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第四話 一日講師と現在まで(1)

 「夜空、着いたぞ」


 体が揺れた。目をゆっくり開けて見ると弓斗が視界に入った。


「ん・・・・・・ぅん・・・・・・」


 眠い、眠すぎる。体が動かない、動きたくない。だからまた目を閉じてしまった。


「夜空、お前が起こせと言ったんだ。起きろ」


「・・・・・・??・・・・・・」


 一瞬なんか聞こえたような気がしたが、気にしないでおこうとしたが、突然殺気を感じた。誰かが僕を狙ってる。そう感じ、飛び起きて体勢を整える。すると目の前で弓斗がこちらに向けて弓を構えていた。


「おはよう、夜空。基地に着いたよ」


「・・・・・・あぁ、おはよう。もうかぁ・・・・・・」


 眠たい目を擦り視界を取り戻そうとする。そして「もういい、ありがとう」と言って弓を下げてもらう。

 進路を和歌山に向けてあともう数時間というところで眠ることにしたのだ。僕は起きるのが苦手だ。だからいつも誰かに起こしてもらっているのだ。それにしても3ヶ月ぶりの陸地だ。それにちょっとだけ楽しみだ。なんたって休暇なのだから。

 第一艦隊は3ヶ月間、海で待機をして、一ヶ月間の休暇を貰える。だからこの一ヶ月間は戦場から離れ一般人として生活ができるのだ。そして戦場の穴埋めは第二小隊が一ヶ月変わりにいていくれる。


「ふぅ・・・・・・」


 息を吐いて立ち上がった。まだ頭がスッキリしない。やっぱり寝起きはきついし動けるものではない。でも帰れるのだから動こうと思いまとめて置いた荷物を手に取った。同時に弓斗も準備が終わり荷物を持ち上げていた。


そして二人でドアまで歩く。これから違う日常が始まるのだ。




◆一日講師と現在(いま)まで(1)



 

 空母艦は和歌山にある第一艦隊基地の母艦格納スペースで整備の準備が進んでいる。一応、基地に戻るたび整備を受ける決まりになっているのだ。それは3ヶ月間戦場にいるということはとても危険な状態であり何かしらの不備があると戦況に大きく影響するからだそうだ。長く住んでいる家が定期的に綺麗になるのだ。悪いことじゃない。


「もうすぐか・・・・・・」


 艦内を歩き母艦の出口に近づく、全然他の人とすれ違わなかった。もう皆外に出ているのかな。ようやく出口を通り過ぎる。見える景色は思いっきり室内、出口から階段が伸びているが、その先の踏みしめる地面は基地の床。仕方がないことだ。

