第六話 一日講師と現在まで(3)
空は快晴。雲一つない青空だ。まるで休むことを知らない様に太陽が照り続けている。七月は夏の真っ最中。とにかく太陽が眩しい。
「あと5分だっ! もうひと踏ん張り行けぇー!!」
現在、演習場で武田少尉立っている。僕と陽射は少し離れたところで新米兵達が走っているのを見ているだけ。トラックの周りを一時間走り続ける訓練だ。勿論神力を使って。故に速度は一般人が長時間走り続けるようなものではない。今行われているのは神力の身体強化を体に馴染ませることと基礎体力の向上だ。全員同じ集団で固まり、誰ひとり遅れることなく走り続けている。さすがはエリートクラス、優秀な人たちぞろいだ。その間やることがなく、日陰に行こうとしたら周囲に日を避ける場所がないため、照りつけられる太陽に晒されている状態だ。陽射は武田中尉から日傘を貰い、日から避けている。何故僕にはくれないのだ・・・・・・
「あと1分だっ!」
武田少尉の声が響く。新米兵達の表情は人それぞれ、まだ余裕がありそうな者もいれば、苦しそうに走る者もいる。それにしてもこんな暑い空の下よく頑張る。神力保持量は生まれつきの様なもの。クリエイト達はクリエイトになった瞬間から神力の量が決まってしまっている。今苦しそうにしている者は神力保持量が少ない者なのだろう。でもさっきから離されることはない。彼らをそこまで掻き立てるものって何なのだろう。僕が講義で言ったことが彼らに届いてくれていると良いんだが。
「終了だっ! 全員3分間ジョギングした後集合しろ!」
一斉に速度が落ちてジョギングに移る。各自息を整えている最中なのだろう。さっきまで苦しそうな顔をしていたが少しずつ元に戻っていく。というか、暇だ。しかも照りつける太陽が眩しい。陽射の傘の中に入れてもらおう。
「月神殿、姫神殿、お待たせいたしました」
武田少尉がこちらに来た。体付きがしっかりしていて、いかにも男という感じだ。さすがは教官。
「この後に能力使用の訓練に入りますので、その時はお二人には指導の方よろしくお願いします」
「了解した」
「それにしてもお二人共、見事な髪の色で。まるで太陽と月のようですね」
なんだ?唐突に。
「これだけ美しいと思える人がいるなら、神という存在がいるのではないかと思えてしまう。なんで昔の人たちは神代派を嫌ったのか・・・・・・不思議でなりません」
そういうことか。武田少尉は先ほどの講義がどこか心残りがあったと見える。神代派と呼ばれる僕たちに何かしたいのだろう。
「ただ怖かったんでしょう。科学で説明の付かない力を使える者たちが。理解できないのは悪。それが人間の考え方です」
思っていることを正直に言っってみた。理解できないものは怖い、だから悪。単純な思考だ。
「そうですね・・・・・・理解できないのは悪かぁ。でも今は違いがあるにせよ同じような能力を使っているわけです。私はわだかまりがなくなることを望んでいます」
この人は軍の中でもハト派寄りというわけか、というのが素直な感想。現在においても神代派排除のタカ派と神代派と共存のハト派の考えが残っている。世界というのは善があって悪があるように、何かを必ず二分しないと駄目なのだろうか。
「お! 終わったようですよ。では次の訓練の方よろしくお願いします」
見ると新米兵たちが小走りでこちらへ向かってきていた。これでようやく暇では無くなるのか。
◆一日講師と現在まで(3)
「つまり、水属性は自分で水を作り出すより、周囲の水を使った方が時間短縮できる。使いこなせればそんなに変わらなくなっていくが、属性転換するよりは楽だ。もし水属性を使いたいならば海軍に入ることを進める。では各自実際に水を制御してみよう」
