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第三話 変わらない日常(3)

 僕は今、自室にいる。二人部屋になっていてそこまで広くない。今は作戦を終えて母艦に帰ってきているのだ。作戦は一時間足らずで終了。やる事もないしただ床に腰を下ろしている。作戦は成功の範囲。A-2とは侵攻してくる敵をできる限り殲滅。深追いはしない。というもの。敵が引くのであれば戦線は維持できたということで作戦成功となるのだ。広田隊長も「目的は達成したし問題ないんじゃないか?」と言っていたし帰還することとなったのである。

 因みにこの部屋にはもうひとりいる。ルームメイトの村上(むらかみ) 弓斗(ゆみと)だ。いつも眠たそうな顔をしていて何事にもやる気がなさそうな人物である。さっきの戦闘で矢を射っていたのは弓斗だ。両親が弓道の教室を開いており、弓が得意。それが理由でいかにもな名前になってしまったそうだ。本人は嫌いではないらしい。


 弓斗は自分の机で本を読んでいた。厚いハードカバーの本で題は「現代の隠された戦争」。弓斗ってこんな勤勉だったのか。

 隠された戦争。それは公にできない何かがあるから起こしたものだ。きっと虐殺や一方的な侵攻とかそんなものばかり。そんなのがわかったからって今が変わるわけでもない。昔をさらけ出してもやってしまったことは決して覆せないのだから。


「隠された物かぁ・・・・・・」


 不意に言葉が出てしまった。僕も本を見たいと思わせるような独り言をいってしまった。でもあの弓斗だ。そのまま無視するだろう。


「・・・・・・・」

 

 いやこちらを見ていた。すっごい眠たそうな目でこちらを見ていた。僕の後ろを見ていると思ったけど、後ろには二段ベットしかない。眠たいからベットを見ているのかと一瞬考えたが明らかにこちらを見ている。目が合ってるし。


「夜空ってさぁ、神代・・・」


「邪魔するよーーー!!」

 

 いきなりドアが勢いよく開いた。見てみると蘭が両手を万歳してニコニコしていた。後ろには陽射がいる。


「・・・・・・何?」

 

 しらけた感じで聞いてみる。弓斗も顔をこちらに向けながら目だけドアの方を向いていた。

 

「休暇だってー!一週間後に進路を和歌山に向けるらしいよぉー!」


「・・・・・・そう」

 

 休暇かぁ。もうそんなに経ってたのか。毎日同じことの繰り返しだったが、久しぶりに違った日常が送れるわけだ。


「というわけで食堂行こう! 食堂!」

  

 そう言われれば夕食の時間になっていた。ちょっと早めだけどそっちの方が席が空いている。人ごみは大嫌いだから僕にとってはちょうどいい時間だ。そういえば弓斗が何か言いかけていたがまた後で聞こうと思う。そして弓斗と同時に立ち上がりドアまで歩いた。



◆変わらない日常(3)




 現在食堂の一番隅の席、四人で食事をしていた。僕の隣にはまたもや陽射、向かい側には弓斗、となりに蘭というお決まりのポジション。蘭はハンバーグセットという洋食派。他は全員白米に味噌汁、アジの干物とほうれん草のおひたし。完璧な和食セットだ。静かに食べている僕と陽射に対し二人はガツガツと食い散らかしている。弓斗は食べてる時だけ元気がいい。蘭も・・・まぁ言うまでもない。


「夜空さ~、男なんだから上品に食べてないでガッツクぐらいしなさいよ~。見なさいよ! この弓斗の目の見開き様。アンタも見習いなさい!」


 食べ方にいちゃもんを付けられた。蘭は食事時いっつもこう言ってくるのだ。飯ぐらい自由に食わせろ、全く・・・・・・。そして弓斗を見る。相変わらずいつもの時とは考えられないくらいの動きで食べている。本当だ・・・・・・目が血走ってるよ・・・・・・


「そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか」


「何? その一昔前のドラマのセリフ? 大体アンタねー、見た目が男か女か解らないのよ! 顔も髪型も体付きも! まずは根本から直しなさい!」


 意味が解らない。何故こんなに説教されているのだろう。顔は生まれ持ったもの、髪型はショートカットの女の子な感じ、これはいつも陽射に切ってもらっているから陽射に言ってくれ。体付きは神力で肉体強化してるから付けた筋肉は必要ないし。


「私は良いと思うよ。だって綺麗だもの。あなただって初めて会ったとき女性と間違えてたじゃない」


 陽射からフォローが入った。なんか助かります。そして最後に残った味噌汁を飲み干した。


「それと、私が切った髪型に文句を付けるのはやめてね。一番似合ってるんだから」

 

