物を置いてしゃがみこみ走ってくる少女を受け止めた。そして抱きかかえて立ち上がる。


「ただいま凪ちゃん! いい子にしてた?」


「うんっ!! いい子にしてたよ! おにーちゃんもおかえりっ!」


「うん。ただいま」


 凪はこちらにも満面の笑みでおかえりと言ってくれた。それだけで疲れが消えそうな気がする。3ヶ月ぶりあったが元気がとてもいい子。少女の名前は風宮かぜみや なぎ。彼女もオリジンの一人。アドバンの侵攻により両親を亡くし、身寄りがなかったので僕と陽射で引き取ることにしたのだ。まだ6歳なので能力者としては見られていない。でも一応世界的保護対象なのだ。


「ホントに凪ちゃんはいい子で、同い年の子も年下の子も面倒見てくれるから助かっちゃって」


 嬉しそうに話す河内さん。6歳で面倒見がいいか・・・末恐ろしいぞ。


「そうなんですかぁ。すごいね凪ちゃん! えらいえらいっ!」


 そう言って優しく凪の頭を撫でる陽射。少し可愛がりすぎだ。頬を赤く染めて、目に入れても痛くないっていう言葉が陽射と凪のために生まれたのではないかと疑ってしまうほどだ。でも気持ちはわからなくもない。久しぶりに会えたのだから。


「では私たちそろそろ帰ります」


 陽射は凪を降ろし、手を握った。


「もういっちゃうの? もっとゆっくりしていけばいいのにー!」


 そう言いながら凪の荷物を僕に渡してきた。どっちなんだよ?


「はい。折角休みですから家族の時間を大切にしたいんです」


 陽射、なかなか良い事をを言った。少し感動したぞ。そして僕の方を向き、


「当たり前でしょ?」


「・・・・・・」


 久しぶりに心を読まれた気がする。


「じゃあ帰ろうか」


「そっかぁ・・・・・・・うん・・・・・・またね・・・・・・凪ちゃん・・・・・・」


 そう言って河内さんは力なく手を振った。陽射が帰宅切り出したら普通だったのに僕が切り出したら落ちてしまった。明らかにおかしいぞ?


「うん! ばいばいっ! またねー」


 凪は小さいてを振って僕たちと共にこの施設を後にした。


「おうちにかえれるー!」


 上機嫌な凪が自分で作ったであろう歌を歌いながら人通りの少ない道を三人並んで歩いている。真ん中に凪両サイドに僕たち。手を繋ぎながら。この光景は、誰も血は繋がってないけど傍から見たら家族にしか見えないと思う。なんとありふれたものだが普段なかなか会えない分とても大切なものになっている。だからこの貴重な時間を皆で分け合うため僕たちは歩いて自宅に帰る。ふと空を見上げる。だんだん暗くなっていく空。でもそこには光がいくつもあった。



 見上げた空は美しく輝く星と、綺麗な満月が僕たちを照らしている。そんな気がした。

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