僕は各属性に使用法を教えている。水属性の持ち主を召集して水上演習場にいる。広めのプールのようたところだ。水は水上が一番有効。属性には特性があり、自分の戦術や部隊の戦略に大きく関わっていくものだ。ここで属性の特徴と自分の戦術法を考えて陸、海、空軍のどこに入隊するのかを決める。
ふんっ! やら、はっ! とか言いながら水を操っている。でもさすがとも言うべきか皆水柱が立っていて、しかもそこそこコントロールが出来ている。それぞれ思い思いに動かす。短調にしか動かせない者や複雑に動かせるものまで様々。そこでいきなり声をかけられた。
「すみませーん月神さん」
すごく軽い感じだ。しかも見下した様な顔をしている。こいつはさっきの講義で嘲笑っていた新米兵Aだ。とりあえずはそう名付けておこう。
「何?」
「月神さんの水属性の術を一回見てみたいと思いましてぇ。何でもオリジンはクリエイトと同じ属性を使うのに桁違いの技術だと聞きましてねぇー」
出た。確か去年もあった気がする。オリジンが物珍しいのか、それとも別の理由か。
「いや・・・・・・あまり水は使いたくない」
「水」は大切なもの。だから人に見せるため簡単に使いたくない。
「いいじゃないですかぁー? 減るもんじゃないしぃ。まさか使えないなんて落ちはやめてくださいよー?」
何が言いたいのかがわからない。それに神力が減ってしまうのだ。減るもんだ。何を言っているのだ。
「いや、使える。だけど使わない。敵と呼べる者にならいくらでも使う。だけど見せ物にするためには使いたくない」
「いいから見せろ」
急にタメ口だ。この新米兵Aは軍の常識を知らないのか。
「いいか? 俺の親父はここで司令部やってる将校の一人だ! だから俺の言うことなら聞いたほうがいいぜ?」
なるほど。七光りの持ち主だったのか。周りが嫌そうな目で彼を見ている。気分を悪くするとはこうゆうことも含まれていたのか。予想外だ・・・・・・
「だからやれよ! 神代派の生き残りがっ!」
あら。本音はそっちだったか。どうやら新米兵Aの父親はタカ派らしい。僕たち神代派の生き残りであるオリジンを危険視し、排除を訴える派閥。
「あの・・・・・・ちょっといいか?」
「なんだよ?」
「新米兵A君・・・・・・君、面倒くさい・・・・・・」
「はぁ?」
「だって・・・・・・君スネかじり見たいだし・・・・・・我儘が通ると思ってるし、ニヤニヤしてるし・・・・・・何か嫌だ」
やばい。何故か本音が出てしまった。当の本人は顔を日焼けしたような真っ赤にしている。怒っているのか、恥ずかしいのか。後で面倒くさいことになりそう。今もか・・
「て、てめぇー! 調子に乗ってんじゃねーぞっ!」
焦っている。図星だったのか?
「焦ってねーし! 図星でもねーよ!」
「・・・・・・」
声に出ていたらしい。しまった。周りを見ると新米兵A君を見る目が情けないものを見る目だった。そしてキョロキョロと辺りを確認する本人。
「チッ! お前・・・・・・後悔するぞ・・・・・・!」
そう言い捨てて、水上演習場から出て行った。これは彼の父親に報告するに違いない。本当に面倒くさい。
「お疲れ様です! 月神殿! 兵の調子はどうでしょう?」
遅い! 来るのが! もう少しはやくきてほしかった。全て任せれたのに。
「とりあえずは使い方と長所短所を教えておいたので」
「そうですか。ではここからは私が引き継ぎます」
「応」
思わず古い言葉使いをしてしまった。これは家柄的なことだからしょうがない。とりあえずは風の属性を教えている陽射のところへ向かうことにした。
◆◆◆
陽射+αたちはさっきまでいた演習場にいた。こちらにいる男たちは陽射チラチラと目配せしている。なんか頬を赤らめて俯いている者までいる。ほんわかとした感じで傍から見ると何故かピンクというか何か花が見える。そんな雰囲気だ。僕はあの中には入れない。僕は進む方向を変えて一人になろうと移動する。
「よーぞーらーー!」