 そう微笑みながら優しく言った。のだが、その微笑みに影ができてるぞ・・・・・・ちょっと恐いし


「ヒィィッ!」


 蘭が奇声を発すると同時に隣で食事を終えて休んでいた弓斗何かを感じ取ったのかビクッとなった。


「そ、それにしても夜空は大人しすぎるからっ。あんまり喋んないし無表情だし、何か抱え込んでる見たいで・・・・・・だからついつい話しかけちゃうんだよね!」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 陽射と黙り込んでしまった。駄目だ。自分の抱え込んでいる事を思い出すと何も考えられなくなる。脳裏に浮かぶのはよく知る男性と女性の姿。そしてもう一人、少年の顔。やがてその人たちの姿が消えていく。視界が白くなり思考が止まっていく。

 

(やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ。止まるな、止まるな、止まるな、止まるな、止まるな、止まるな、止まるな)

 

 そう心の中で言い続けた。

 いつの間にか右手の甲に何か感じた。それで気が付く。陽射が手を重ねていた。いつの間にか強く握りしめていた手を優しく解いてくれる。そして手を握った。


「??」

 

 蘭がどうしたの? と問いかけるような表情で僕を見ていた。お互い気づかれない様に正面を向いたまま。しかもテーブルで手を握っているのは見えてなかったらしい。


「蘭ちゃん。誰でも何かに悩みながら生きていくものよ。それに夜空は小さい頃からこんな感じだったから、すごく大人しかったし」


「そうだねー。アタシも若かったころはよく悩んだよー」


 危なかった。何とか抑えることができたみたいだ。本当に陽射には助けられている。後は二人に悟られないよう調子を合わす。


「でも蘭は21歳だ。まだ若いと思うよ」


「そうよ。蘭ちゃんは全然若いからまだ悩める年頃よ」


「でも若いって言ってもさ~、チミ達より3つも年上だよ?絶対勝てないじゃん! それに21歳なんて全然行けてないもの! せいぜいモブキャラ止まりだもの!」

 

 何故か蘭から悲壮感が漂い始めた。でもいつも通りに戻れた。蘭は立派なムードメーカーだ。


「オレはオバサンも良いと思う」


「・・・・・・」


「・・・・・・」

 

 ふいに弓斗が発した言葉でまたもや沈黙。


「あはは! そーだよねー! オバサンのニーズもあるよねー! って誰がオバサンじゃーーー!!!!」


 最初はポンポンと軽く叩かれた弓斗の頭だったが最後にと言わんばかりのチョップが炸裂。そのままテーブルに顎を激突させ、テーブルとチョップに板挟み状態。


「アンタだって19じゃない! もうすぐオジサンよ! ホントに失礼しちゃうわ!」


 と言ってプンスカと食堂を出て行った。当の本人は気絶していて全く聞いてない。あのチョップは恐らく神力が使われていただろう。こんな所で蘭を本気にさせるなんて、差詰弓斗はムードブレイカーだ。


「行くよ。夜空」


「うん」


 そこでようやく手を離す。すると陽射の手が血が付いていた。不思議に思い自分の手のひらを確認すると血が出ていた。どうやら強く握り締めたとき爪を食い込ませてしまったらしい。気にすることではない。そのうち治る。

 そして席を立ち弓斗を尻目に食堂を出た。



 二人で廊下を静かに歩いていると先に陽射が口を開いた。


「今から私の部屋に来て」


 何をいきなり。どうせさっきの事でほおっておけないからとか言い出すんだろうに。だいたい女性自室区域に男が行ったらマズイだろ。しかも今はご立腹の蘭が部屋にいると思うし。


「いいよ。自分の部屋に戻るか・・・・・・」


「いいから来なさい」


 強引だ。強引すぎる。本当になんなんだ。思わず立ち止まってしまったじゃないか。まぁ昔から色々と引っ張り回されたっけ。

 こうして陽射のあとを付いて行くのであった。


 そして陽射の部屋の中。広さや家具の配置は男性の自室と変わらない。ここまで来るとき何人かとすれ違ったが何もなかった。

 僕は床に胡座をかいている状態、陽射は正面に正座している。


「両手、出して」


 そっちだったか。仕方ないので両手のひらを出す。


「別にあと30分もしたら傷は消えるんだ。陽射が治さなくても・・・」


「いいから!」


 陽射の声にちょっとだけ力が入っていた。そして両手を優しく握った。すると陽射の手が淡い光を放ち始める。これが陽射の治療術。患部に神力を送り込み、超微弱な刺激を与え細胞活性を促す。傷口ぐらいだったら物の数十秒で完全に塞がる。


「どうして?」

 

 僕は思わず問いかけてしまった。いや、理由は解ってる。


「私だけは違う。何があっても絶対にあなただけは見捨てない、一人にしない。前にも言ったでしょ?」


「一人にしない、かぁ・・・・・・」


「うん。一人にしない」


「そう、だね」


「はい! 終わり! もういいよ」


 そうして手を戻す。治ったかどうかは確認しない。陽射のことだから完璧に元通りなんだろう。


「気を付けなさいよ」


「わかってる」


「もし私がいない時にああなっても一人で抑えきれなきゃ駄目だからね」


「一人にしないんじゃなかったの?」


 ほんのちょっとだけ冗談交じりで言ってみた。


「ふふっ。冗談よ」


 冗談で返されてしまった。確かに幼少のころから今までずっと一緒にいた。親同士が決めた許嫁ということだ。当時の彼女には相当酷な話だったと思う。こんな僕の婚約者にされて・・・・・・