 床にたどり着いた時誰かに呼ばれた。振り向くと陽射と蘭がいた。


「遅かったわねー! 何してたのよ?」


「寝てた」


「はぁ? 折角の上陸前に何寝てんの? ふつーワクワクして寝れないでしょ!?」


 斯く言う蘭の目の周りにはクマが出来ていた。どうせ休暇が楽しみすぎて航路変更から寝てないに違いない。とりあえず蘭を流して歩く。そこで蘭がふと皆に聞いてきた。


「皆は休暇中どうすんの?」


「私と夜空は本部で特別講師をやる事になっているから、とりあえずは京都ね」


「ふぅ~ん。そうなんだぁー。私は実家に戻る予定。一回帰らないと親父が煩くてさぁー。京都にあるからまた会うかもねー。弓斗はぁー?」


「実家に戻る」


 皆やる事は一緒だ。それもそのはず、久しぶりに帰ってきたのに家でのんびりする選択枝以外何があるのだ。

「それにしても休暇中に講師なんてホントにもう、ご苦労様って感じねー」


「立場上仕方がない事よ。毎年必ず呼ばれているけど必要な事なんでしょう」


「でもねぁー、私だったら願い下げだわ。しかも本部なんて・・・・・・あんなとこもう二度と行きたくないし!」


 蘭は本部が嫌いなようだ。何でもアジア支部の本部が日本の京都でお偉いさん達が大勢いる。それで窮屈な雰囲気が耐えれないらしい。まぁ気持ちは解る。


「こんにちは、月神君、姫神さん」


 呼ばれた方を向いてみる。そこには第一艦隊の副司令が立っていた。名前は忘れたけど確か少佐だったような気がする。若くて線の細いお姉さんだ。慌てて敬礼する蘭と弓斗。


「こんにちは・・・・・・」


「こんにちは」


 とりあえず返事をする。


「二人にはこれから本部まで向かってもらいます。こっちで車を用意しました。この案内人の指示に従って車まで来てください」


「了解した」


「了解しました」


 少佐の様な気がする人の後ろには二人の軍人が立っていた。基地に配備されている者だろう。前に来て敬礼をしてきた。僕たちはちょっとだけお辞儀をする。


「では我々とご同行願います」


 そしてそのまま二人に連れてかれる。ろくに蘭と弓斗に挨拶できないまま連れてかれてしまった。なんだろう、連行されているみたいだ。



◆◆◆

 今、僕たちは車の中にいる。基地の入口で待機していた高級そうな車に乗せられた後、助手席に乗っているSP見たいな格好の軍人にひたすら講師の内容を説明されて2時間後のことだ。陸地は平和なもの。一応、地球連合陸軍が配備されているけれども、近年ではアドバンが陸に上がったことがない。故に陸軍はとても暇なのだろう。全て海上で撃退できているのだ。だからといって陸の守りを疎かには出来ない。守る対象である国民がいるのだから。そして隣を見ると陽射が眠たそうにウトウトとしていた。


「眠たいの?」


「うん。昨日眠れないって蘭ちゃんが言うから相手をしてたら全然眠れなくて・・・・・・」


「じゃあ寝ていきなよ」


 そう言って僕は自分の腿を叩いた。


「ううん。我慢する」


 でも凄く眠そうな陽射。これは絶対に寝ると見ただけで解るぐらい体が揺れている。


「本部までまだ時間がかかりますし、少々お休みになられてもよろしいでしょう。近くになったらお伝えしますので」


 とSP軍人。では甘えさせてもらうとする。


「陽射。寝ないと体が持たない。少しの間でも寝ておくんだ」


「うん・・・・・・じゃあお言葉に甘えて・・・・・・」


 陽射が僕の腿に頭を乗せた。頭をゆっくりと撫で続ける。何となく窓の外を見た。夕日で周りが黒とオレンジの色に分けられている。今は山々に囲まれているが時期に都会に入るであろう。そうしたらこんなにいい景色は見ることが出来ない。夕日はとてもいい。何故だか懐かしい気分にさせるから。でもその懐かしさがやがて切なさに変わっていく。それが少し胸のあたりを締め付けてくるのだ。

 いつの間にか寝息が聞こえてきた。それはとても小さな寝息だが陽射はぐっすりと寝ているだろう。だから頭を撫でるのを止めた。


「相当お疲れの様ですね。片瀬少尉と同室だそうですね。片瀬少尉は遠足前日は寝れないタイプですからねー。そうとう寝てないんじゃないかと思いますよ」


 と前を向いたまま急にしゃべりだしたSP軍人さん。というか的中している。蘭と知り合いなのか?


「あの方は私の上官の娘さんであり、教え子でもあるのですよ」


「はぁ・・・・・・」


 思わず空返事をしてしまった。このSP軍人は本部の人間だ。本部配属ということは優秀なのかお金持ちの怖がりしかいない。ということは、蘭はお嬢様だったのか。


「あなたたちのことも知っていますよ。それも一般よりも深いところまで」


「・・・・・・」


「大丈夫。私は神代派(かみよは)との共存を望んだ側です。別にあなたたちのことが嫌いなわけではありません」


 僕はただ男の目を見続ける。一体何が言いたいのか。


「今の人代派(ひとよは)のタカ派は一昔前よりは数は減らしていますが、僅かながらその思想が本部にはまだ残っています。明日の講師ですが気を悪くすることがあるかと思いますが、どうか耐えて下さい」


「いや大丈夫だ。そういうのは昔から慣れている」


「そうですか。それはよかった。なら安心です。」


「でも・・・・・・もし僕の事ではなく神代派の事だったら・・・・・・」


 自分に対する侮辱は慣れている。でも仲間の侮辱は耐えられない。だから、力を込めて言うんだ。


「僕は誰であろうと絶対許さない!」


「・・・・・・そうですか。」


 助手席のSP軍人さんはやっぱりそうですよね、と言わんばかりのような、ほんのわずかな微笑みを見せた。それ以降はお互い何も喋らなくなり、ただ静かな寝息だけが聞こえた。そして数時間後、本部に到着。

 地球連合軍アジア支部京都本部は南丹市にある。大きすぎて構造がよくわからないが、見た感じでは丸い円中が中央に一つその周り東西南北それぞれ小さな円中が立っている。とりあえず今は夜中。車を出て案内されるがままに本部の敷地内へ入る。陽射は寝起きでもすこぶる良好なので起こしたらすぐに状況を確認していた。入口にはちゃんと見張りが数人立っていた。その見張り達と軽くあいさつ、そしていよいよ本部内だ。といってももう遅い時間だったから結構静まっている。そのままSP軍人の後について行き、部屋の前にたどり着いた。