気づかれた。だけど呼ばれてもあのピンクの中には入りたくない。だから無視しよう。と、そのまま歩き始めた瞬間背中にゾクリと悪寒を感じた。
「夜空? 呼んでるでしょ?」
振り向こうとした時はすでに真後ろにいた。さすがだ、動きが速い。
「いや、だって・・・・・・僕はあの中に入りづらい・・・・・・」
「え? どうして? 一部を除いて皆普通に接してくれるよ。ほらっ。・・・・・・あれ?」
陽射がその方向に向いたときには、すでに皆の表情は統一して睨みになっていた。花々とした雰囲気はどこかへ行き、黒い様な何かが見えた。
「さっきまでは仲良くやっていたのだけれども・・・・・・どうしてかな?」
「いや、大丈夫だ。幾分かマシになった」
「そぅ? それじゃあ行こっか!」
そして陽射に付いて行く。だんだんと近づいてきたとき、あることに気がついた。なんと新米兵A君がここにいたのだ。
「・・・・・・」
思わず立ち止まって凝視してしまう。ここにいたのか!? とか、一人でいたい見たいな雰囲気だったぞ!? とか珍しく色々なことを思ってしまったのだ。当の彼は数人の仲間と共にこちらを睨んでいた。あれは確か講義中こちらを見ていた奴ら全員だ。恐らく七光り軍団であろう。面倒くさくなる前に離れておこう。
「皆さんお待たせ。接近戦での風の使い方なら夜空がよく使うから、何かあったら夜空にも聞いてくださいね」
「「「はいっ!」」」
はいっ! て・・・・・・嬉しそうに。この人たちの年齢層はバラバラだけど中にも年上が混じっているのだ。元気よく返事なんて・・・・・・なんだろ。おかしい気がする。それはとりあえず置いておき、風属性は特性に切断が付いている。使い方は主に、武器に風を纏わせ切断性を向上させるというもの。故に接近戦での効果が絶大なのだ。
「うわっ!」
「ふぁ~~~~!」
声のする方を振り向くと皆吹っ飛んでいた。風を手に集める、という訓練なのだが皆押さえ込めずに風がそこら中に撒き散らされている。おかげで涼しい。と、そこでまた一人こっちに近づく者がいた。またか・・・・・・と思ったが見るからに女性であの集団とは違う人だった。
「あの~すみません。お聞きしたいのですが」
「何?」
「使い方のコツというか何というか、教えて欲しいのですが・・・・・・」
聞いちゃいけなかったのか良かったのか迷った感じで話しかけられた。こういう人は嫌いではない。
「そうだね。始めのうちは風は少量で、周り全体から風を集めるのではなく腕の辺りのものくらいで集めた方がいいと思う」
「そうですか・・・・・・腕の辺りぐらいから」
とその場でやり始める。目を閉じ右手を出している。何も起こらない。ただ目を閉じて風を操ろうとしている。すると腕の辺りから風が渦巻き始めた。とても微弱で消えてしまいそうな風だったが、それが徐々に肘を吊たい、手までやってきた。そしてゆっくりと目を開けやがて見開いた。
「出来た・・・・・・やっと出来たぁーーー! 手に収めることが出来たっ!」
ものすごく嬉しそうな顔で自分の手を見ている。これだけ喜ばれると教えた方も気分がいいというものだ。しかもいつの間にか他の人たちもこちらを見て驚いていた。皆、風を起こすことと飛ばすことはできるらしいが、一箇所に集めることがまだ難しいのだとか。これで僕がこの子に教えたことが他の人に伝われば皆出来るようになるだろう。
「ありがとうございます! 私! あなたの様な風使いになって戦闘の最前線で共に戦えるようにがんばりたいです!」
「そう・・か・・。うん、わかった。だったらもっと強くならなければ」
いきなりのことで驚いてしまった。気の利いた言葉の一つもかけれない。でももし本当に最前線で戦うなら死傷率が上がってしまう。だから、もっと強くなってからになるだろう。
「はいっ!」