 でも陽射はいつも笑顔で側にいてくれた。今でも思う。本当に救われ続けてたんだと。だから僕は誓ったんだ。彼女は絶対に守り抜くと。


『第四小隊所属月神夜空、姫神陽射。至急、艦長室まで来なさい』


 突然放送が流れた。何の呼び出しだろうと考えながらも、とりあえず行くことにした。


「失礼します。」


 艦長室に入り艦長席の前まで行き二人で並ぶ。目の前にいる艦長兼小隊長殿は高級そうな椅子に座り、全裸で夕食を食べていた。


「お呼でしょうか、隊長殿」


「おぉ~悪いな~! わざわざ。てか何で敬語? いつもの様にタメ口で良いって~」

 

そう。とだけ返事を返した。隣では陽射が何故かニコニコにている。


「本部からの通信で至急二人に伝えなきゃならんことがあったのよ~」


 食べていたのはお子様プレートにしか見えないもの。隊長は少食だったのか・・・・・・知らなかった。


「え~とだなぁ、伝達内容はだなぁ~。チュルチュルッ」

 

 そういってミートソーススパゲティを啜っている。フォークがお子様用だ。全裸で大きい図体に小さなお子様用フォーク。完全なるミスマッチだ。これって本当にお子様プレートか?最後にゴクッと一呑み。


「本州に上陸した後、君たち二人はアジア支部クリエイト養成所で一日だけ特別講師をしてもらいたい」


 食べ終わったプレートを見るとかわいいクマの絵が付いていた。あらら。なんてことだ・・・・・・


「了解した」


 それだけ言って部屋を立ち去ろうとした。


「ちょっと待ってぇ~~!! 何のツッコミも無しなのぉ? これだけ恥ずかしい思いをしてボケたのに!」


 呼び止められてしまった。恥ずかしいならやらなければいいのに。仕方がない。一番気になったことを言おう。


「えぇと、意外と小さいんですね」


「そこじゃね~だろ! 見えないように机で隠してたじゃん! なんでそこにツッコむんだよ!」


 そう言って机をバンッと叩き立ち上がった。そのせいで出るものが出てしまっている。僕は透視能力で先に確認済みだ。


「あら! 本当に小さいんですね。夜空の半分くらいですよ」


「だからそこじゃないって! もうその話はやめてぇ~」


 しまった。突っ込む場所が違ってしまったらしい。隊長半泣き状態だ。というか隣の方はニコニコととんでもないことを仰ったぞ。

 なんだかかわいそうなので本命をつつくことにした。


「なんでお子様プレートなんですか?」


「そこでもねーよ! これはただ俺が少食なだけだよ! さっきから見てたのはそっちかよ! もっとあるだろ、ツッコむべきところが!」


 やっぱり少食だったらしい。士官なのにそんなので持つのかと疑問に思った。しかもまた外した。もうわからん・・・・・・というか、面倒くさい。


「行こうか」


 そう呟いて後ろを向く。いいかげん疲れてきたので二人で退室した。


「あぁ! 待って・・・」


 もう無視だ。ドアを閉める。

 艦長室出口の脇に蘭がいた。何故かジト目でこっちを見てる。ひょっとしてさっきのやり取りを見ていたのか。


「酷い・・・・・・酷すぎる・・・・・・なんであんな解りやすい隊長のボケが突っ込めないのよー?!」


 やっぱりそうだった。そうは言うがあれはどこから突っ込んでいいか難しいと思うぞ。


「なんで全裸なんだーーって言ってあげられないのっ?! アタシ何回も突っ込みそうになったんだから! 見損なったよ!」


 それだけ言って走っていってしまった。相変わらず一方的に喋っていってしまう。ツッコミが出来なかっただけで見損なわれてしまった。隣ではまだニコニコしてる陽射。


「ハァ・・」


 久しぶりにため息が出てしまった。



 途中で陽射と別れ僕は屋外に来ていた。海観賞用の小さなスペース。母艦を作ってくれた開発部のちょっとした気配りだ。

 そして上を見る。夜の空、名前と同じ。周りに光なんてないから星がハッキリと見える。空を見ると今日一日の出来事が浮かんでくる。いつもと変わらない一日だったけど、楽しい、そう思える一日でもあった。変な隊長に変な副隊長、変なルームメイトに変な幼馴染。そして、


「変なのは、僕もかぁ」

 

 見上げた空は、優しく光る星で綺麗に輝き続けていた。

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