「ここが今日あなた方が泊まっていただく部屋になります。明日08:00に伺いますので、よろしくお願いします」


 と言ってテクテクと何処かへ行ってしまった。二人取り残される。


「中、入ろっか」


「そうね」

 

 部屋の中はとても広かった。これは上客用の客室だろう。冷蔵庫の中にも酒やらなにやらが入っている。一端の高級ホテルのレベルだ。とりあえず二つあるベットの右側を陣取り荷物を置き座る。その瞬間尻がベットに食い込んだ。ものすごくふかふかしている。空母では考えられないほど高級感だ。・・・・・・といかん。なんか貧乏性みたいだ。毎年のことながら少し浮かれてしまう。


「ねぇ夜空。先にお風呂入っていい?」


「いいよ、入っておいで」


 そして陽射は荷物の中から何かを取り出して浴室へ向かった。そしてこの大きな部屋に一人となる。ベットで横になり、今日のことを考えた。真っ先に浮かんだのはいつものメンバー。いつの頃からかお馴染みになってしまっているが、あの空母の中ではとても大切な時間だと休暇の度に思い知らされる。休暇中は他の隊員たちとは全く合わない。何故だか皆バラバラなところで過ごすのだそうだ。でも蘭の実家は京都にあると言っていた。だから明日までには会えるかもしれない。まぁ確率は低いけど。

 横になるのも飽きて窓際まで近づいた。さすがは本部のある京都だ。夜中なのに街が明るい。眠らない街と言うやつか。世界は戦争中だというのに呑気なものだ。それにしても・・・・・・家に帰りたい。

 

 30分くらい経ったあと浴室の扉が開く音が聞こえた。出てきた陽射は寝巻きの浴衣姿。幼少からこのスタイルだ。あの頃と比べれば身体はだいぶ成長している。にしても、本当にスレンダーな体型だ。


「お先で。明日早いからとっととお風呂入っちゃって」


「うん」


 着替えやらなんやらを持って浴室へ向かう。僕は風呂が大好きだ。睡眠の次に好きなことだ。湯船に浸かるのはたまらなく癒される。じわじわと体の芯まであったまるのが風呂の醍醐味。欧米文化にシャワーがあるが、あれは問題外。湯船に浸かってこそ風呂に入るといえよう。

 軍服も肌着もすべて脱ぎ終え浴室のドアを開ける。浴室内は湯気でほとんど見えない。湯船を見つけ、桶を取る。体にかけるため湯を取ろうとすると何も感じない。おかしいと思い湯気を仰ぐ。視界が広がり湯船の中が見えてきた。そこには・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何もなかった。


「えっ!? 何で?!」


 僕はあまりしゃべらない。口を動かすのが面倒だから。でもこれは何で?!と言わざるおえない。だって湯船に何もないから。


「クソッ!!」


 思わず壁を殴ってしまった。大丈夫。神力強化はしていない。でも・・・・・・悔しい、すごく悔しい・・・・・・

 

 僕は仕方がなくシャワーで済ませた。



 浴室から出て寝巻きに着替える。僕も浴衣だ。幼少からこのスタイルだ。仕方がない。ベットに戻ると陽射が髪に櫛を通していた。陽射の髪色は金色。それも太陽を連想させるような色だ。外国の血が混ざっているのでは無く、一族の遺伝というものだ。その金髪を大事にしていてあまり切ることが無い。でも腰のところまでの長さだ。かなり伸ばしてから一気に切るタイプなのだ。


「あがったよ」


 とりあえず報告、ドライヤーを借り髪を乾かす。その間はしばらく無言。乾かし終わったあと僕が口を開いた。


「明日の特別講師が終わったら、すぐに(なぎ)を迎えに行こう」


 陽射が驚いた様な顔で僕を見たあといつも通り、ニコッと笑い言った


「そうねぇ。久しぶりに会えるんだもの。迎えに行かなくちゃ!凪ちゃんも寂しがってると思うし」


 何だか嬉しそうな陽射。そして僕は明日のために寝る。合わせて陽射も横になる。僕は手元にあったリモコンで電気を消した。


「おやすみ夜空」


 おやすみ、この言葉だって当たり前の様に聞ける気がするけど、いつか当たり前ではなくなる時が来るのか。そう思うと言葉の大切さを痛感する。でも僕は口下手だから、だから普通に言う。


「うん。おやすみ陽射」


 今はこれで十分だ。



 

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