いい返事が帰ってきた。この人は元気がいい。恐らく蘭の様なムードメーカーになるのだろう。そういう存在はどこの戦場でも一人は必要なものだと思う。
「はっ? 何言ってんだこいつ? 頭おかしいんじゃないか?」
唐突に言われ振り返るとそこにはあざ笑う集団がいた。中にはさっきの新米兵A君もいる。これは本格的に面倒なことになると思われる。
「いいか? こいつはオリジン、つまりは神代派の生き残りなんだ! 化物なんだよ? 化物を目標にしてどうするつもりなんだぁ?」
笑いながら、僕を化物呼ばわりする。この集団は恐らく親がタカ派なのだろう。そして本部に親が所属しているというわけか。
「その言い方はないと思う! 人類を守れる力を今まで伝えた来た人達よ?! だから化物なんかじゃない!」
「そいつはいいな? すごい力だ! だけどな?人代派が倒せなかった地球外から来た未知の生物まで倒すほどの力。この力はなんだ? 化物じみているとしか思えないか?」
この中でタカ派に属しているのはこの集団の5人だけらしい。他の人たちはオドオドしながらただ眺めているだけだ。
「私たちだってその力の似せて作ったものを習得したのよ? だったら私たちも化物じゃない!!」
「俺たちは違う。人間の技術によって能力を得たんだ! これはいわゆる人類の進化というものだ! 技術進歩の末の結果なんだよ! だけどこいつらは違う。もともと持っていたものだ! 過去から神から譲り受けたとか言われる訳のわからない力を使う。人が生み出した力と訳のわからない存在に与えられた力、どちらが化物か一目瞭然だ」
おぉ、と少し関心してしまう。神代派を嫌悪していたのはこういう理由だったのかと改めて知ったからだ。でもこの人はやっぱり面倒くさい。
「つまり君は何が言いたいんだ?」
「ようやく口を開いたか、つまりだ。お前は消えろと言いたいんだよ! なんなら今ここで消してやってもいいんだぜ? 親父には黙っといてやるからさぁ!」
!! とか!? とか?? とかの空気が流れる。ここで戦闘をしようというのだ。しかしこれは裏がある。ここで彼を新米兵B君と名づけておく。彼はアジア支部軍上層部の親族だ怪我をさせたら問題になる。だからそれを狙ってタコ殴りにする気なのだ。やっぱり面倒くさいことになった。
「どうしたんだ? お前たち?」
後ろから武田少尉の声。水上演習場から戻ってきたのだ。仕方がないから少し乗ることにする。
「この訓練兵達に模擬戦を申し込まれた。受けて立ちたいので見届け人になってもらえませんか?」
また!! とか!? とか?? とかの空気が流れた。受けるの?! という反応が大半を占めている。こちらが攻撃できない模擬戦に出るなんて普通なら考えられない。
「つ、月神殿!? それは本当ですか?!」
「はい。本当ですが、なのでお願いします」
武田少尉は大きなため息を吐いて頭を抱えた。そして僕に近づき小さな声で耳打ちした。
「とりあえずは複数対単一という状況の訓練として了承しますが、いいですか? くれぐれも問題になるようなことはやめててください」
なんか申し訳ない気持ちでいっぱいです。そして武田少尉は声を大きくして宣言するように言った。
「それでは今より訓練生と月神夜空による、複数における連携戦術の模擬戦を開始する! 双方、位置に付け!」
模擬戦ではお互いに30mの距離をとるのが通例。そして中心点から半径100m以内が場となる。そこからさらに10m離れたところにギャラリーが集まる。判定は場外に出たら敗北、もしくは戦闘不能と立会人に判断されたら敗北という感じだ。人間相手は本当に久方ぶりだ。向こうは五人、こちらは一人。しかもこちらはタコ殴りされる前提だ。
「双方確認! では始め!!」
この人たちのせいでかなり面倒くさいことになった。今日で面倒くさいを何回考えたっけ?まぁでも・・・・・・少し楽しいんだ。